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第834話 Smile!!(9)

 布団にもぐりこみ、横になる。  涼矢との電話の後、すぐにシャワーに入り、準備も済ませた。「動作確認」の準備だ。せっかく隠し場所も決まったところではあるが、やはり使ってみないことには始まらない。湯上りの全裸のまま、和樹は再び「それ」を取り出して、今、こうして対峙している。  ほぼ毎晩、涼矢とは電話する。かつては電話は苦手だと言っていた涼矢だが、和樹の経済的負担を軽減するため、涼矢からかけてくることがほとんどだ。大抵は大した話はしないし、ものの五分で切ってしまうけれど、たまに盛り上がって一時間近くも話すこともある。  そんな日の、電話を終えた瞬間だ。一時間スマホを持っていた手のだるさと、耳元に残っている涼矢の声。それらの余韻にふと欲情する。  いつも通りに前をしごくだけでも、それなりに達することはできる。でも、それは単なる排泄行為と変わらなかった。涼矢との電話の余韻が強く後を引いているような夜は、それだけで終えることがひどく虚しい。いつの間にか後孔にも指を伸ばすようになった。しかしそれもまた涼矢の代わりにはならないことを思い知らされるばかりで、一時的な性欲解消にはなっても満たされはしない。  枕元にバイブレーターを置く。あまりリアルな造形ではないものを選んだし、元は女性向けの可愛らしいピンク色だから、パッと見はそんな性具には見えない。――ということはなかった。どう見ても、「これ」はそういう用途のものだ。  こういった道具は使ったことがない。元カノのミサキとは性に溺れた一週間はあったものの、やっていたことは単純で、ただひたすら回数をこなしたくらいのものだ。縛られるのも目隠しされるのも、当然アナルプラグなんてものを使うのも、涼矢が初めてだ。 ――こんなもん使うなんて、おまえのせいだからな。  和樹は勝手に涼矢に責任を被せつつ、ローションを自分の後孔に使う。目の前のバイブはまだスイッチが入っておらず、オブジェのように置かれているだけだが、それをこれからここに挿入するのだと思ったら、急に欲情した。 「あ……んっ……」まだ指で慣らしているだけの段階なのに、声が出てしまう。  その時、また電話が鳴った。和樹は文字通りに飛び上がって驚いた。発信者は当然のように涼矢だった。 「何。」前置きなく、いきなりそう言って出た。 ――さっきの週末の話。俺、車で行くから。 「あ、そう。」 ――そのほうが帰りの時間気にしなくて済むし。 「分かった。」 ――なんだよ、素っ気ないなあ。あ、もう寝てた? 「寝てないよ。」 ――じゃあオナニーの邪魔でもした?  涼矢は笑って言った。もちろん、冗談のつもりで言ったのだろうけれど。 「ちょうどいいや、おまえ相手しろよ。」気恥ずかしさも手伝って、和樹は必要以上に強気な声でそう言った。 ――え、ほんとにそうだった? 「ダメなのかよ。」 ――いや、大歓迎だけど。で、テレホンセックス? 「嫌ならいい。」 ――嫌なわけないだろ。で、もう、始めてるんだよな、そっちは。 「余計なこと言うな。萎える。」 ――ベッド? 「ああ。」 ――裸? 「ああ。」 ――さすが裸族。で、どんなこと考えてたの? 「るせえな。」 ――うるさいって、テレホンセックスで黙ってたらわけ分かんないだろ。 「……おまえのことに決まってんだろ、って言ってるんだよ。」 ――じゃあそう言ってよ。俺のこと考えてたって。  その声だけで充分だ、と和樹は思った。スマホをハンズフリーにする。ペニスを握りながら、もう一度あのバイブを見る。涼矢の声があるなら、バイブを挿入せずとも指だけでもイケそうな気がした。 「涼矢のこと考えてた。今も考えてる。だからそっちもさっさと勃てろ。」 ――さっさと、って……。そんなにすぐ欲しいの? 「ん。」 ――え、もしかしてもう、指、挿れてる? 「挿れてる。」  テレホンセックスは既に何度もしていた。和樹から誘うこともあれば涼矢から誘われることもあったけれど、いずれにせよ流れは大体決まっていて、指を挿入するのは最後の段階だ。 ――ちゃんと濡らした? 「ローション。」  和樹が単語レベルの応答しかできなくなるのが「いよいよ」の合図なのだけれど、今日は早くもそこまで来ている。 ――もう後ろじゃないとイケなくなっちゃったね。  涼矢がそんなことを言った。後ろじゃないとイケないし、指じゃもう物足りない、と和樹は思う。――だから、こんなものを。 「指、やだ。」 ――え? 「届かない。」 ――うん、そうだね。和樹、前立腺のとこも好きだけど、奥も好きだもんね。奥、自分の指じゃ届かないもんね。  自分の指が届かないのもそうだけれど、涼矢の指だって細過ぎて、自分の中を満たしてはくれない。 「挿れてほし……。」  和樹はついにバイブを手にして、ゆっくりと後孔に当てた。スイッチは入れない。妙な電動音を涼矢に聞かせたくなかった。 ――和樹がエッチだから、もう勃っちゃった。挿れてあげるから、力抜いて。  涼矢の声を聞きながら、バイブを中に押し込んでいった。

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