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第808話 Silver(4)

――女優みたいに目鼻立ちが整ってるって意味じゃなくてさ、内面から表れてくる美しさっつうか。 「苦しいフォローだな。」 ――いや、本当だってば。大体、俺、自分はそこそこイケメンだと思ってるけど、自分の顔よりおまえの顔のほうが好きだぞ。 「なんだよ、それ。」涼矢は思わず笑ってしまう。「ナルシストなのか違うのか分かんねえな。」 ――ナルシストじゃねえよ。鏡見るよりおまえの顔見てるほうがいいっつってんだから。 「変なの。」 ――変じゃないし。 「俺が和樹の顔なら、一日中、鏡、眺めてるけど。」 ――うっとり? 「そう、うっとり。鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁれって。」 ――一日で髭生えるけどな、この白雪姫は。 「やだよ、そんな姫。」 ――しゃあねえだろ、涼矢くんと違って毛根が活発なんだから。 「白雪姫ってさ、もともとの話では、継母じゃなくて実の母親なんだってね。」 ――え、じゃあ実の母親が娘の美しさを妬んで殺そうとすんの? 「そう。」 ――うわ、えげつなっ。 「えげつないから、継母ってことになったらしいよ。」 ――継母なら仕方ないってわけじゃないけどな。 「実の親子だと、同族嫌悪みたいなものもあるんだろうな。自分と似ているから余計憎たらしい、みたいなさ。」 ――涼矢と佐江子さん、そんなに似てないよな。 「うん。親父とも似てない。」 ――でも、例のおじいさんに……。 「それは言うな。」  和樹の笑い声がする。 ――横顔は似てるよ、お父さんに。 「前も言ってたな、それ。」 ――そだっけ。 「和樹はお母さんそっくり。」 ――うん。親父の遺伝子どこ行ったって感じ。 「毛根じゃねえの。」 ――やめろ。それはどっちの家系もヤバイんだって。  今度は涼矢が笑う。 「大丈夫だって。ハゲでもデブでも嫌いにはなんないから。」 ――問題点はそこじゃねえんだよ。……今から対策しといたほうがいいのかなあ。 「いつも帽子を被ってるのはよくないんだろ? 蒸れるから。」 ――キャップはたまに被るけど、いつもじゃないからセーフかな。 「知らんわ。で、そんな話はどうでもよくて。」 ――ああ、そうだった。なんだっけ。白雪姫。 「違う、結婚式の写真。」 ――兄貴に言って見せてもらえよ。 「おたくのご両親の結婚式の写真見せてくださいって?」 ――うーん、いきなりおまえからそれ言うのはハードル高いか。じゃあ、とりあえず俺が兄貴に事情話しておくよ。 「おふくろとかには内緒で。宏樹さん、アリスさんの店、時々行ってくれてるみたいだから。」 ――ああ、了解。  そんなことでもなければ、実家に連絡することもめったにない和樹だった。翌日には宏樹とコンタクトを取り、一連の経緯を伝える。 ――あー、今、ちょうどアリスさんとこにいるんだよ。  と宏樹が言った。 「ああそう。そんなわけでアリスさんは知ってるけど、その他には言うなって口止めされてるんでよろしく。」 ――分かった。要はおふくろたちの結婚式の写真を涼矢に見せてやりゃいいんだな? 「そう。参考にしたいみたいだから。」 ――あんまり参考にはならないかもしれないぞ。 「なんで?」 ――派手なんだよ、うちの親の結婚式。風船で飾り付けとかしてて。涼矢のとこは、そういうノリじゃないだろ。 「なんでそんな派手な。」 ――知らないよ、そういうのが流行ってたんだろ。でもま、一応探しておくわ。それにしても、ご両親の銀婚式祝ってあげるなんて、涼矢も親孝行だなあ。 「うちは何婚式?」 ――そう言えばうちも銀婚式ぐらいじゃないか? だって俺が生まれる1年前に結婚してんだから。 「だったら俺たちもなんかしてあげんの?」 ――何も考えてなかったなあ。 「俺も。」思えば涼矢からそんな話を聞かされても、自分の身に置き換えて親を祝おうとは全く思いついていなかった。

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