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第27話 GINGER ALE(4)

「久しぶりだからもたねえ。」涼矢は和樹の隣に体を横たえて、まだ肩で息をしていた。 「運動不足じゃないの。それに、また痩せたんじゃない? 俺はちゃんと鍛えてるよ。ほら、今すぐにもスイミングコーチできるこの体。」 「あー。さっき、めっちゃカッコ良かったわマジで。大胸筋から前鋸筋にかけての筋肉の流れがエロくてヤバかった。」遮光カーテンの掃き出し窓とは別に、キッチンのほうにも明かりとり程度の窓がある。そこからの光が、やんわりと2人の身体を映していた。 「マニアックな萌え方してるな。」 「スイミングコーチか……。そのバイト、これからもまたやるってことはないよね?」 「うん。単発バイトだから。」 「それなら良かった。」 「なんで?」 「水泳コーチが体中にキスマークつけとくわけに行かねえだろ。」 「……そんなについてないけど。」和樹は腕や腹などを確認した。 「これからつけるんだよ。2週間、たっぷりとね。」 「スケベ。」 「おまえこそ。なんなの、さっきの、身も蓋もない煽りっぷりは。」 「ちゃんと煽られてたくせに。」 「当たり前だろ。」 「当たり前なのか?」 「和樹があんな表情で言えば、何言われたって煽られるよ。それが般若心経でもね。」 「もっかいする?」 「久しぶりなんだからさ、もうちょっとじっくり感動を味わわせてよ。いきなりそんな大安売りしないで。」涼矢は和樹の頬に口づけた。それから起き上がって、ベッドに腰掛けた。  和樹も起き上がり、ベッドから降りた。「シャワー先に使う。」 「あー。しっかり洗ってきてね。」  バスルームから出てきた和樹は、全裸のままで、キッチンに置いたコーラを口にしていた。「うわ、ぬるいし気が抜けちゃってるわ。ほとんど残ってたのに、もったいないことした。」 「缶コーラひとつに生活感あふれるコメントだな。」涼矢は笑いながら和樹のところに来た。ほんの数歩の距離だが。「それで鶏肉でも煮るかな。」 「え、何それ。」 「コーラで煮ると柔らかく煮えるんだよ。砂糖入れなくても済むし。」 「主婦の知恵かよ。そっちのほうが生活感あふれてないか?」 「そうだな。」二人で笑う。  和樹は涼矢にキスをした。「なあ、来た時も思ったんだけど。」 「何?」 「涼矢、背、伸びてない?」 「あ、わかる? 大学の身体測定でさ、2センチ伸びてた。183。」 「4か月で2センチ伸びたのかよ。」 「4か月どころじゃないよ、身体測定は4月にやったんだから。俺もびっくり。心当たりはあるけど。」 「心当たりってなんだよ? 俺もそれやる。」和樹は測定結果は、高3時点と変わらず、178センチのままだった。 「整体。」 「整体?」 「受験のあたりから、肩凝りとか腰痛とか結構きつくて。そのあとも、パソコンに何時間も向かってたせいもあると思うけど。で、整体に行ったら、少し猫背気味だねーって言われて、バキバキっとされた。……ら、2センチアップ。でも、和樹はもともと姿勢いいし、運動続けてるから、整体受けてもあんまり変わらないんじゃない?」 「ええー。俺も背高くなりたい。」 「充分背高い部類だろ。」 「涼矢との差が開く……。」 「嫌なの?」 「嫌だよ。」 「俺はもっと差があるほうがいいなあ。」 「なんでだよ。」 「キスしやすい。」 「同じぐらいのほうがしやすいだろ。」 「違う、挿れてる時。今、体勢的に若干キツイ。そっちもだろうけど。」 「ああ、なるほど。ってな、おまえ、そこ基準かよ。」 「うん。」 「……。まあ、でも、おまえがそれ以上劇的に伸びることも、俺が縮むこともないから、あきらめろ。」 「わかった、じっくりキスしたい時は座ってやる。座位を求められたらキスしたいんだなって思って。」 「何がわかったんだよ。」 「ああ、でも毎回じっくりキスしたいな、どうしよう。毎回座位というのも……。」 「人の話を聞け。ひとりで妄想の世界に入り込むな。」

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