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第52話 GINGER ALE(29)

 和樹の身体が一瞬、硬直する。「黙れ。」  涼矢が和樹の乳首を口に含んだ。和樹の身体がピクリと反応する。「男って因果だよな。口でどう言ってても、本音が一目瞭然で。」和樹のペニスをきゅっと握る。そこはもう硬くなり始めていた。「恥ずかしいこと、言われたり、見られたりすると、興奮する?」 「知らねえよ。」和樹は両腕で自分の顔を隠した。 「言ってくれれば、何でもしてあげるのに。」涼矢は胸から腹へと、舌を移動させた。 「……じゃあ、黙っててくれ。」上ずった声で和樹は言い、手で涼矢の口を押さえた。涼矢はその手首をつかみ、指先をしゃぶるように舐めた。和樹が驚いて手をひっこめようとしたが、涼矢はつかんだ手首を離さなかった。今度は指の根元まで口に含んで、フェラチオの真似事をした。そうやっている間も、もう片方の手はペニスを愛撫しつづける。指と連動しているかのように、和樹のそれがグッと硬さを増した。  ようやく涼矢が指を吐き出す。そして、手を伸ばしてローションを取った。それを一度自分の手の平に受けると、和樹のペニスに塗りたくった。手の平を経由したローションはひんやりすることなく、柔らかに和樹のペニスを覆った。涼矢は両手でしごきはじめたかと思うとすぐにやめ、今度はゆっくりと亀頭を露出させた。それから再びローションを手にして、露わになった敏感な先端に追加した。涼矢は上体を起こし、片手で和樹の亀頭をそっと刺激しはじめた。少しでも強くすれば快感どころか、痛みしか感じない。そのギリギリの強さで、涼矢は執拗にそこを愛撫した。 「……そこばっかり……。」和樹が息を荒くしながら、呟いた。涼矢は和樹の脇に横座りのような姿勢で座っている。亀頭を愛撫する左手以外、涼矢の手も舌も、どこも和樹の身体に触れてはいない。右手は自分の股間にある。和樹はただ一点を責められて、嫌でも神経がそこに集中する。  涼矢は無言だ。たまに切なそうに息を吐くばかりだ。その理由は、和樹が「黙れ」と言ったから、それ以外は考えられない。  弱い刺激を、絶え間なく、長時間。和樹のボルテージが上がっていく。「はっ……んっ……あ……ん……。」涼矢が違う行動を取ったのは、シンと静まりかえる部屋に響く声を抑えるべく、和樹が自分の指を噛もうとした時だけだ。涼矢は和樹が指を口に入れる寸前に、手をつかんで、ベッドに押しつけるようにして動きを封じた。 「ね……他のとこも……。」和樹はすがるような目で涼矢を見た。涼矢も頬を紅潮させて、欲情している顔だ。だが、和樹の願いは聞き届けられなかった。涼矢は引き続き、鈴口周辺ばかりを指ではさんで回転させるように愛撫したり、まれにカリのあたりをそっとこすりあげたり、そんなことだけを繰り返した。  急激で荒々しい刺激とは正反対のその執拗な責めに、和樹のペニスは完全に勃起した。鈴口から先走りの液体が溢れて来ると、それをローションと混ぜるようにして、また、触れられる。 「も、無理、イキそう……。」和樹はそう言ってはみたものの、イケるようでイケない。腰が浮くような快感が襲ってくるだけだ。射精の快感は一瞬だが、それと同じぐらいの快感がもっと長い時間、波のように繰り返しやってくる。このまま続けて行けば、更に大きな波が来る予感がした。「なんか……おかしい……変な感じ……。」和樹はペニスに触れていないほうの涼矢の腕をつかんだ。「すげえ……気持ちいいんだけど……いつもと違……。」涼矢は相変わらず黙ったまま、和樹を見つめている。和樹はついに言う。「なんとか言えよ。」 「またエロい顔して。」涼矢の口に笑みが浮かぶ。「もっと気持ち良くなるよ。」  涼矢の声が刺激となったのか、和樹の身体がビクビクッと痙攣するように反応して、体が弓なりになった。「あっ……やっ……。」それでも涼矢は愛撫をやめない。「んっ。」  涼矢がカリをきゅっと締めるように握る。「出すの、我慢して。そのほうが気持ちいいから。」 「やだ、変、あっ……あっ。」和樹の喘ぎが激しくなる。「あっ、あっ、あっ。」身体をのけぞらせて、快感に悶えた。涼矢の腕をつかんでいる手に力が入る。やがて、絶叫するように喘いで、和樹は射精しないままに絶頂を迎えた。涼矢は和樹に優しくキスをした。 「ちょっと待ってて。俺も終わらすから。」 「……こっち、来い。」まだ息も整わない様子の和樹が、涼矢の腕をひっぱる。涼矢はえっ?という顔をしつつも、和樹の方へ寄って行く。和樹はいったん身体を起こすと、涼矢の股間に顔を埋めた。もう充分に勃起していた涼矢のそこは、和樹の舌で間もなく果てた。和樹は出されたものをすべて飲みこむ。  涼矢は和樹を抱きしめて、そのまま2人並んでベッドに寝た。 「出してねえのに、イッた。」と和樹が呟いた。 「ドライでイケたねえ。」 「何それ。」 「射精しないでイクこと。成功して良かった。」 「なんでおまえのほうが詳しんだよ。」 「勉強したから。」 「そんな勉強も熱心なのかよ。」 「人生、何事も勉強です。」 「ハッ。」和樹は笑う。 「でも、今回が初めてじゃないよ? 和樹がドライでイクの。」 「え。そうだっけ。」 「和樹がこっち来る前日。ヤリまくっただろ。あの時、和樹、失神して。」 「ああ……、あったな、そんなこと。」恥ずかしくて、あまり思い出したくはないが。 「その少し前だったかな、今みたいになってた。」 「そう、だっけ。」 「うん。それで、ああ、これはイケる口だな、と。それ以来、日々研鑽を重ねてまいりました。」 「……セックスのことまで、おまえに抜かれるのか。俺がおまえに勝てそうな最後の牙城だったのに。」  涼矢は少しムッとする。「だからさ、なんでもかんでも勝負にすんな。そんな風に考えるから、対等だの、上下関係だのってことになっちゃうんだよ。俺と競い合うのは、水泳のタイムだけにしろ。」 「悪ぃ。」和樹は素直に謝った。 「まあ、でも、水泳のタイムは、もう、無理だな。全然トレーニングしてないし。」 「じゃあ、今度泳ごうぜ。負けたほうは勝ったほうの言うことをなんでも聞く。」 「そんな勝負しなくても、なんでも言うこと聞くよ。」涼矢は和樹の頬にキスをした。 「本当に?」 「いつもそう言ってるだろ。」 「じゃあ、」和樹は涼矢の首に腕を絡めた。「もう1回して。今度は、ちゃんと、挿れて。」  涼矢はふふっと笑う。「お安いご用です。」  2人は口づけを交わし、再び、抱き合った。

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