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第11話 ひとり暮らし(4)

 慌ててティッシュを使ったものの、片手では上手くさばけず、一部が飛び散ってあたりを汚した。和樹はいったんスマホを置いて、周囲とペニスを拭き取った。それからスマホを再度手にする。 「あー、ごめん、ちょっと、大惨事が起きたから後始末してた。」 ――うん、なんか、察した。 「結局俺だけ?」 ――危なかったけど耐えた。 「耐えるなよ。」 ――だって今のは、和樹へのお仕置きだもの。 「だったら余計、俺だけイクの、おかしいだろ。」 ――あ、そっか。これじゃお仕置きじゃなくてご褒美だな。 「それも違う気がするけど。……おまえは聞いてるだけで良かったわけ?」 ――まあ、いつでも再生可能だから。後でゆっくり堪能させてもらう。 「……は?」 ――講義とか勉強会とかね、割と録音したりするんだよね、俺。だから大事な音声はつい無意識に録音スイッチ入れちゃう。 「てめっ。」 ――データのコピー、要る? 「要るか。消せよ、それ。すぐに!」 ――やだよ。これで夏休みまでしのぐんだから。 「ふざけんな。……ていうか、本当に夏休みなのかよ、次、会えるの? 夏休み前でも週末とかに来るって言ってなかった?」 ――思ったより用事が入っちゃって。7月に入ったら試験だし。1、2年のうちに取れる単位全部取ろうと思ってるから、試験も多くて。行けるとしたら、早くて7月の最終週……あ、でも、8月の上旬は車の合宿免許の予約入れちゃってて……キャンセルしようと思えばできるけど……。 「えー。」和樹は不満を隠さなかった。「じゃ、もういいよ、8月の後半に来いよ。お盆外して、その後。9月まで休み、あんだろ?」 ――和樹は帰省しないの? 「おまえがもっと早く来ると思ってたからさ、だったら夏休みは俺のほうがそっち帰ってもいいかなって思ってたけど、そんなんだったら、夏は帰らない。」 ――すねるなよ。 「すねるよ! こんなことまでさせられてさ。」 ――だったら言わせてもらうけど。言うつもりなかったけど。行くつもりだったんだよ、先週末あたり。 「え……?」 ――その話しようと思った矢先にエミリの件だったんだから、仕方ないだろ。すねたいのはこっちだよ。 「マジで?」 ――ああ。 「……ごめん。」 ――ま、免許取ることについては俺の都合だから、勝手に予約までして、悪いとは思ってるよ。でも問い合わせたら、夏休み中の合宿免許、満員寸前だったから、焦っちゃってさ。 「……わかったよ。」涼矢の住んでいるところ、つまりそれは和樹の実家がある市でもあるのだが、そこは車社会で、免許なしでは何かと不便であることは和樹だって知っている。 ――俺だって会いたいよ。 「うん。……涼矢の誕生日も一緒にいられないな?」涼矢は7月7日生まれだ。 ――それは、もともと試験中だし、あきらめてたけど。 「何か欲しいものある?」 ――ピアス。 「それは誕プレじゃなくて、あげるから。」離れ離れになるならば、せめて2人でお揃いのピアスをしよう。そう言って、上京の直前に2人同時にピアス穴を開けた。今つけているのはまだその時のファーストピアスで、セカンドピアスは和樹が用意すると約束していた。 ――うーん。特に思いつかないなあ。あげたいものはいろいろあるけど。 「俺に? 何を?」 ――じゃあ、もしいいのあったら送るよ。 「だから何をだよ。ていうか、おまえの誕プレはどうすんだよ。」 ――いろんなシチュエーションの和樹のエロボイスのデータでも送って。 「……。」 ――動画でもいい。 「涼矢くん、そういう下品な発言はもういいから。」 ――結構本気で言ってるけど。 「だから嫌なんだよ。」 ――だって欲しいものなんて、和樹以外ないから。 「……それも本気で言ってたりする?」 ――もちろん。 「おまえって、そういうとこあるよな。ま、何か欲しいもの思いついたら、教えて。」 ――だから、かず  涼矢の言葉にかぶせて和樹が言う。「俺はもう、とっくにおまえのものだから、それとピアス以外で。」 ――本気で言ってる? 「もちろん。」 ――ふは。 「変な風に笑うなよ。」 ――考えとく。欲しいもの。 「うん。じゃ、おやすみ。」 ――おやすみ。

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