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第50話 GINGER ALE(27)

 そうだった。涼矢はいつも、ずっと、こんな調子だ。告白してきてからというもの、俺への好意を隠さない。他のことでは本音を言わないときもあるし、言葉足らずなときもあるけれど、俺を好きだってことだけは、いつでも、恥ずかしげもなく伝えてくれてた。なのに、俺はどうして、何を不安がっていたんだろう。さっきだって、俺も涼矢も、お互いに好きだって言い合ってた。それでケンカするなんてどうかしてる。俺のせいだけど。  涼矢が挽き肉のほかにつなぎのパン粉なども入れたハンバーグだねを、和樹が捏ねだす。その間に涼矢はブロッコリーを茹でる。どうやらさっきのニンジンと共に、ハンバーグの付け合わせになるようだ。 「芋、好き?」涼矢がじゃが芋を手に聞く。 「どういう質問なんだ、それは。」 「マッシュポテトにして付け合わせにするか、ポテトサラダにするか……それとも、フライドポテトがいいかな?」 「フライドポテト。」 「フライドポテト、かしこまり。」 「仲見世で揚げもんも結構食ったよな、健康に悪いかな。」 「まあ、よろしいんじゃないですか、今日ぐらい。付け合わせは茹で野菜にしたしね。」 「明日から豆腐とこんにゃく料理ってのはナシだぞ。」 「豆腐ハンバーグという手もある。」 「やだ、肉。肉ハンバーグ。」 「肉ハンバーグって、普通のハンバーグだろ。」そう言って涼矢は芋を揚げはじめた。「あと、それ、そろそろ形にして。食べたいサイズの一回り大きめぐらいに。」 「オッケー。」和樹はたねを丸める。 「そんで、いっぺん、ペシッと。」 「ペシッと?」 「空気抜く。」 「ペシッと空気抜く?」 「ええと、だから、こう。」涼矢は手ぶりを見せるが和樹には伝わらない。涼矢は手を軽く洗うと、自分もたねを小判形に丸めて、右手から左手へと素早く叩きつけるように移動させてみせた。「こういうこと。で、真ん中少し凹ませる。」凹ませて、できあがったものを皿に載せた。 「分かった。」和樹も見よう見まねで同じことをして、皿に載せた。「まだこれだけ残ってるよ。」ボウルの中にはまだたねが少しあった。 「それも同じようにしておいて。」涼矢はもう一度手を洗い、フライドポテトに戻って行った。  やがてフライドポテトができあがる。塩をまぶすと、涼矢はその中から1本をつまみ、和樹の口元に持って行った。「作る者の特権、味見という名のつまみ食い。」  和樹は口を開け、それを食べた。「あっち。けど、美味い。揚げたてはやっぱいいわ。」  涼矢も1本つまみ食いして、ポテトの皿をテーブルに移動した。  それに続いて、ハンバーグを焼く。最後の仕上げにチーズを載せて、蓋をした。フライパンはあったが、蓋がなかったので、蓋だけは昨日買った。焼き上がると、和樹のプレゼントの揃いの平皿に載せた。「ここに、そこのニンジンとブロッコリー、良い感じに盛り付けて。」と涼矢が指示をする。 「良い感じと言われても。」 「和樹のセンスに任せる。」 「知らないぞ。」その言葉の通り、和樹のセンスによる盛り付けは、せっかくシャトー切りにしたニンジン、方向ぐらい揃えてもいいのではないか……と思ってしまう仕上がりではあったが、涼矢は黙っていた。  涼矢はフライパンに残った肉汁をベースに、ソースとケチャップでハンバーグソースを作り、ハンバーグにかけた。「はい、完成。」 「かんせーい。」和樹が両手を出して、2人はハイタッチをした。「ごはんよそうのやるから、涼矢、座ってて。」 「あ、うん。」そう言いつつ、涼矢は座らず、ガステーブル周りを拭いていた。 「何してんの。」 「揚げものやったからさ、油がはねてて。温かいうちに拭いとけばすぐ落ちる。」 「お母さん……。」 「まったく手のかかる子だねえ。」わざと老婆のような声で答える涼矢。 「お母さんのために、ごはんは大盛りにしてあげる。」和樹は山盛りのごはんを見せた。飯碗はひとつしかないので、今日は揃いのスープボウルによそった。 「すげえ量。」 「大丈夫大丈夫、涼矢なら。」 「本当に太っちゃうよ。」 「大丈夫大丈夫、運動もするから。」 「運動ねえ……。」笑いながら、涼矢はようやく座った。同時に和樹が山盛りごはんをその前に置く。 「俺さあ、今日のアレ、結構腹筋使ったよ?」和樹も自分のごはんを持って、座った。 「アレ、なあ。キツそうだったな、確かに。でも、食事中にはふさわしくない話題だ。」 「おまえがやれっつったのに、ひでえの。」 「キツいから、もう二度としたくない?」 「その話題はしないんだろ? じゃ、いただきます。」 「したくないとは言ってないのを前向きにとらえておく。では、いただきます。」 「ドSめ。」そんなことを言ってから、和樹は真っ先にハンバーグを口に入れる。「うっまーい。」  涼矢はそんな和樹を満足そうに眺め、自分も食べ始めた。 「ポテトもうまーい。」 「野菜も食べなさい。」 「分かったよ、お母さん。でも、芋も野菜だろう?」 「欧米人のようなことを言うんじゃない。」 「へいへい。」 「いつもは、テレビ見ながらメシ?」 「うーん、そうだね。あとは音楽聴いたりとか。無音だとちょっと落ち着かなくて。」 「エミリがいた時は?」

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