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第841話 Smile!!(16)

「好きだよ、涼矢。」まだ中に涼矢がいる。果ててなお、さほど萎えてはいないようだ。そして、もう少しそのままでいてほしかった。和樹は涼矢の両頬に手を添えて口づける。 「こういうの、トコロテンって言うんだっけ?」和樹としてはそれなりにロマンチックな瞬間だと思ったのに、それには不似合いなセリフを涼矢が言った。 「え?」 「だからほら、こう、突いたら、こっちからも出る。」しかもジェスチャー付きだ。左手の指で輪を作ると、そこに右手の人差し指を通して見せる。 「おまえ、最低だな。」笑いながら、和樹は身体を起こす。涼矢のペニスが抜けないように気を付けつつ、涼矢にも体を起こすように促した。繋がったままの対面座位だ。和樹はのけぞり気味になり、その結合部分を涼矢に見せつけるようにしながら、腰を動かし始める。 「おい、すごい絶景なのは嬉しいんだけど……このまま続きやれって?」 「無理?」挑発するように笑う。「また勃ってるのに?」 「和樹が大丈夫かなって心配してんの。」 「ここまでさせといて?」和樹は後ろに手をつき、М字開脚で涼矢を煽った。次の瞬間、「んっ」と呻いて更にのけぞった。体内の涼矢のそれが、硬く、大きくなったのが分かったからだ。 「ほんとに、好きにするよ?」  じゃあさっきのは何だったのかと言いたくなるが、涼矢に腰を抱かれがっちり固定されながら下から突かれると、そんなこともどうでもよくなる和樹だった。  そんなことばかりしていたら、いつの間にか夕食には遅い時間となった。二人並んでベッドに全裸で横たわりながら、今から作るのも面倒だから出前でも取るかと涼矢が言えば、配達に来る人にこんな姿は見せたくないし、かと言ってわざわざそのために着替えるのも面倒だと和樹が言った。 「俺らの共通点て、もしや、面倒くさがりなところか?」と涼矢が言い、笑った。 「そうかもな。それ以外はあんまり……。あれ、でも、そうでもないか。背格好は似てるんじゃないの。」 「それを言うなら水泳やってたとか、高校も同じだとか、いろいろあるけど。俺が言いたいのは、性格的な面。」 「セックスが好きなとこ。」  涼矢はむせるように笑った。  和樹は続ける。「でも、それも別に特徴ではないよなあ。誰だって好きだろ、そんなもん。」 「好きでも、相手がいなくちゃね。」 「相手がいても、すぐヤレるところにいなくちゃね。」和樹は涼矢の横顔を見る。その視線に気づいた涼矢も、和樹を見る。 「卒業まであと二年半、か。」 「遠いな。」 「遠い。」 「しかもおまえ、上京するにしたって弁護士になれるまで一緒には住んでくれないんだろ?」 「まあね。けど、今よりはずっと近くにいるようにするから。」 「近くにいるつもりなら同棲で良くない?」和樹は思わず口にした「同棲」という言葉に、自分がドキリとした。それ以前に、こんな甘ったるい願望をためらいなく言ってしまった自分にも。 「……そうしたいけど、目の前にいたら自制できる自信がない。」 「だったら、ちゃんとそれぞれの個室のあるとこ探せばいい。おまえが部屋で勉強している時は邪魔しないようにするし。家賃だって食費だって、別々に住むより安上がりだろ?」涼矢にとって家賃や食費は問題ではないのだろうけれど、と思いながら和樹は言う。何か合理的な理由があれば涼矢の気も変わるかもしれないと期待して。  涼矢がふいに和樹の手を握った。「うん。ありがと、そう言ってくれて。……少し考えてはみるけど、でも……あまり期待しないで。」 「なんでだよ。」 「怖いから。」 「は?」 「そう何もかもうまく行ったら、叶う夢も叶わなくなる気がするんだ。」涼矢は和樹から天井へと視線を移動させる。「和樹とつきあえるだけでも夢みたいなのに、一緒に暮らすなんてさ。そんな良いことばっかり続いたら、その分バランス取って悪いことが起きそう。」 「司法試験落ちるとか?」 「縁起でもないこと言うなよ。そうなったら嫌だから同棲はしないでおくって言ってんだよ。」 「ごめん。」和樹は苦笑した。それから、何かを思い出しそうな感覚が押し寄せてきた。今の会話で何を思い出すのだろう。同棲。夢。司法試験。出てきた単語を頭の中に順に思い返しながら考える。「あ。」 「何?」 「涼矢って、意外と縁起とか神様とか、そういうの気にするよな?」 「そうか?」 「だって、前にPランド行った時。卒業したすぐ後の時な。ハート型の石を二人で探しに行っただろ。あの時、おまえはエミリからピンポイントで場所聞いてて知ってたのに、ヒントだけで俺に探させた。それならズルじゃないから神様も認めてくれるとか言って。」 「あったっけ。」 「はぁ、忘れたわけ?」 「や、石のことは覚えてるよ。和樹が探してくれたのも。でも、俺、神様がどうこうなんて言ったか?」 「言った。」 「……そっか。」涼矢は考え込む。だが、結局はっきりとは思い出せなかった。「あの日はいろいろテンパってたからなあ。」  和樹は吹き出す。「確かに、あの時のおまえは変だった。」 「だってそれは……。」

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