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第48話 GINGER ALE(25)
「悪りぃ。寝てた。」
「寝顔画像ゲット。」
「またかよ。」エミリとのツーショット画像の報復に送られてきた和樹の寝顔は、以前、涼矢の家で撮られたものだった。だが、今となってはその程度の代物、いちいち怒る気にもならない。和樹は立ち上がり、涼矢の料理の様子を見に行った。「あ、ハンバーグに突入?」
「うん。」そう答える涼矢の目は、潤んでいる。
「それ、玉ねぎか。」
「うん。」
同じ泣かされるなら、俺だって玉ねぎのほうが良かった。
「あ、和樹。」
「ん?」
「ごはんだけ炊いてくれる?」
「オッケー。」涼矢がどれほど食べるかわからないが、とりあえず3合ほど炊いておくことにする。余ったら冷凍すればいいだろう。普段でも毎日炊飯するのは煩わしいし、少量炊いてもあまり美味しくないので、そうしている。ただ、ちょうど今はそうやって冷凍保存しておいた白飯がなくなったタイミングだった。
「どういうハンバーグが好き?」
「どういうって……普通の。」
「煮込みがいいとか、チーズのってるのがいいとか。」
「チーズのってるの。」
「了解。」
「でも、チーズあったっけ。」
「昨日買った。」
「絶対昨日の食費、すげえかかってるだろ。払うよ。食費担当、俺なんだから。」
「昨日は俺の趣味で買ったものばかりだから、いいよ。」
「またそうやって優位に立とうとしてるな?」
「何それ? 何の話?」涼矢は調理の手を止めずに言う。みじん切りにした玉ねぎを炒め始めた。
「俺を思い通りにコントロールしようとしている。金と食べ物で釣って。」
「何バカなこと言ってんの。そんな風に思ったこと、一度もないよ。」涼矢は真顔で和樹を一瞥した。
和樹にしても、涼矢のその言葉を疑うつもりはなかった。涼矢は実際、そんな風に思ったことなど、一度もないのだろう。さっきの和樹への賞賛の言葉の数々だって本心なのだろう。涼矢は、そういう奴だ。
「あんまり俺を甘やかすと、俺はおまえに逆らえなくなる。いろいろしてもらってるのに、悪いなって遠慮する。本音が言えなくなる。おまえにそのつもりがないのは分かってる。でも、そうなんだ。対等になれない。」
「それは、昨日の食費をおまえが支払えば解決することなのか? だったら払ってくれ。レシートが俺の財布に入ってるから、金額はそれ見ろ。」涼矢はフライパンのほうしか見ず、冷たい口調でそう言った。
「なんでおまえが怒るんだよ。」
涼矢はフライパンの火を止めて、粗熱を取るために中身をボウルに移した。そこでやっと和樹と正面から向き合う。「俺のこと、変態でもドSでも、好きに言ってもらって構わないけど、俺がおまえのことを好きだって気持ちを、変に捻じ曲げて解釈されるのは嫌だ。俺におまえより自由になる金がたくさんあることが、おまえのプライドを傷つけてるって言うなら、きっちり割り勘にしよう。おまえのピアス代も、俺の新幹線代も、折半しよう。そうすれば対等か? そんな風に卑屈にならないのか?」
「……そこまで言ってねえよ。」
「対等かどうかって、そんなに大事か? それを言うなら、最初から対等じゃねえよ。俺が一方的におまえのこと好きになって、おまえの優しさにかこつけて、こうなったんだから。俺は今でもビクビクしてるよ。嫌われないようにするのに必死だよ。そんな、食いもんとか、金とかで釣れるんならそうするよ。でも、おまえ、そんなことで俺の思い通りになんかならないじゃないか。現に今だっておまえのためにハンバーグ作ってるのに、そんなこと言い出してるじゃないか。そうだよ、俺たちは全然対等じゃない。俺のほうがずっと下にいて、おまえになんとかすがりついてんだよ。なのになんでおまえがそんな卑屈になるんだよ。」
「な、何、今更そういうこと言うわけ? 涼矢が先に俺のこと好きになってくれたかもしれないけど、そんなの、きっかけってだけで、今は関係ないだろ。どうしてそんなのをズルズル引きずってんの? 俺だっておまえのこと好きって言ってるじゃん。つか、今なんか、俺ばっかりおまえのこと好きみたいで、おまえ平気な顔で変なこと要求してくるし、それでもおまえを喜ばせたいからやってるんで……ああ、くそ、何言いたいのかわかんなくなった、おまえがゴチャゴチャ言うから!」
「人のせいにするなよ。どこが遠慮して本音が言えない、だよ。」
和樹は言葉に詰まる。
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