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第44話 GINGER ALE(21)

「おまえが選んだのは、ベッドで続きじゃなくて、コーヒーだろ?……ほら、もう、お湯沸いちゃった。」涼矢はやんわりと和樹を退けた。 「この暑いのにホットコーヒーかよ。」  涼矢がキッチンでコーヒーを淹れる。「今更何言ってんだよ、しかも人に淹れさせておいて。」それでも涼矢はいつものように丁寧に淹れて、和樹にカップを手渡した。「アイスコーヒーがいいなら、氷を大量に作っておけばいいんだよ。濃い目のコーヒーを氷の上から注げば、アイスコーヒーになるよ。」 「あー、そっか。」 「せっかく自動製氷機能ついてる冷蔵庫みたいだし。でも、おまえ、こういうの洗わなさそうだからなあ。ロックアイス買ってきた方が無難かも。」 「涼矢、潔癖。」 「潔癖じゃねえよ、おまえが不衛生なだけだ。」 「シーツ洗わないぐらいじゃ死なないよ。」 「死ぬ死なないのレベルで話してないよ。そんなこと言うなら、死なない程度に食えりゃいいんだな? ハンバーグ作ってやらないぞ。」 「ごめんなさい涼矢くん。俺が悪かったです。」 「瞬殺かよ。ハンバーグの威力すげえな。」そう言いながらも、涼矢はシンク横の作業スペースに、生姜とスパイス、それとさっき買ってきた砂糖を並べた。ハンバーグより先にジンジャーシロップを作るようだ。 「ハンバーグ作るんじゃないの?」 「砂糖まぶして水分出すのに2、3時間かかるから。」スマホ片手に言う。レシピを確認しているらしい。  スマホを手にした涼矢の姿を見て、和樹は思い出した。「涼矢、例のアレ、消せ。」 「ん? ああ、アレね。もう1回だけ聞いたらね。」 「聞かなくてもいいだろ、本人ここにいるんだから! 生で聞けよ!」 「すごいこと言うなあ。」涼矢は和樹の隣に戻ってくる。「生で聞かせてくれるの? 和樹のオナニー。」 「なんでおまえがいるのに、そんなことしなきゃならないんだよ。」 「今、自分で言ったろ? 本人がここで生で聞かせてくれるって。」 「違うよ、普通にヤッてりゃ、聞けるだろって話。」 「だって別物だよ? セックスの時とオナニーの声とじゃ。」涼矢は和樹の耳元をくすぐるように触る。 「同じだろ。」 「おまえにとっては、セックスもオナニーも一緒なわけ?」 「……ち、違うけどさ。」 「じゃあ、声だって違うよ。」涼矢は和樹の耳にキスをして、舌先で舐めた。「してみせてよ。1人でするとこ。」 「前に見たことあんだろ。」 「1回できたことなら、2度目もできるだろ?」 「やだって。」 「じゃあ、これは消さない。」 「……分かったよ。」 「どっち?」 「今やる。」 「ほう。……あ、じゃあついでに、プラグ挿入もやろうかな。」 「ついでにやるな、そんなこと。」 「俺がいるのに1人でやりたくないんでしょ? だから、少しは手伝ってやろうって言ってるんだよ。」 「……好きにしろ。」和樹は立ち上がった。「準備してくる。」そして、バスルームに消えた。  しばらくの後、和樹は下着1枚でバスルームから出てきて、ベッドに腰かけている涼矢に何かを放り投げた。涼矢は片手でそれをキャッチする。もう片方の手には参考書があった。 「おまえ、この状況でよくそんなもの見ていられるな。」 「興醒めだね。悪い。」涼矢は参考書をテーブルに置いた。「これか。ふうん。」さっき和樹から受け取った手の中のそれは、自分が和樹に送りつけたアナルプラグだ。 「おまえが買ったんだろ。」 「ネットの画像でしか見てないし、買ったものはパッケージの中だったし、実物を触るのは初めてなんだよ。」 「ふざけてるよな、まったく。」 「でも、やってくれるんだ。」 「しゃあねえだろ。やんねえと消してくれないんだろ。」  涼矢はスマホを手に取り、例の音声データを削除した。削除完了の画面を和樹に見せる。「消したよ。嫌だったら、もう、それ以上やらなくていい。」 「やるよ。約束したんだから。しっかり見とけ。」  和樹はベッドに腰掛けたまま、下着をずらして手を差し入れた。ペニスを握り、こすりはじめる。

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