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第46話 GINGER ALE(23)
和樹はふと、涼矢の両手が、指先までも見えていることに気づいた。
「プラグ、入ったままだろ……?」
「ん。奥のほうにね。入ってるの、分かるだろ?」
「ぬ、抜いてっ。抜けっ。」和樹は自分でプラグを使っていた時には、常に端を持ったままだった。中に入り込んだまま抜けなくなってしまうのではないかという恐怖を覚えた。
「自分で出してごらん。」涼矢は微笑んだ。どうしてこいつは、そんなことを言うのに、そんなに優しく笑うことができるんだ。「卵産むみたいに。」
「でき、できないよ、そんな……。」
「できるよ。大丈夫。」
自分で使ったことない癖に、何言ってやがる。そう思いながらも、和樹は下腹部に力を入れて、それを排出しようと試みた。やってみると、奥のほうにあったものが浅いほうへと移動していくのが分かった。それは便秘の時にいきむのとほぼ同じ要領で、さっきシャワ浣まで済ませておいてよかった、と的確なのか場違いなのか微妙な思いが頭をよぎった。
トイレの個室と違うのは、涼矢がじっと見ているということだ。挿入されるのも恥ずかしいが、こんな姿を見られるのはもっと恥ずかしい。だが、その恥ずかしさは快感と同義だ。
「あっ、んんっ。」肉壁を刺激しながら、ついにプラグが外に顔を出す。
「もう少し。」涼矢の声が聞こえる。そこまで来たなら涼矢が取り出してくれてもいいのに、という気持ちと、ここまで来たら最後まで自力で出してやるという意地がぶつかり合う。
意地のほうが勝利して、和樹はプラグを排出した。気が付けば大泣きした後のように、涙で顔が濡れていた。
「すご……。」涼矢の呟きが聞こえてきた。和樹は涼矢の股間に手を伸ばす。ズボンの上からでも勃起しているのは分かる。
「こんな勃てやがって。挿れろよ。こんなもんでイケねえよ。」それは半分真実で半分は嘘だった。和樹のそこは、涼矢の手で触れられたら、それだけで絶頂を迎えてしまいそうだった。
涼矢は和樹のお尻のほうに移動する。ファスナーを下ろす音がした。涼矢はズボンとパンツをずらして、ペニスだけを露出させ、コンドームをつけるとすぐに、和樹のそこへと沈めて行った。
「あっ、あんっ、あっ……!」和樹は激しく喘いだ。
あっけなく射精に至ったのは、和樹だけではなかった。ほんの数回のピストン運動で涼矢も精を放出した。和樹は自分の手の中に。
「ハァーッ、ハァーッ」荒い息はどちらのものともつかない。
少し息が落ち着いたところで、和樹はティッシュで手を拭った。涼矢もゴムの処理をして、パンツとズボンを直した。
涼矢が和樹を抱きしめて、その涙でぐしゃぐしゃの顔を舐めた。和樹はそんな涼矢を押し返した。「馬鹿野郎。最低。こんなことまでやらせんじゃねえ!」また涙が出てきた。
「嫌だった?」
「当たり前だろ! てめえもやってみろよ!!」
嫌じゃなかった。本当は。恥ずかしかったけれど、気持ち良かった。でも、「恥ずかしいことで気持ち良くなる」と涼矢にバレてしまうことがもっと恥ずかしくて、怒ることでごまかした。
涼矢はもう一度和樹を抱いた。「ごめん。」和樹にキスをする。和樹はもう押し返そうとはしなかった。キスも拒まなかった。「そんなに嫌だった? すげえ勃ててたから、気持ちいいんだと思ってた。」
何もかも見透かしたような涼矢の言葉に、和樹は強がって罵倒することすらできなくなった。「ふざけんなよ……。」そう弱々しく言うのが精いっぱいだった。
「愛してるよ。」涼矢はそう言って和樹に口づけた。
和樹は涼矢の背中に腕をまわし、しがみつくように抱きしめた。「馬鹿涼矢。」
「うん。」涼矢は和樹の頭を自分の胸に押しつけるようにした。
「鼻水拭いてやる。」和樹は涼矢のTシャツに涙と鼻水でベトベトになっている顔をこすりつけた。
「どうぞ。」
「気が済んだかよ、変態。」
「うん。」涼矢は和樹の耳にキスをする。「でも、いつでもまたしてあげる。」
「ふざけんなっつの。そんなにやりたいなら自分のケツでやれよ。」
「うん。その時は和樹が手伝ってね。」
「……おまえ、馬鹿だろ。」
「うん。」
和樹は顔を上げた。涙の跡がある。和樹から涼矢にキスをした。最初は唇を合わせるだけのキス、その次に舌を絡めるキス。「俺だけにしろよ。こんなことすんのも、させんのも。」
「もちろん。」
「俺だって、おまえだけだから。こんなの。」
「うん。」
2人は強く抱き合い、何度もキスをした。
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