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第844話 fall in love(3)
「再結成でもした時には、一緒にライブ行こう。」と和樹が言った。
「解散のニュースが出たばかりで、再結成?」
「きっとするよ、だって、あのボーカルにはあのギターだろ、どう考えても。長くやってるから、ちょっと離れてみたくなったんだろうけど、どうせすぐ元鞘におさまるって。」
「それも元鞘って言うの?」涼矢は笑った。
「ドラムとベースは何人かメンバーチェンジしてるけど、ボーカルとギターは高校でバンド組んで以来ずっと一緒なんだよ。」
「詳しいな。」
「中学の時はファンクラブにも入ってぐらいだからな。」和樹は自慢気に言う。
「そんなに前から好きだったんだ?」
一転して顔を曇らせる。「それなのに解散のニュースを知らないとは、ファン失格だ、俺。」
「いや、そんだけ熱く語れるなら充分ファンだろ。」
「最近聴いてなかったしなぁ。つか、音楽全般聴いてなかった。気持ち的に余裕がなくて。」
「一人暮らしでサークルもバイトもしてるんだから仕方ないよ。」
「うん。……でも、そんなの言い訳だよな。聴こうと思えば電車の中だって聴けるんだから。」和樹は涼矢のスマホの画面を再び見て、解散のニュースからリンクされていたバンドの公式サイトに飛んだ。今度はそのサイトをしばし見つめる。「でもやっぱりこのバンドは特別かな。聴くとおまえのこと思い出すから。」
「え、思い出したくないの?」」
「馬鹿、違うよ。」和樹は焦りつつも考えを巡らせる。「思い出しても、おまえはそこにいないし、逆に辛くなるというか。そういう感じ。分かんない?」
涼矢はホッとしたように笑う。「今はいるよ?」
「そりゃ分かってるっつの。」
「あっ、そうか。」涼矢がわざとらしく手を打った。「俺がいなくて淋しくて、ああいうものに頼ろうとしたわけか。」
和樹は一瞬呆然としてから、声を荒げた。「なんで話をそっちに持ってくんだよ!!」和樹は涼矢に殴りかかるふりをする。その弾みでバランスを崩して、涼矢と和樹は重なり合うように床に倒れ込んだ。
「ごめん。」と謝る和樹の声と、「積極的だな。」とからかう涼矢の口調が被る。
「もう、だからそういうんじゃなくて。」身体を起こそうとする和樹を涼矢は引き留めた。そればかりでなく、固く抱き締める。
「そろそろ限界。」と涼矢が囁いた。
「変なもんは使わねえからな。」和樹は涼矢の腕を解こうとはしないが、言いなりになる気もないと宣言する。
「変なもんて、自分が買ったんだろう? 自分用に。」
「……るせえな、そうだよ。自分用だから、俺一人の時に使うの。んで、まだまともに使ったことはねえの。おまえの前では使わねえから、絶対。」
「もったいない。」
「いや、こういうのはもったいないとは言わな」しゃべっている途中の和樹の口に、涼矢は指を当てて黙らせた。そして、その指を離すと同時に、今度は口づけで和樹の口を塞いだ。
口づけをしながら、涼矢は和樹のTシャツの下に手を入れ、素肌に触れる。乳首にまで到達すると、和樹は小さく「んっ。」と喘いだ。涼矢はすぐさまTシャツをまくりあげ、今度は舌先でそれを舐った。
上になっているのは和樹のほうだ。半ば馬乗りのように涼矢に跨っていた。和樹は自分の下半身を涼矢にこすりつけるようにした。服の上からでもそこが硬くなっているのが分かる。
「もう勃ててんの?」強がる口調で和樹が言った。
「そりゃね。」涼矢のほうも薄く笑っていた。
「このまま、してえな。」
「いいよ。和樹、好きだもんな、騎乗位。」
それには返事をせずに和樹はいったん涼矢から降りる。それから有無を言わさず涼矢のズボンを引きずり下ろした。
「ベッド行け、ベッド。」マウントを取られたくないのか、和樹はさっきからずっと強い口調だ。それに気づいていた涼矢だが、言いなりに動く。和樹は自身も服を脱ぎ、ベッドに横たわる涼矢の上に再び跨ろうとする。「……このまま、しようかな。」
「だから、いいってば。」
「騎乗位じゃねえよ。正常位で。」
「え? ああ、何、挿れたいの?」
「そう。いいよな?」
「いいよ。」
何のためらいもなく答える涼矢に、和樹は何故か苛立った。挿入される側が従でする側が主と思ったことなどないけれど、今は違った。今は明らかに、涼矢を組み伏せることで自分が「優位」になりたかったのだ。からかわれるままに性具を使われ、いいようにされるなんてひどく屈辱的に感じたから、先手を打とうとしたのだ。
なのに、当の涼矢は余裕綽々で、和樹のわがままなら何でも聞いてやろうといった風情だ。
「どうした?」
「平気かよ。使ってないんじゃないの、こっち。」和樹は指先を涼矢の後孔に当てる。
「別にいいよ。和樹がしたいことならなんでも。」
ふざけんな、と和樹は心の中で呟いた。じゃあおまえ、俺がここにバイブつっこみたいっつったら言うこと聞くのかよ。――聞くんだろうな、こいつなら。
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