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第15話 待ち人来る(4)
和樹は涼矢にメッセージを送った。
[誕プレ購入完了。今更あれが欲しいこれが欲しい言ってもダメ]
[中身は行ってのお楽しみ?]
[うん]
[俺からのプレゼントは届いた?]
[届いてたみたいだけど受け取れてない 今日の夜再配達してもらう 何あれ]
[それは開けてのお楽しみ]
[嫌な予感しかしねー]
[笑]
夜になり、指定した時間になってすぐ、ドアホンが鳴った。出ると、果たして宅配便だ。
そんなに大きい箱ではない。重くもない。無地の段ボールの外箱から伝わる情報もない。和樹はベリベリとガムテープをはがした。
「ん? なんだ、これ?」
はじめはヘッドフォンだと思った。だが、違うようだ。それはスマホをハンズフリーで使用できるようにするためのヘッドセットだった。なんでこんなものを?
不思議がる和樹は、箱の中にさらにもうひとつ何かが入っていることに気が付いた。何かの部品のように見えるが、分からない。パッケージの商品名と説明書きを見て、ようやくそれが何であるかを知った。知った瞬間に、反射的に箱の中に投げ捨てるように戻した。
「あの馬鹿、何考えてんだよっ!」一人暮らしを始めてから独り言が増えた気はするが、ここまでの大声で言ったことは、今まで一度もない。
電話をかけて文句を言ってやろう。そう思ってスマホを手にしたが、浴びせる罵声をどうしようなどと考え出してしまったからいけない。和樹は悶々としながら、狭い部屋をぐるぐると歩き回った。そして、もう一度、その品物を手にして、凝視した。
こんなもんを、どうしろと……いや、用途はひとつしかねえけどよ……。
少しだけ冷静さを取り戻して、パッケージから出してみた。ベッドに座り、顔の先まで近づけて改めてじっと見つめる。
これが、入るの? いや、入るよな。だって涼矢のが入るぐらいなんだから……。
和樹は深呼吸を数回してから、おもむろに涼矢に電話をかけた。かけておきながら、風呂か何かで、涼矢が電話に出られなければいいと思った。しかし、願い虚しく、涼矢はすぐに電話に出た。
「涼矢くん。」
――ん?
「プレゼント、ありがとう。」
――ああ、届いた?
「あのね。まず、ヘッドセットはどういう意味?」
――この前の時、片手だとキツそうだったじゃない?
「……やっぱりそれ?」
――うん。高音質のコードレスタイプにしたよ。
「高級品をありがとう。」
――いやいや。
「それと。もうひとつのほう。」
――うん。気に入ってもらえた?
「んなわけねえだろ!」和樹は声を荒げた。
――えー、なんで? やっぱり大きいサイズのほうが良かった? でも、初めてだろうから小さいほうがいいかなって。
「サイズの問題じゃねえっ。」
――じゃあ、何の問題?
「……これを俺にどうしろと。」
――どうしろって、俺が行くまでの間に準備しといてってことだけど? 本当は俺が初めてを手伝ってあげたかったんだけど、それじゃ慣らしてるうちにまた帰らなくちゃならないかもしれないから。」
「おまえはこういうの、使ったこと、あるの?」
――アナルプラグ? あるわけないだろ。
「さらっと言いやがって。で、自分は使ったことないって。それで俺に使えって。送料までかけて何送ってきてるんだよ!」つい、送料を節約して重い食器を手で持ち帰ったことまで恨み言に追加してしまう。
――不満が多いね。和樹のためにと思ったのになあ。
「お、俺のためって、これ涼矢の趣味だろっ。」
――それは否定しないけど、和樹のためってのも、本当だよ。俺が嫌がらせでそんなもの送ると思うの?
「……。」そう言われてしまうと言い返せない。言い返せないが、何か間違っている気がしてならない。
――嫌だったら使わなくていいし。
「使うか!」
――ごめん。
予想外に素直に謝られて、和樹は戸惑った。なんだよ、その反応。俺が一方的に怒ってるみたいじゃないか。別に涼矢、悪いことしたわけじゃないのに……。いやいやいや、ここでほだされちゃダメだ、悪いことじゃないけど、俺の気持ちを無視したプレゼントは、やっぱり怒って当然だろう。
「だいたい、どんなツラして買うんだよ、こんなの。」
――ネット購入だから、別にツラは関係ない。
「俺の個人情報にこういうものを買った履歴がつくんじゃないの?」
――そんなことないと思うし、もしあるとしても、俺の名前だから。それぞれ別のショップで買ったのを俺がまとめなおして送ったんで。さすがにヘッドセットとアナルプラグを一度に買える店はなくて。
「そんな手間暇かけて、これか。」
――気に入ってもらえないのは残念だけど、選ぶのは結構楽しかったからいいよ。処分は任せる。
「……おまえ、ずるいよ。そんな言われ方したら、俺がすげえひどいこと言ってるみたいじゃない。」
――そんなことないよ。ごめん、俺が一方的に送っただけだから、気にするな。ホントに、捨てるなり何なり好きにしてもらっていいから。
「だから、そういうとこだよ! そんな風に言われたら、俺だって、ちょっとは、その。」
――え。
「ちょっとは、使ってみたり……する、か、も……いや、しないかもしれないけど! もしかしたらの話で!」
――もしかしたら、を、期待するでもなく、期待しておく。
「……また結局おまえのペースかよ。」
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