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第33話 GINGER ALE(10)
「俺は確かに友達とつるむの好きだし、だから大学でもサークルにも入って、新しい友達も作った。で、そいつらとは適当につきあってるよ。興味ないことでも、よっぽど嫌なことじゃなければ、相手に合わせて行動するし、それで相手が楽しそうにしていれば、それで良いと思ってる。向こうだって俺に合わせて妥協してるときだってあるんだろうし。そういうもんだろ、人付き合いなんて。そういう意味で適当って言ってるだけ。……ほら、もいっこ食べな。」和樹は涼矢の口の中に次の餃子を押し込んだ。「でも、エミリがあんなことになれば、サークルの会合も、楽しみにしてたイベントも、全部キャンセルしてエミリ優先で動いたよ。エミリは大学の友達より大事だからな。ましてや、おまえだったら。もし、おまえが会いたいって言ってくるなら、友達とどんな先約があったって、全部断っておまえを優先する。おまえ、エミリがうちに転がり込んできた頃にここに来ようと思ってたって言ってたな? もしそれをその時言われてたら、俺、エミリを追い出してた。まあ、いくらか金貸してやって、ホテルに行かせるとか、そういうぐらいのことはしたかもしれないけど、とにかく、お前を優先した。」
「俺はただ単に遊びに来るだけで、エミリはあんなストーカー被害に遭って、大変だったとしても?」
「ああ。どっちが大変とか、どっちが先に約束してたとかじゃない。俺はおまえが一番なんだ。まずおまえがいて、それからエミリとか柳瀬とか、ちょっと特別な友達がいて、それからその他大勢だ。みんな横並びで大事な存在ってわけには行かない。分かるか? 俺はおまえ最優先なんだ。そんで、この部屋とか、この皿とかも、そうなんだ。俺とお前の間に、他の奴を立ち入らせたくない。」
また涼矢の箸が止まる。「すっげえ愛の告白を聞いてる気がする。」
「気がする、じゃねえよ、すっげえ愛の告白をしてんだよ。こんな話、餃子食いながらしたくなかったよ。」
「ハンバーグならいいのか?」
「違うわ!」和樹は力なく笑う。「とにかく、すっげえ愛の告白だけど、そんな深刻なことじゃない。当たり前のこと言ってるだけだ。わざわざ説明させんなよ。」
「うん、分かった。……でも、俺は、ここに友達呼んだって、この皿を俺以外が使ったって、気にしないから。今、そういうこと言ったからって、変に責任感じて、エミリとか、友達とかが困って泣きついて来た時に、追い出したりしないでほしいというか……。」
「分かってるって!」和樹は苛立たし気に言った。気まずい沈黙がしばしの間、流れた。その後に、和樹は続けた。「……こんなこと言ってるけどさ、分かってるよ。俺、ホントはそんな風にできない。今の話、気持ち的には嘘じゃないけど、でも、どうせ俺、そのうち酒飲むようになったりして、コンパとかやって、終電逃した、なんて奴がいたら普通にここ泊めて、普通にこの皿でメシ食わせたりすると思う。……エミリだって追い出せないよ、あんな状況だったら。おまえのこと最優先なのは本当だけど、結果的には、おまえに嫌な思いさせたり、我慢させたりすることばっかりなんだと思う。そういうの嫌だから、そうならないように、かっこよく涼矢最優先で、他の奴は部屋に入れない宣言したつもりだったのに、まったく、結局理想論に終わらせやがって。どうせね、俺はええかっこしいなんで、こんなこと言ってたって、そのうちグダグダと友達呼ぶようになって、餃子パーティーするんだよ。おまえもそう思ってんだろ?」
暗くなる和樹とは対照的に、涼矢のほうがふいに明るい表情に変わった。「なんだ。それならいい。良かった。安心した。」そして、餃子に箸を伸ばした。
「え?」
「そういう和樹が好きだって。さっき言った。」
「俺は誰にでもええかっこしいで、おまえを傷つけるかもよって話をしたんだよ?」
「うん。いいんだ。傷つかないよ。俺は、和樹の誰にでもええかっこしいなとこがいいと思ってるから。で、俺にはええかっこしきれないんだろ?」
「どうせ甘えてんだよ、悪いな。」
「うん、だからいいんだ。それってつまり、俺は特別なんだろ?」
「そういうことになる、のか?」
涼矢はふふっと小さく笑い、引き続き餃子を頬張る。
「涼矢はそれでいいの?」と和樹が言う。その口に、今度は涼矢が餃子を放り込んだ。
「八方美人のおまえが、俺にだけは甘えて、わがまま言えるんだろ? これこそ愛の告白じゃない?」
涼矢がにやりと笑うと、つられて和樹も笑った。
「餃子、うまいな。」照れ隠しのように和樹が言った。
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