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第827話 Smile!!(2)

「うん、そういうのもあるよ、レンタル専門店なら。ちゃんと年相応のデザインも揃ってるし。私が知ってるお店はね。」千佳がスマホで検索を始める。 「利用したことあるの? そういうレンタル。」 「姉さんたちが友達の結婚式に行く時に使ってるんだ。私はそれを選ぶのをつきあってるだけなんだけど。上の姉さんがね、仲良しグループが立て続けに結婚したことがあって、着る服が毎回同じってわけには行かないからって使い始めて。結構可愛いのもいっぱいあるから、サイト見てるだけでも楽しい。」 「可愛くなくていい。おばさんだから。」 「そんな風に言わないの。……さっき見せてもらったサイズだと、お母さん、かなり細身よねえ。背はあまり高くない?」 「そうだね、千佳と同じぐらい。」 「涼矢くんは大きいのに。」 「そこは父親似らしい。」 「そうなんだあ。」と言いながらも、指先は素早く動き、佐江子に見合ったワンピースなりドレスなりを検索しているようだ。「でも、なんで私?」 「何が?」 「ウェディングドレス相談。私、割といつもこんなじゃない?」千佳は自分の服装を手で示す。シンプルなシャツに細身のパンツスタイル。普段の千佳も似たような服装だ。「響子のほうがガーリッシュな服着てるのに。」 「ああ、そうだなぁ……。」涼矢は考え込んだ。千佳の指摘を受けて初めて気が付いたことで、特にはっきりとした理由があったわけではないのだ。答えを待つ間もスマホを操作している千佳。そのスマホのケースにはクリスタルのストーンがついていて、角度が変わるごとにキラキラと反射する。「その飾りって、自分でつけたの?」 「ん? ああ、スマホのこれ? そう。ただビーズ買ってきて、貼り付けただけよ。」 「前にもそういう。……あ、そうだ、哲の。」 「哲ちゃん?」 「本をさ、プレゼントした時に、きれいに包んでて。」 「ああ、あれ? そんなすごいことはしてないけど、ラッピングしたり、カードをデコったりするのは好きなんだ。」 「物を作るのが好きなのかと思って。」  千佳は笑った。「本のラッピングとウェディングドレスじゃ全然違うじゃない。」 「違うけど、何かヒントは知ってる気がしたから。実際知ってた。」 「レンタルドレス屋さんのこと? 単なる偶然だよ。」千佳の手が止まる。「ねえ、これなんかどう?」  千佳が指で示した写真は、白いイブニングドレスだった。全体的に細身で、丈は長く、デコルテにはレースがあしらわれて、素肌が多少透ける。 「大袈裟じゃない?」 「主役でしょ、地味なぐらいよ。細いからってだぼっとしたもの着ると野暮ったいし、肩や首は思い切り出したほうが顔が小さく見えていいんだけど、年齢は首筋や二の腕に出るから、お母さん気にするんじゃないかと思って。それで、このデザインだとそういうところは、レースで誤魔化せるでしょ?」 「……なんだか分かんないけど、じゃあ、それにする。」 「分かってよ、もう。」千佳は呆れたように笑いながらも、「ここのアドレス、送っておくね。」と言う。 「うん、サンキュ。」 「他にもいろいろあるから、見てみて。」 「これにする。」 「もう。」千佳はもう一度そう言い、それから「お祝いの席には和樹くんも来るの?」と聞いた。 「それは難しいかな。」 「ご両親は二人のこと、知らないんだっけ?」 「うちは知ってるけど、向こうは知らない。」 「そっか。」 「ん。だから、呼びにくい。呼べば来てくれると思うし、親も別にいいよって言いそうだけど、うちの親が普通に接するほど、あいつは却って気にするっていうか。」 「涼矢くんは、呼びたいの?」 「え。」 「重要なのはそこでしょ。」 「……考えてなかった。」 「そうかな。呼んだらどうなるって想像してたんじゃないの。」 「一瞬よぎっただけ。第一、うちの親のことだし。」 「だから関係ないの?」 「わざわざ巻き込む必要もない。」 「ふうん。ま、いっけどね。」千佳はまたスマホを操作して、ドレスのページを行ったり来たりしている。 「なんか変なこと言ってる? 俺。」 「別にそういうこともないけど。まあ、私だって、もし彼氏がいて、その親の銀婚式のお祝いの席に誘われたって、行きたいとは思わないもんね、普通に考えて。」  普通に考えて、という千佳の言葉に引っかかる。  いつも、その言葉には振り回される。"普通"。和樹もよく言っていた。「普通はこうする」……。そう言えば最近は和樹の口から聞かなくなった気もする。 「俺たちは普通じゃないから?」 「うーん。悪い意味で言ってるんじゃないんだ。ただ、正直、涼矢くんたちみたいなケースをね、そんな風に見てくれてるご両親ってそんなに多くないと思う。だから、巻き込むって言い方だと語弊があるけど、せっかくそういう場があるなら、和樹くんを迎え入れるのも悪くないんじゃないかなあって。」千佳はそこでスマホから目を離し、涼矢を見た。「彼も家族の一員だったらいいなって、思わない? 私、さっき自分だったら誘われても行かないって言ったけど、もしよ、もし、婚約とかしてて、そのご両親のこともお義父(とう)さんお義母(かあ)さんって呼ぶのが決まってたら、誘ってほしいし、喜んでお祝いに行く。」

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