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第811話 Silver(7)

 そのページには、宮脇の主催するサークル紹介があり、学園祭では、同性愛者であることをカミングアウトした有名人が登壇するシンポジウムや、資料の展示を行うといったことが書かれていた。 「へえ。」 「すごいよねえ、ミヤちゃんて。」 「うん、いろんな経験積んでそう。」 「それもそうだけど、なんていうのかなあ、こういう、行動力。」 「サークル作ったこと? こういう企画をすること?」 「うん、それもそうだし、去年のミスターコンテストね、あれ、引っ掻き回されて運営側としては迷惑だったけど、でも、ああいう時でもなければ、あの話題を伝えられる場ってなかなかないじゃない? ミヤちゃん、あんなことしたら迷惑かけることも怒られることも分かってたと思うのよ。でも、それより大事なことだったんだと思うんだ、ミヤちゃんにとっては。そういう、自分の信じるもののために突っ走れるのがすごいと思って。」 「彩乃ちゃん、去年はあんなに怒ってたのに。」 「そうね。だって実際迷惑だったもの。先輩にも学校側にもスポンサーさんにも謝りまくったわよ。でも、中には、あれがすごく良かったって言ってくださる方もいたの。それも一人じゃなくて。最近の学生はみんな良い子ちゃんでおもしろくないと思っていたけど、骨のある子もいるもんだねって。……私は、それが悔しかった。」 「悔しい?」 「大学入った時はいろんな主張があった。私、校則がやたらと厳しい高校で、親も厳しくて、不満がいっぱいあったし、大学生になったらもっと自由に言いたいこと言うんだって思ってた。学祭サークル入ったのだってそう、ここに入れば、なんかできそうって思ったから。でも、いつの間にかそういう気持ちは萎えてて、良い子ちゃんになってて、ミヤちゃん見た時、だから、悔しかったの。私だって本当はそうしたかったって。ミヤちゃんだけ狡いって思った。だからあんなに腹が立ったの。」 「自分に腹立ててたんだ?」 「そう。」 「そうか。」  会話しながらも次々と封入作業を終えていく彩乃に対して、和樹はしゃべるか作業するかのどちらかしかできず、目の前のノルマは一向に減らない。 「半分もらうわ。」彩乃がその封入物と封筒をさらっていく。 「あ、ごめん。」  何か返事をしたかったものの、それではこのノルマは減らないままだ。和樹は目の前の作業を優先することにした。彩乃のほうも特に和樹の返答を欲している様子はなく、淡々と続きの作業をした。  一区切りついたところで、和樹は休憩と称して部室を出た。ふと宮脇に会いたくなったが、新設の弱小サークルに部室はない。スマホでメッセージを送ると、カフェテリアにいるという返事が来た。カフェテリアは学食よりは小規模で、ランチタイム以外はちょっとした憩いのスペースとなっており、部室のないサークルの集まりに使われることも多い。  和樹はカフェテリアに向かった。 「ミーヤちゃん。久しぶり。」和樹はカフェテリアに入るなり、すぐにその姿を見つけた。 「わあ、トックン。元気してた?」 「うん、元気元気。」小脇に挟んでおいた学祭のパンフレットを宮脇に渡す。「これ、今年の。ミヤちゃんのサークルも載ってた。」 「もらっていいの?」 「いいよ、もちろん。」  宮脇は今日もパステルカラーの服だが、装飾は控えめだ。髪は明るい茶色にして、上はふわふわのパーマだが、下のほうは刈り上げのツーブロックヘア。水色のフレームの眼鏡は伊達だろうか。 「載ってる載ってる。」宮脇は掲載ページを見つけると、隣に座っている女の子にそれを指で指し示し、言われたほうもうんうんと嬉しそうにそのページを見る。その女の子には見覚えがあった。 「あっ、都倉先輩、座ってください。」立ったままの和樹にその子が声をかけたが、近くに空席はないので、その子自身が立ち上がろうとしている。 「いや、いいよ、すぐ戻らなきゃなんないんで。今、それの封入作業とかやってて。」 「そんな時期よねえ。」宮脇は懐かしそうにする。「そうそう、このパンフの原稿ね、琴音ちゃんが描いてくれたんだぁ。イラスト、上手でしょ?」  琴音ちゃん。その名を聞いてうっすらと思い出した。春のサークル勧誘の時に宮脇が連れていた子だ。 「うん、上手いね。すごい。」と和樹は言った。 「いえ、全然。」と琴音は恥ずかしそうに謙遜した。「宮脇先輩のほうがずっと上手いです、ほんとは。」 「やだあ、この子ったら。……あ、そうそう、紹介しとくね。」  宮脇は近くの席にいた数人を和樹に紹介した。それがサークルで何かしらの「役」がついているメンバーで、その他に10人以上並んでいるのは一般のサークル員、今日この場には来ていない人も含めれば30名ほどもいると言う。今年発足したばかりだから一年生が多いが、三、四年生もいるらしい。 「で、こちらはトックン。僕の彼氏。」 「ミヤちゃん!」和樹は慌ててそれを否定する声を出す。 「というのは残念ながら嘘で、僕が前にいた学祭実行委員会の子ね。都倉くん。去年の学祭見てくれた人は知ってると思うけど。」

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