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第13話 待ち人来る(2)
「おめでとう。プレゼント、1個追加だね。免許取得祝い。」
――いいよ、そんなの。
「車はどうするの。」
――ある。
「買ってもらったの?」
――いや、親父の。親父は単身赴任先で乗ってる別のがあるから、家のは傷まないようにたまにおふくろが乗るぐらいで、ほったらかしだったんだよ。おふくろ、左ハンドルは嫌いだから、これからはそれ、俺が乗れってさ。要は押し付けられたんだ。」
「……左ハンドル、押し付けられた……。俺なら大喜びだけどな。」
――期待すんなよ、外車ったって、古いし、そんな高いクラスじゃないから。
「あれ? でも、前にお父さんがうちに迎えに来てくれた時に乗ってたのって、違うよな?」
以前、涼矢の父親が単身赴任先から一時的に戻ってきていた時、涼矢と一緒に食事に連れ出してもらったことがある。その時、田崎氏は和樹を車で送迎してくれたのだ。ドレスコードがあるような高級ホテルのレストランと言われ、車もとんでもない高級外車ではないかと身構えていたら、一般的な国産車でホッとした記憶がよみがえった。
――あの時のは、おふくろの車。
「あ、ああそう……。そんなに広い駐車場、あったっけ。」和樹は田崎家の間取りを思い出そうとしたが、駐車場の記憶がまったくなかった。
――ガレージは地下だし、裏の道のほうに出るから、和樹は見たことないかも。
涼矢についてはだいぶ知り尽くした気になっていたが、ゲイの同級生に言い寄られていたことと言い、次々知らないことが飛び出てきて、すっかり自信喪失する和樹だった。
「最初に助手席に乗るのは、俺だからね。」
――あ、ごめん、とりあえず明日から、練習がてらおふくろを送迎することになってる。
「うーん、そうか。ま、身内は許す。」ますます意気消沈する和樹。それでも、無事に免許も取れた今、いよいよ涼矢と会う日が近づいたのは間違いのないことだった。
――それでさ、せっかくだから車で東京まで行こうかとも思ったんだけど、さすがにいきなり長距離は不安だし。
「それ以前に俺んち近辺は車は却って面倒くせえぞ。停めるとこもない。あっても駐車料金めっちゃ高い。」
――だろ? だから、普通に電車で行くよ。お盆明けって言ってたけど、19日か20日か、そのあたりでいい?
「うん。いつでもいい。東京駅まで迎えに行くよ。」
――ありがと。電車の時間とか、また連絡する。
「了解。」
切ってから、プレゼントのリクエストを聞くのを忘れたことに気が付いた。まあ、涼矢のことだから、「欲しいけど買えない物」なんてないんだろう。あったとしても、涼矢に手が届かない価格帯なら、俺には到底買えるわけがない。10日やそこらバイトしたところで。
さっきまで「バイトして、ちょっと高級なプレゼントを」なんて思っていた自分が情けなくなってくる。涼矢はそんなことで俺を見下したりはしない。それは分かってるけど。
それから、もうひとつの気がかりを思い出した。今日、留守中にポストに入っていた不在票。帰宅したのは既に夜だったから、とりあえず翌日夜に再配達の依頼をした。差出人は涼矢。中身は雑貨としか書いていない。その内容を涼矢に聞くのも忘れていた。ま、いいか。明日になりゃ分かるだろ。
翌日の昼、和樹はとりあえず約束のピアスを買いに行った。どういうのを選べばいいのか、皆目見当がつかない。今までつきあってきた女の子にアクセサリーを買う時にはデパートで買っていたから、その習慣でデパートに向かう。ネット通販もあるけど、やっぱり自分の目で確かめたい。初めて涼矢に渡すことになる、大事なもんだし。ただ、アクセサリー売り場に並んでいるアイテムのほとんどは女性向けで、男性用は、ブライダル品をはじめとしたペアリングが主流のようだった。店員に男性向けのアクセサリーはないかを尋ねると、メンズファッションのフロアにアクセサリーショップがあり、男性向けならそちらのほうが種類が充実していると教えられた。自分用も含め、男のためのアクセサリーを買ったことなんかないから、思いつかなかったな、と和樹は思った。
教えてもらったショップで、和樹は一目で「これ」と思うピアスを見つけた。最初に涼矢がお揃いのピアスを提案してきた時、あるバンドマンの名前を挙げて、彼がつけているピアスが格好いいと言っていたのだ。店頭のそのピアスは、おそらくそのバンドマンがつけているのと同じブランドのもので、デザインのテイストが良く似ていた。
「これ、2つ。ひとつはプレゼント用で。」和樹は、自分とさほど年の変わらなさそうな男性の店員にそう告げた。男向けのデザインのピアスを2つ、自分が両耳つけるのではなく、ひとつは誰かに。それを店員に変な風に思われやしないかと少し気になった。でも、「変な風」で正解なんだ。そうだよ、男同士でペアでつけるんだよ、悪いか、と、別に何か言われたわけでもないのに、勝手に1人でケンカを売っては開き直る和樹だった。
実際は、当然のことながら店員は何もおかしな素振りを見せず、営業スマイルをたたえたまま、「かしこまりました。包装してまいりますので、こちらの番号札お持ちになって、お待ちください。」とプラスチックの番号札を渡すのみだった。
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