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第28話 GINGER ALE(5)
「和樹と会ったらやりたいと思ってたことが多すぎて整理がつかない。」
「それってセックス関連以外のこともあんの?」
涼矢は顎に手を当てて、考え込んだ。
「ねえのかよ!」
「いや、あるよ。あるある。」
「本当か? 言ってみろよ。」
「でも、一番のは、もうやっちゃったし。……和樹の住んでる町を、2人で、歩きたいって思ってた。」
和樹は呆気に取られる。それから、涼矢の頬を軽くつねるようにひっぱった。「どうしておまえは、時々そういう可愛いことを言うのかねえ。」
「あと、料理食べさせたいとか。お風呂に入れたいとか。」
「おかんか。……いや待て、風呂に一緒に入りたい、じゃなくて入れたい、のか?」
「そう。和樹を隅々まで洗ってあげたいと。なのに既にひとりでシャワ浣までやるようになっていたなんて、母さんショック。」
「てめえのせいだろうが。」そう言いながら、涼矢が何も疑問を持たずに「シャワ浣」なる単語を理解していることに軽いショックを受ける和樹だった。――俺は今回初めて知り得た単語なのに。
涼矢は笑って、床の脱ぎ捨てた服を手にした。「汗で湿ってるし、またこれ着る気しないな。」そう言って、キャリーケースから着替えらしきものを出し始めた。
「洗濯しちゃっていいなら、洗濯機の横のカゴん中入れといて。」
「さっき和樹が靴下入れてたやつな。お父さんの靴下と一緒に洗ってほしくないけど、仕方ない。」
「誰がお父さんだ。」和樹は涼矢の尻を蹴る真似をした。
「全裸の時に攻撃するのやめて。」
「もう、部屋にいる間は服着なくていいんじゃねえ?」
「裸族か。」
「俺、休みに入ってからは割と裸族生活送ってる。洗濯ものが減る。」
「シャワー出ても一向に服を着ないと思っていたら、ナチュラルに裸族だからか。でも、僕はそういうことはきっちりしたいほうなので、服は着ます。」
「僕て。」和樹は笑う。「まあ、確かにきっちりしてる気はするけど。」
「実はこういうTシャツもあんまり好きじゃない。襟のある服が好き。一番好きな家事は料理よりもアイロン掛け。」
「マジか。じゃあ、ここにいる間の洗濯係に任命する。」
「話聞いてたか? 俺が好きなのはアイロン掛けであって洗濯じゃねえ。それにどうせ料理係もやらせる気だろ? そんで、さっきのベッド下見たら、掃除もせざるを得ない。俺はおまえの家政婦じゃねえぞ。」
「俺が頼んだのは洗濯だけだ。他はおまえが勝手に。」
「シャワー。」涼矢は和樹を無視してバスルームに向かった。
バスルームから出てきた涼矢は、宣言通りにきちんと服を着ていた。和樹はパンツだけを辛うじて身に着けている。
「思い出した。おまえ、俺んちでもパンイチでウロウロしてたな。キスマークだらけで、佐江子さんの前で。」佐江子さんというのは涼矢の母親のことだ。
「あまり思い出したくねえな。」
「自分ちでも裸族だったの。」
「いや、全然。おふくろが基本いるし、兄貴もあんな見た目だけど、そういうとこおまえと同じできっちりしてたから、あんまり家の中で裸でウロウロする雰囲気はなかったな。一人暮らししてから知ったこの解放感。」
「隠れ裸族だったんだ。でも、着てたほうがいいよ。」
「なんで。」
「脱がせる楽しみがあるから。」
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