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第14話 待ち人来る(3)

 店内をぶらつきながら、包装が仕上がるのを待っている時に、近くを男2人が通り過ぎるのが目に入った。30歳前後に見えるヒゲ面の男と、もう少し若そうなメガネをかけた青年だ。2人は手をつないでいた。和樹はその時、このデパートからさほど離れていないところに、日本一有名な「ゲイタウン」があることを思い出した。  ああ、そうか。別にそういうの、珍しくもないのか。 「12番でお待ちのお客様。ご用意できました。」  和樹はカウンターに品物を取りに行く。 「こちらがご自宅用で、こちらがプレゼント用となっております。お渡し用の袋をおひとつおつけしますね。」流れるように語る店員も、アクセサリーショップの店員らしく、男性ながらたくさんのアクセサリーを身に着けていた。左手の薬指にもリングが光っていたが、太くてごついデザインで、結婚指輪にしてはカジュアルだ。  もしかして、この人も、彼氏とのペアリングだったりして? まあ、いいか、そんな、他人のことなんか。 「お待たせいたしました。ありがとうございます。」丁寧なお辞儀を受けながら、紙袋を受け取った。  昇る時にはエレベーターで上がったが、下りはエスカレーターで降りることにした。単にそちらのほうがショップから近かったからだ。  ひとつ下ると、インテリア用品や生活雑貨のフロアだった。和樹はそのフロアも見て回ることにした。ピアスは買ったから、次は誕生日プレゼントだ。何か涼矢向きのものがあるかもしれない。リクエストは聞いてないけれど、おそらく涼矢に聞いても「何でもいい」的な回答しかない気がした。  クッションやフェイクグリーンなどを見た後、キッチン雑貨のコーナーが目に付いた。料理好きの涼矢だから、そういうものでもいいかもしれないなあ、と思う。ただ、和樹が調理用品を見たところで、何が何だかわからない。  そのうち、食器売り場にさしかかった。ああ、そう言えば俺んち、食器類、ほとんどないんだよな。100均で適当に揃えればいいかと思ってたけど、結局それすらも買っていなくて、引っ越しの時に家から持ってきた、コップ1個と平たい皿1枚、小ぶりの丼1個、それでほぼすべてを賄っている。それを知ったエミリなんか、寝袋を借りた友達に、ついでにキャンプ用の入れ子式の皿セットも借りて、それを使っていた。もちろんそれも寝袋と一緒に回収されていったから、既に部屋にはない。涼矢が来た時、それじゃ困るよな。  和樹は、コンセプトが「新婚向け」と思われる、ペアの食器シリーズが並べられた一角の前にたたずんだ。  ピアスもお揃いなんだし、ペアの食器というのも、ウケるかも。それで、2つともうちに置いておいて、涼矢が来た時に、使わせる。いつでも来ていいんだって気持ちを込めて。  和樹は自分の思い付きに満足した。そして、そのシリーズから、マグカップと、大小の平皿、スープボウル、それからカトラリーをペアで買った。 「贈り物ですか?」と尋ねられた。誕生日プレゼントだからと思い、はい、と答えた。「お熨斗は、いかがいたしましょうか。ご結婚のお祝いでいらっしゃいますか?」  そう言われて、そりゃあそう思われるよな、と納得した。ペアの食器セットなんだから。 「どんな種類があるんですか?」和樹は、熨斗の存在は知っているが、それをつけるような贈り物を自分で手配したことはなかった。 「ご結婚ですと、こちらの、"御結婚祝"か、"寿"のお熨斗をご用意しております。それ以外ですと、お祝いの内容によって、"内祝"ですとか"御出産祝"ですとか、または、限定せずに"御祝"のみのものもございます。」店員は熨斗のサンプルを見せながら説明してくれた。 「えっと、そういうのなしで、リボンだけってのもできます?」 「はい、できますよ。」 「それでお願いします。」 「かしこまりました。こちらは配送でよろしいでしょうか?」 「いえ、手で持ち帰ります。」 「かなり重いですけど……。」心配そうに見上げる美人店員。だが、せっかくのバイト料を配送料ごときには使いたくない和樹だった。 「持ち帰ります。大丈夫です。」 「かしこまりました。少々お時間いただきますが、よろしいですか?」  待ちます、と答えると、店員はバックヤードへと消えて行った。さっきのピアスよりもだいぶ長く待たされた後、何重にも厳重に包装された品物が出てきた。品物本体の何倍も大きくなって、結構な大荷物に見える。 「念のため、紙袋を二重にさせていただきましたが……。」  和樹はそっと持ち上げてみる。見た目ほど重くはない。「大丈夫です。」 「割れ物ですので、お気を付けて、お持ちくださいませ。」  見た目ほど重くはない。そう思って大きな紙袋を抱えて帰途についた和樹だったが、駅のホームに立つ頃には若干後悔していた。紙袋の細い持ち手が徐々に食い込み、重量感を増していたのだった。それでも電車の床に直置きしたりはせずに、なんとか手で持ったまま、自宅まで持ち帰った。玄関までたどり着いた時には、ホッとしたあまり、うっかり勢いよく置いてしまうところだった。ここまで頑張って持ち帰った食器を、ここで割るわけには行かない。すんでのところで和樹はキープして、無事にそっと置くことに成功した。お気をつけて、お持ちくださいませ。美人店員の声が頭の中でリピートした。

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