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第835話 Smile!!(10)

「あ、あ、涼矢ぁっ、待って、ちょっ……。」  サイズとしては、目算ではあるが涼矢のそれよりは小さいものを選んだつもりだ。でも、久しぶりに自分の指より太いものを入れれば、さすがにきつい。 ――和樹、なんか、今日、激し……。  その理由を知らない涼矢の声も上ずり始めていた。 「待って、まだ、だめっ……。」 ――待てないのはそっちだろ。  本音を漏らしているのか、そうやって和樹を煽っているのか、和樹にも涼矢自身にも分からなかった。 「だって。」  和樹は反論を試みるも、「今日バイブが届いたから」とは言えず、黙り込んでしまった。その沈黙をどうとらえたのか、涼矢はさっきとは打って変わって優しい声で言う。 ――会ったら、いっぱいしような。 「ん。」  会ったら。  実際に会ったなら、こんなものは使わない。その時には、涼矢のペニスをここに。ここの、奥まで。和樹はそう思いながらバイブを更に奥に挿入する。それでもまだ途中だ。「早く、来て。」早く会いたいという話をしているのか、今すぐ挿入しろと要求しているのか。そのどちらも正直な気持ちで、だから、その声には自ずと熱がこもる。 ――和樹、やっぱ……いつもと、違う。ほんとに……セックス、してる、みたい。  荒い息のせいで途切れ途切れになりながら、涼矢が言う。いつもと違うと指摘されてほんの少し焦るが、言い訳を考える余裕もない。 「涼矢は? 涼矢、気持ちいい?」 ――うん。和樹が煽るから。ね、動くよ? 「ん。」和樹は自分の下半身に掛け布団を被せた。そうして少しでも音が漏れないようにと気を付けながら、そっとバイブのスイッチを入れる。とりあえずは一番弱く。「ひ、あっ、ああっ、んっ。」それでも喘ぎ声が口をついて出た。 ――もっと、声、聞かせて。  いつもよりも喘いでいるはずなのに、涼矢は「もっと」と言う。いくら激しくしても、その次の瞬間には「もっと」と思う、その気持ちは和樹にも分かる。 「りょ、あ、あっ、きもちい、あ、あ、だめ、イキそ……。」 ――まだだめ、もうちょっと我慢して。 「やだ、イク。」  バイブはまだ半ばまでしか埋まっていないはずだった。使用後には水洗いもできると書いてあったそれは、だが、少し不安があって念のためコンドームを被せておいたから、そのゴムの感触でどこまで挿入しているかの見当はつく。 ――も、少し、我慢して。まだ、イかないで。  もう少し長くこの状況を楽しみたく、引き延ばしを図る涼矢だったが、手の届かないところにいる和樹のことはどうにもしようがない。 「むり、イク、涼、イッていい?」 ――だめだって言ってるだろ。 「やだ、イク、あ、あ、んっ……ああっ!」 ――ちょ、早えよ。  涼矢の批難の声も空しく、電話口からは、和樹の果てた気配と徐々に落ち着いていく呼吸音だけが伝わってきた。それも場合によっては昂奮しただろうが、今の状況ではあまりにも自分だけがないがしろにされている気がして、涼矢のほうも冷めてしまう。  完全に落ち着きを取り戻し、一人で勝手にいわゆる「賢者タイム」を迎えたであろう和樹が言う。「悪ぃ。うち来たら、サービスするからさ。」 ――今どうにかしてくれよ、今! 「おまえだって今すぐ来いっつったのに、土曜日に来るんだろ。お互い様。」 ――全然お互い様じゃねえよ。 「愛してるよ、涼矢。それは土曜日までとっといて。」 ――とっとけるか、馬鹿。 「なんでもしてやるからさ。」  和樹の調子のいい言葉に、涼矢は声を詰まらせた。口先であしらわれているのは分かっている。が、そんなの嘘だと言ってしまったら嘘にされてしまう。和樹の浮薄さを責めるより、逃げ場を封じたほうが得策だと思う。 ――忘れるなよ、その言葉。おまえに何してもらうか、これからじっくり考えるからな。  案の定、慌てたのは和樹だった。 「や、物事には限度ってもんが。」 ――おまえのせいなんだから、そっちが言うなよ。 「悪かったって。あ、そうだ、チューしてやっから。」和樹は大袈裟にリップ音を立てた。 ――余計腹立つ。 「ちゃんとシーツ洗って待ってるから。」 ――そんなの当たり前だ。詫びにも何にもならない。  一向に機嫌を直さない涼矢に、和樹はそこまでひどいことをしただろうかと自問自答して、「した」という答えにたどりつく。どうにかしなければと焦るが、今更もう一度やり直すわけにも行かず、つい、さっきまで頭を占めていた、一番の懸念事項が口をつく。 「悪かったってば。今日はさ、ちょっとその、いつも違ったことしてたから、余裕なかった。」 ――いつもと違うこと?  涼矢が間髪入れずに聞き返してきて、和樹は激しく後悔したものの、かといって他にこの場の打開策も思いつかない。 「ちょっとな、あの、グッズを。」 ――グッズ。 「大人の。」 ――はい? 「言わせんな。察しろよ。」 ――俺があげたプラグじゃなくて? 「じゃなくて。ほら、よくある、あれですよ。電動の。」 ――え、まさか買ったの? 自分で? 「悪いかよ。」

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