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第847話 fall in love(6)

「ん。好き。」涼矢はむっくりと上体を起こし、和樹の腰に手を回す。更に片手を和樹の後孔に持っていく。「和樹がそういうこと言うとね、ここが、キュッとなる。」  ずっと疼いていたそこを涼矢に触れられて、和樹は思わず「んっ。」と喘いで、全身で反応してしまった。まさに今涼矢が言ったことを体現してしまったようだ。 「……涼矢がいい。」和樹は涼矢に向き合ったまま跨ると、互いのペニスを擦り合わせる。 「それ、やばいって。」涼矢のほうの息も上がる。  和樹は裏筋同士を押し付けながら、涼矢にしなだれかかり、その耳元に「これがいい。涼矢のチンコがいい。」と囁いた。 「ちょ、煽り過ぎ」 「挿れてよ。涼矢のチンコ、俺のケツに。」和樹はニヤニヤとしながらそんな言葉を言い続けた。「すげえ硬くなってるし。」 「当たり前だろ。」 「早く頂戴? 俺の奥んとこ、いっぱい、突いて。これで。」 「おまえ、わざとだろ。」 「決まってんだろ。ほら、入っちゃう。」和樹は自分で腰を動かし、涼矢のペニスを中に受け入れていく。「分かる? おまえの、俺の中にあるの。……なあ、動いてよ。」 「もう。」  涼矢は和樹の腰を抱き直し、和樹自身が動くリズムに合わせて、下から突き始めた。 「なんか、すご……。」涼矢が呟く。  和樹にはその呟きの意味が理解できた。挿入された感覚が消えないうちに挿入する側に回ると、不思議な感覚にとらわれる。涼矢と自分の肉体が入れ替わった……というよりは、どちらも自分であるかのような錯覚に陥る。3Pの経験などあるわけもないが、もしかしたらそれと似た感じなのかもしれない。前も後ろも同時に快感に満たされて、相手と自分の境目が分からなくなる。 「気持ちいい?」と和樹は聞いた。そうでないはずがない、と確信しながら。 「いいよ。和樹は?」 「すげえいい。」和樹は涼矢にしがみつき、キスをする。「涼矢のケツもチンコも、すげえ、いいよ。」 「こんな時に何言って……。」 「こんな時じゃなきゃいつ言うよ?」  何度も繰り返される和樹からのキスに、涼矢は「食われてるみたい。」と言った。 「ハハッ。」和樹は涼矢の鼻の頭を齧る真似事をする。 「俺にも食わせろ。」涼矢は和樹の首元に歯を立てる。 「痛ってぇ。」  涼矢は我に返って口を離す。和樹に謝ろうとした矢先に、和樹が言った。 「いいよ。もっと痛くして。」 「痛いの、嫌いだろ。」 「いい。」和樹は顔を傾けて、首を差し出すようにした。「おまえならいい。」  だが、涼矢は薄く残った歯型の上に、そっとキスをした。「ごめん。」 「いいってば。」和樹は涼矢にしがみついた。「もっと、して。強く。」 「強く、ね。」  涼矢は噛みついたりはしなかった。が、下からの突き上げを激しくする。和樹の喘ぎもそれに比例して大きくなる。涼矢にしても、もはや和樹の口を塞いでやる余裕はなかった。  終わった後には二人して崩れ落ちるように横になった。どこもかしこも、と言っていいほど、何かしらで濡れている。それを拭く気力すら残っていない。シャワーどころではなかった。 「明日、休みで良かった……。」和樹が呟く。明日は日曜日だ。 「バイトもない?」 「ない。本当は試験監督やる日だったんだけど、学祭準備で忙しいからって休み取ってあった。」 「どこが学祭準備だよ。」 「学祭に備えて充電してるんだよ。」 「逆だろ、消耗してるぞ。」 「はは。」 「明日は明日でまたヤるしな。」 「決定事項なの、それ?」 「しないの?」 「するけども。」 「するけども。」涼矢が和樹の声色を真似る。 「やめろって。」和樹が苦笑いする。 「やめろってー。」 「俺、そんな言い方してねえだろ。」 「俺ぇ、そんな言い方してねえだろぉ。」  和樹は吹き出した。「それは奏多だろ。」 「当たり。おまえ、これツボだな?」 「今度、奏多の前でやってよ。」  そう言った矢先に、和樹は前回奏多と会った時のことを思い出した。カオリの妊娠と堕胎。そんな話をして別れた相手と再会する場面があったとして、物真似をして笑いあえるはずがなかった。  涼矢は和樹の表情が曇った理由をすぐに察した。そして、和樹の頭を抱え込むようにして抱いた。 「やるのはいいけど、あいつ、シャレが通じないからな。怒り出すかも。」奏多との間に何事もなかったかのように涼矢は言う。 「変な感じ。」 「何が。」 「奏多より、おまえのほうがよっぽどシャレの通じない奴だと思ってた。俺の前じゃ笑わなかったから。」 「和樹だって。」 「そりゃライバルだったんだから。」  そう望んだのは自分だ。涼矢は当時を思い返す。近づきすぎたら本心がバレてしまう気がして、馴れ合う友達になりたいとは思わなかった。かと言って関心がない素振りもできなかったし、和樹に存在を忘れられるのも嫌だと思った。ライバル。そのポジションは、考え得る中で、一番自分の理想に近かった。いくら意識しても、いくら意識されても、周囲は勝手に張り合っているからだと解釈してくれる。――熱い視線で和樹を見つめることも、あのプールでだけは、許された。

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