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第9話 ひとり暮らし(2)
――男。
「ゲイ?」
――自分でそう言ってたから、そうなんじゃない?
「え、ちょま、何それ。聞いてないんだけど。」
――別に言う必要ないかと思って。
「ちゃんと話せ。最初から。」
――講義で、前回欠席したから、その時のノートをコピーさせてくれないかって言って来た奴がいたんだよ。そいつも俺もいつも前のほうに座ってるんだけど、そんなに真面目に聞く学生は少ない講義だからさ、前のほうが定位置の奴はだいたい顔はお互い知ってる感じで。それで、いいよって、一緒にコピー取りに行って、その流れで学食でメシ食うことになって、その時に言われた。
「いきなり? つきあおうって?」
――ん、まあ、そうかな。
「そんな軽く言えるもんなの?」
――人によるんじゃないの。そいつは言えるんだろ。
「マジかよ。で、涼矢こそ、なんでそれを俺にしゃあしゃあと言えるの。」
――和樹が話せって言ったんだろ。それに、別にやましいことはしてないよ。そう言われたって、ごめんなさい彼氏いるんで、って言って終了。
「彼氏いるって言ったの?」
――言った。
「そいつとは、その後、変な感じになってないの?」
――なってないよ。別の講義でも同じのとってるのわかって、たまに一緒に勉強してる。普通に友達っつうか、そいつも司法試験目指してるみたいだから、ゼミ入るならどこがいいかとか、そんな話をしたり。ああ、そう、つい最近、そいつも彼氏出来たって言ってたな。
「え、何、何それ。そんなオープンにしてるの? その、俺とのこととか。」
――オープンていうか……聞かれたら答えてるってだけ。つきあってる人いるの?って聞かれたらいるって言うし、彼女いる?って聞かれたら彼氏がいるって言ってる。別にみんな、それ以上聞いてこないよ。最初の頃はごまかしてたんだけど、合コンとか誘われる時に断る理由をいちいち考えるのが面倒で。だからたぶん、そのコピーの奴も、俺がゲイだっての、どこかで聞いて知ってたんじゃないかな。
「……なんかショック。」
――なんで。
「先越された。俺さ、東京のほうがそういうの進んでて、大学ではいちいちカミングアウトとか意識しなくてもいいのかなあ、なんてちょっと思ってたんだよ。でも、そうでもなくて、言うタイミング外して、結局まだ大学の奴らには誰にも言えてない。」
――別にいいんじゃない。それで平和なキャンパスライフが送れるなら。俺、別に気にしないよ。内緒にされても、彼女ってことにされても。
「今日送ったエミリとの写真だって、誰かに彼女見せてって言われた時のカモフラージュ用で。いや、それはエミリと冗談半分で言ってただけで、おまえのこと隠したいとか、そういうんじゃないけど。」
――カモフラージュでも何でも好きにすればいいけどさ、和樹こそ、よくああいう写真を俺に送れるよなって思ったよ。でも、ま、意外とよく撮れてたから削除するのはやめた。
「エミリだろ? 化粧で化けてるんだ。」
――違う、和樹。顔見るの、久しぶりだし。
「え、俺?」
――悪いがエミリ部分は速攻でトリミングした。
「……まさかとは思うけど、それを待ち受けにしたりとか?」
――してないよ。
「良かった。」
――パソコンの壁紙にした。
「……。」
――愛してるからね、和樹。
「この流れで言われるとちょっとこえーわ。」
――そう言えば、今日は久しぶりの一人寝だね。
「エミリとは別々に寝てたっつの、ずっと一人だよ。」
――でも、エミリがいたらできないこともあっただろ?
グッと言葉に詰まる和樹。
――ワンルームなんだろ? どうしてたの。
「そりゃ、まあ、風呂場ぐらいしかねえよな。」
――浴室って、声、響いちゃわない?
「そんなに大声出さねえよ。」
――ふぅん。まあ、声を我慢するのも、なかなかそそられるものではあるけど…。
「何なんだよ、さっきから。」
――和樹の声が聞きたいなぁって言ってる。俺に本当に申し訳ないとか感謝とか思ってるんなら、そのぐらいしてくれてもいいと思うんだけど?
「聞いてるだろ、今。ほら、よく聞けよ、あーあーあー!」
――それ、天然で言ってんの? そういう意味じゃないってわかってんだろ。
「じゃあテレフォンセックスでもする?」
――え、やだよ。
「嫌なのかよ。」
――そんなの、煽られるばっかりで余計欲求不満になる。
「そうかなあ。」
――やりたいの?
「うん。」
――じゃあ聞いててやるから、一人でしなよ。
「はい?」
――たまに合いの手ぐらい入れてやる。
「合いの手って何だよ。」
――気持ちいい? とか イキそう? とか。ほかにリクエストがあるならどうぞ。
「ねえよ、ていうか嫌だよ、そんなの。俺一人でなんて。」
――そう、じゃ、やめよ。
「……。」和樹はそれまで床にあぐらをかいて会話をしていたが、立ち上がり、ベッドに座りなおした。「どうすりゃいいの。スマホ持ってるから片手しか使えねえけど。」
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