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第32話 GINGER ALE(9)

「なんで。一人暮らしの部屋なんて、ほっといてもたまり場になるんじゃないの。そもそも、ついさっきまで、友達が来た時にホットプレート使いたいって、おまえが言ってたよ?」 「気が変わった。」和樹は上目遣いで涼矢を見た。「涼矢しか入れたくない。親と兄貴ぐらいは仕方ないけど。」 「エミリ泊めただろ。あと、終電逃したから泊めてくれ、とか、そういうことだってありえるだろ。」 「エミリは特例。緊急措置。それに、あの時は、その皿、なかったし。」和樹は涼矢が手にしている、誕プレの皿を横目で見た。「他の奴にその皿を使わせるの、嫌だ。考えてみたら、俺の友達、実家も都内の奴がほとんどだし、終電逃して帰れない奴なんかそうそういないし。いても、別に俺んとこじゃなくたって、どうにだってなる。とにかく、嫌だ。」  涼矢は困ったように薄笑いを浮かべた。「うん……そういうの、嬉しくないわけじゃないけど、なんだかな。」 「なんだよ。」和樹は少し頬を赤くしている。「わかってるよ。ガキっぽいこと言ってるのは。」 「ガキっぽいっていうか……。俺は、和樹が人気者で、友達たくさんいて、女にもモテて、そりゃそういうの、嫉妬もするけど、でも、そういう和樹が、その。」涼矢は軽く咳払いのようなことをする。「好きになったわけで、だから、俺が理由で、ほかの人を排除するような行動はしてほしくないし、そんなことされると、申し訳ないっていうか。困る。」 「でもさ。別に大学内とか、イベントとか、そういう時だけでいいと思う。友達っつっても、高校の時みたいに一緒にいる時間が長くて、苦楽を共にする仲間、みたいな意識ないし、距離感違うよ。ノリで一緒にいるだけっつか。」 「俺とだって、そんなに始終べったり一緒にいたわけじゃないだろ。」 「そうだけど。つか、おまえこそ、他人との距離空けまくりだろ? 適当につきあうこともしないくせに。」 「だから。和樹は俺とは違うんだから、誰とでも友達になれるっていいことだよ、その能力を最大限に生かせばいいじゃないかって言ってんの。まあ、自分にできないことを求めるなよって話だけど。」 「自分でわかってんじゃん。そうだよ、友達づきあいのことまで、おまえに言われる筋合いねえし。俺は俺なりにちゃんとつきあってくよ。適当にね。」 「……。」ホットプレートから聞こえる音が変化する。涼矢は蓋を開けた。一瞬蒸気が立ち上り、それが落ち着くと餃子の良い匂いが漂った。涼矢は一個を箸でつまみあげて裏面の焼き色を見た。「いいんじゃない?」 「うまそう。いっただきまぁす。」和樹は早速一つ目を頬張る。「熱っ。うんまっ。」 「そう、良かった。自分で作ったからひとしおだろ?」 「そうだな。」立て続けに3つほど平らげる。涼矢の箸は、最初のひとつをつまんだきり、動かない。「何、今の話、まだ気にしてんの。」 「気にしてる。」 「そんな深刻な話してないだろ。」 「深刻だよ。」 「だから別に、友達要らないとか、そういうこと言ってねえし。普通に、適当に、楽しくやるよって言ってるだけ。」 「和樹は、そういうとこは、適当じゃなかった。人付き合いに関しては。」 「あ、適当って言い方が嫌なの? いいかげんって意味じゃないよ。臨機応変ていうか? うーん、それも違うな……。」和樹はそう言いながらも、また一つ、餃子を口に放り込んだ。それはこの場をそれ以上深刻な暗い局面にしたくないという思いも含まれた、道化た仕草でもあった。「あのね。優先順位ができたんだ。」 「優先順位?」 「つか、おまえも食えよ。そんな顔で黙っていられたんじゃ、食いづらいよ。」 「うん。」涼矢はようやくつまんでいた餃子を口にした。

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