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第840話 Smile!!(15)

「よゆ……なん」余裕なんかない。そう言いたいのだろうということは涼矢にも伝わった。かと言って指の力を弱めるようなことはしないけれど。そのうち和樹の声がひときわ高くなる箇所にたどりつく。「あっ、やっ……!」 「ここ、好きだね?」 「ん、あっ、だめ、あ、あっ……。」 「先にイクなよ。」 「……ゆっくり、して。」 「なんで?」 「イキそ……なる、から……。」 「指だけで? バイブまで使ってるくせに?」 「……。」和樹は唇を噛んで耐える。涼矢からの直截な煽りと、快感に流されないように。 「こんなんじゃ物足りないでしょ。増やすね。」涼矢は容赦なく指を三本に増やした。和樹の身体がビクンとのけぞる。 「あ、ちょっ……待って……あ、だめ、涼、そこ、だめ、いいっ。」 「だめなの? いいの?」涼矢は半笑いで聞く。 「やだ、も、あ、あんっ、あ、あ、あっ。」突っ伏していた和樹が、どうにか涼矢を振り返った。切なそうな、あるいはねだるような表情だ。「涼。」 「指じゃ足りない?」 「ちがう……。」和樹は小さく首を振る。「顔、見せて。見ながらして。」  涼矢の手が止まる。少し面食らったようにきょとんとしてから、笑った。「ずるいよなあ、和樹さんは。」涼矢はいったん指を抜き、立ち上がる。床の上に膝をついていた和樹に手を差し伸べ、ベッドの上に誘う。 「なん、なにが。」どこかぼんやりとしたまま、和樹は誘われるがままにベッドに上り、自ら仰向けに横たわると、両手を広げて涼矢を求めた。 「可愛いから。」涼矢が和樹の腕に飛び込むようにして、二人は抱き合った。「和樹は可愛いよ。」額に口づけ、優しく微笑む。「大好き。愛してる。」 「俺も。」 「顔、見える?」至近距離で涼矢が聞く。  和樹は笑い、「見えないからもっと近くに来て。」と言った。 「これ以上近づいたらキスしちゃうよ。」 「しようよ。」和樹は涼矢の両耳に手を当てて、自分に引き寄せる。そして、そのままキスをした。「好きだよ。」 「で、顔見ながら、挿れてほしいの?」 「うん。……あ。」早速涼矢の指が股間をまさぐったので、和樹は反射的に目をつぶる。 「目、つぶったら見えないよ?」 「ん。」和樹は目を開けた。涼矢に弄られて、喘ぎ声を上げながら、涼矢を見る。「あ、あ、そこ、あっ……。」 「ここは?」涼矢はアナルのほうにも指を伸ばした。  和樹は頷いた。 「もう、挿れていい?」  これにもまた、頷いた。頷きながら、ちゃんと言葉にしろと涼矢に言われるのだろうと思った。――黙ってちゃ分からないよ。ここをどうしてほしいの? ちゃんとおねだりしてごらん。今まで言われた数々の言葉が脳裏をよぎる。  だが予想に反して、涼矢は何も言わなかった。黙ってコンドームをつけている。ふいに和樹は思い出した。バイブの場所を移すのを忘れていた。せっかくシンク下といううってつけのスペースを見つけたというのに。 「それ、どこにあった……?」だからバイブは、コンドームやローションと一緒に、このベッドの下にあるはずなのだ。 「それって、コンドームのこと?」 「そう。」 「持ってきたやつだけど? おまえを見習って、いつでもすぐ使えるように持ち歩いてた。」 「ああ、そう……。」和樹はホッとする。 「なんでそんなこと?」 「なんでもない。」和樹は涼矢に考える隙を与えまいと抱きついた。「いいから、早く。」 「ん。」  涼矢がゆっくりと和樹の中に入って行った。 「もっと……来て。」焦れったそうに和樹が言う。 「さっきはゆっくりしろって言った。」 「いいから、好きに動いて。」 「本当に?」  返事より先に和樹のそこがきゅんと締まる。「い……いよ。」  涼矢は和樹を抱え込むように抱く。「じゃあ、言って。ガンガン突いて、って。」 「またそういうことを……。言わねえよ。」 「まあ、言わなくても分かるけどね。和樹のここ、すげえ欲しがってる。」涼矢は和樹の耳元で囁く。「ほら、また締まった。もっと奥がいい? それとも手前のとこ、こする?」 「好きにしろってば。」 「好きにしてる。和樹を気持ちよくさせたい。」 「……気持ちいい、から。」和樹は涼矢の首に腕を絡め、涼矢の肩に顔を乗せるように強く抱き寄せた。密着したいだけでなく、そうすることで涼矢に顔を見せないようにしたのだった。「いいから、突いて。もっと。」そんな言葉を吐く自分の顔を見られたくなかった。 「もっと?」涼矢の動きが激しくなる。 「ん、もっと、ガンガン、して、奥も、ぜんぶ、涼矢ので、あ、あんっ、い、いい……。」そんな風に喘ぎ、痴態を晒していることを自覚したくなかった。 「和樹の中、気持ちいい。」 「うん、俺も、気持ちい。」 「好きだよ。」  俺も好きだよ。そう言おうとした時に、一層激しく貫かれた。「ああっ、や、だめ、あ、涼っ……!」しかし、自分か放つより先に、体の奥に熱が注がれるのを感じる。それは、く、という苦悶に似た喘ぎが涼矢の口から洩れるのと同時だった。涼矢が自分の中で、好きだよと言いながら、自分より先に果てた。そのことが無性に嬉しくて、和樹も続けて射精した。

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