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第839話 Smile!!(14)
「俺は後でやるから。」涼矢は和樹の耳元に囁いた。「これで終わりのつもりじゃないよな? 後回しの分もあるもんな?」
その耳が真っ赤になる。「一回目を始める前から言うんじゃねえよ。」
「一回目ということは、やっぱり二回目も。」
「黙れよ。」和樹はキスで涼矢の口を塞いだ。そして、頬や耳にもキスを繰り返しながら、片手を涼矢の股間に持っていく。「もう勃起してる。」と、ちょうど目の前にある涼矢の耳に囁いた。
「するよ。でも、俺は一人で先にイッたりはしないから。」涼矢は自らベルトを緩めた。
「だから、それは悪かったって。」
「先にイクのはともかく、自分が誘っておいて、一方的に終わらせるなんてありえないよね。」
「ごめんて。」言いながら、和樹は涼矢が下半身を露わにしていくのを手伝う。涼矢が腰を浮かせると、ズボンを下着ごとつかんで下ろす。膝まで下ろしたところで涼矢の前に回り込み、膝の間に入り込むようにしゃがんだ。「やりづらいから、全部脱げ。」そう言うと同時に、それらを完全に脱がせてしまう。「もう少し、前来て。」
涼矢はベッドの端に腰掛けたまま前へとずれる。眼前に差し出されたそれを、和樹は右手で根元を支えるようにしつつ、口に含む。涼矢の眉間に皺が寄る。もちろん不快なのではなく、その逆だ。
しばし口の中でそれを舐った後、和樹は一瞬口を離して、「イイ顔。」と笑った。その後は煽るような上目遣いで涼矢を見ながら、舌先を使ってみせた。
「おまえこそ、今自分がどういう顔してるか分かってんの。」涼矢は上気した頬で言う。それから和樹の髪を撫で、こめかみのあたりを手で覆った。「そっちは、触んなくていいの? キツくない?」
「ん。」和樹はフェラチオを続けながら、自分のハーフパンツに片手をつっこむ。
「うっわ、エッロい眺め。」自分の股間に見える和樹の口元と、その先に見える、ズボンの中で蠢く和樹の手元。涼矢にそう言われてうつむこうとする和樹を、その耳を引っ張り上げるようにして上向かせる。「俺から目ぇ逸らしちゃダメ。」
「変態。」と和樹は毒づく。
「うん、変態でも何でもいいからちゃんと続けて。手も口も止めないで。」
「おまえな。」
「リクエストしろって言うから言ってるんだよ、黙ってやってよ。」
和樹は言い返せず、再びそれを口に含んだ。すかさず「自分のもちゃんと触って。」などと言う涼矢を睨みつけながら、言われた通りにする。
そんなことを言う涼矢だが、余裕があるというわけでもなさそうだ。頬はますます紅潮しているし、次第に息も上がっていく。何より和樹に目を逸らすなと言ったのは自分のくせに、時折何かに耐えるようにぎゅっと目をつぶる。口に手を当て、声が漏れるのを防ごうともしている。
「口がだりぃ。」和樹は涼矢のペニスから離れる。「顎が疲れる。デカいんだよ。」
涼矢は目を開けた。「それ、褒めてんの?」声がかすれる。「つか、またここで生殺しかよ。」
「生殺しになんかしねえよ。」和樹は口に含むのではなく、舌先で舐め始めた。すっぽりと咥えこまれた時ほどの直接的な刺激はないものの、涼矢からの視界としては数倍淫靡に見えた。添えている左手の位置を変えつつ、涼矢のペニスの至る所を舌先と唇で愛撫する。右手は相変わらずハーフパンツの中にあるが、さっきほどには動いていないように見える。だが下半身全体ではもぞもぞと落ち着きがなく、腰が浮きかけてはまた沈む。
そんな和樹を涼矢は見逃さなかった。「後ろ、淋しくなっちゃった?」
「あ?」舌先を亀頭に置いたまま、和樹が間の抜けた声を出す。
「そわそわしてる。」
「んなこと……。」
下を向こうとする和樹を、涼矢は再び上向かせる。「だから、俺から目を逸らすなってば。」
「疲れるんだよ、この角度。」和樹はわざとらしく首をストレッチするように伸ばした。
「そう? じゃあ、違うことしようか。」
「違う……こと?」
「うん。そこにね、四つん這いになって。」
「へ?」
「バックでやるだけだよ。」
「……。」和樹は腑に落ちないながらも、これも言われた通りにした。後背位自体は何度もしたことがある。ただ、こんな風に命令のように予告されたことはない。
涼矢はその脇に座り、少しも躊躇することなく、すぐに和樹のそこに指を当てがった。だが、挿入はしない。「ねえ、ほぐす必要ある?」
「バッ……そういうこと言うな。」
「今更指なんてまどろっこしいんじゃないの。」
和樹は無言だ。無言でいることだけがささやかな抵抗の証だ。しかし、涼矢がそれを気にかけることはなかった。
「だってもうヒクヒクしてるし?」
「黙れよ。」
涼矢は、ふ、と笑った。「一度言ってみたかったセリフがあってさ。」そう言って和樹の後ろに回る。
「な、なんだよ。」
「口ではそう言っても、体は正直だな。」棒読みで涼矢は言った。これが「言ってみたかったセリフ」らしい。
「おま、何言って……うあっ。」
涼矢の指がいきなり二本、入ってくる。痛くはないが、驚きで一瞬身を固くする。
「ほら、全然余裕。」涼矢の嘲笑にも似た声が響く。
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