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第38話 GINGER ALE(15)
「じゃ、さっさと洗濯済ませて、行くか。おまえ、シャワーするならさっさとしなよ。今着てるそれ、昨日も着てただろ。それも洗うから。あと、このベッド下にある謎のタオルとか、ぜんぶ洗うぞ。」
「そんな急がなくても。まだ9時前じゃん。」
「上野の美術館、超混むんだよ。入場待ちとか普通なの。早く行かないと待ち時間ばかり長くなる。」
「パンダは見ない? 上野と言ったら。」
「動物園もあるけどさ、そっちも夏休みは混むって。それ見るなら浅草は無しだな。」
「うーん、浅草も捨てがたいから、今回パンダはパスするか……。」
「動物園、行きたいの?」
「動物、好きなんだよ。知らなかったっけ。」
「初耳。」
「ストーカーのくせに。」
「ストーカーの名が廃るな。」
「だから、そこでストーカーを認めるなって。」
「動物園は、動物園だけで1日取ろう。な?」
「またそうやってごまかすし。でも、動物園の件は、是非そうして。」
「じゃとりあえず服を脱げ。」
「朝からエッチすんの? 急いでるんじゃないの?」
「だから、洗うんだって。」
「俺を?」
「それもしたいけど、今はやらない。つまんねえ冗談言ってないで、さっさとシャワーしてこいよ。」
「へいへい。」
涼矢はベッド下から、フェイスタオル2枚と、片方だけの靴下を1つと、Tシャツを1枚発掘して、それらを洗濯機に入れた。ついでに出てきたDMやチラシは重ねてテーブルの上に置いた。チラシの有効期限などを見るに、エミリがいた頃には既に投函されていたはずのものばかりで、和樹のみならず彼女も掃除らしい掃除はしていなかったに違いなかった。それから枕カバーとベッドシーツをはがして、それも洗濯機に放り込んだ。本音を言えばそれらは別に洗いたかったが、時間がない。洗濯機を回している間に、フローリング用掃除シートで床拭きもした。フローリングモップでもないかと見まわしたが見つけられなかったので、床に這いつくばっての拭き掃除だった。
「シンデレラがいる。」髪をタオルで拭きながら出てきた和樹は、そんな涼矢を見て言った。
「誰のせいだと思ってる。」拭き掃除の手を休めず、涼矢は言う。
「ごめんごめん。」
「テーブルの上にあるやつ、たぶんゴミだと思うけど、一応確認して。」
「何これ。」
「ベッドの下から出てきた。」
「要らないな。」ろくに見もしないで、和樹はそれらをまとめてゴミ箱に捨てた。
「替えのシーツってある?」
「あるはずだけど、どこにしまったか忘れた。」
「今までどうしてた。」
「替えてない。」
「ここに来てから、一度も?」
「一度も。」
「げ。」
「神経質だなあ。」
「もうやだ。やめる。」涼矢は掃除をやめ、汚れたシートを捨てると、洗面台で手を洗った。
「そう怒るなよ、シンデレラ。」和樹が涼矢の肩をポンと叩いた。涼矢が顔を上げると、洗面所の鏡に、自分と、その背後に和樹が見えた。
「ヒゲ、剃ったんだ。」鏡の和樹を見て、涼矢は言う。
「うん。」
「そのほうがいい。」涼矢は振り向いて、和樹の頬と自分の頬をこすり合わせた。「ざりざりしない。それでこそ王子。」
「王子よりでかいシンデレラかよ。」
「だめ?」涼矢は和樹を壁に追い詰め、壁ドンの体勢になった。
「……だめ、ではない、けど。」
「掃除したし、洗濯もした。朝飯も作った。ご褒美はないの、王子さま?」
和樹は涼矢の唇に触れてから、そこに口づけた。
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