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第53話 Your friends(1)
事が済み、そのままだらだらと2人でベッドにいた。完全に寝るには早い夜10時。和樹のスマホが振動した。面倒くさそうにスマホを取りに行くと、画面を確認しながら、またベッドに戻って、涼矢の隣に寝そべった。
「あ?……なんだよ、それ。」和樹は独り言を呟きながら、何か返信している様子だ。直後にまたメッセージが飛んでくる。何往復かのやりとりがあった後に、「うっそ。マジかよ。無理だっつの。」と苛立たしそうに言い、また返信。それを見ている涼矢は、特に口を挟むつもりはなさそうだ。更に「うわ……。」と和樹が絶望的な声を出す。そして、涼矢のほうを見た。「おまえ、運転、だいぶ上達した?」
「え、まあ、最初の頃よりは。」
「でも、他人乗せたこと、ないよな?」
「おふくろだけ。」
「うーん。」
「どうした?」そこでやっと涼矢が問いかける。
「明日、サークルの1年で、バーベキューしに行くんだけどさ。俺は断ってて。つか、断ったつもりだったんだけど、幹事に伝わってなくて、人数入れられてたみたい。で、改めて今断ったんだけど……説明が面倒だから、これ見て。」和樹はスマホの画面を涼矢に見せた。
それによると、和樹を含めた人数で既にバーベキュー設備のある、郊外のキャンプ場を予約してあり、車3台で分乗していく予定だったが、運転係の1人が急病で不参加となり、代わりに誰か運転できる人を探しているのだけれども、18歳19歳の1年生ばかりのことで、元々の運転係以外の免許保持者が他にいなくて困っている……とのことだった。和樹が地元の友達が来ているから無理だと答えたら、その友達が運転できるなら頼めないか、和樹と一緒に参加してくれれば人数の増減もなくなり、ドタキャンした人の分のキャンセル料も払わなくて済む、と返されていた。それでも更に和樹が渋っていると、運転手がいないと車1台出せなくなり、それに乗るはずだった4人が参加できなくなる、引いてはこのイベント自体をキャンセルせざるを得ないから、なんとかならないか、と泣きつかれていた。
「そもそも涼矢、嫌だろ? 知らないメンツでバーベキューとか。」
「まあ、気は進まない。」
「だよな。やっぱ断る。」
和樹が断りの返信を入力しようとしたその時に、涼矢がその手を止めた。
「……でも、すごく困ってるっぽいし、いいよ。和樹がそれでいいなら。」和樹はその返答に喜ぶどころか、少し困惑した顔をした。「俺の運転、不安?」
「そうじゃなくて、その。」和樹は言いにくそうに切り出した。「今のそれ、見て分かったと思うけど、俺、涼矢のこと、みんなには……。」
「ああ、そんなの、別に、全然。」涼矢は微笑んだ。「清く正しい、お友達のスタンスで。ピアスも外してく。お揃いはマズイだろ。」
「ごめん。」
「いいよ。悪い虫がいないか、チェックしないといけないし。」
「いねえよ、そんな奴。」
「新歓で和樹と2人で抜けようとした女の子が2人もいるんだろう?」
「関係ねえし。」和樹は改めて返信を入力し始める。
和樹の回答は参加者たちを大いに喜ばせ、和樹と涼矢については、本来参加者の頭数で割り勘にするはずだった、食材の費用やキャンプ場利用料の負担をしなくていい、ということになった。
「車はレンタカーだけど、左ハンドルではないと思うぞ。大丈夫か?」
涼矢は笑う。「教習車は日本車だよ、大丈夫。都内の道路のほうが怖いな。田舎道しか走ったことないから。ナビ見る余裕なかったら、おまえにお願いするからな。」
「了解。レンタカーで涼矢の助手席デビューか。左ハンドルが良かったな。そういや、何乗ってんの。ベンツ?」
「BMW。」
「まあ素敵。そのうち乗せてね。」
「いつでもどうぞ。」
「佐江子さんは良いけど、テツは乗せるなよ。」
涼矢はハハッと笑った。「哲に会わせるとかなんとか言ってたけど、それより先に俺が和樹の友達に会うことになっちゃったな。」
「ああ、そうだね。」
「ちょっと緊張する。」
「大丈夫だって。みんな普通に良い奴だよ。」
「和樹にかかれば、大抵の奴は普通に良い奴なんだろうけど、俺は心が狭いから。」
「無理しなくていいよ。つまんなかったらつまんなそうにしてて。高校の時はそうだったろ。」
「今でもおまえ以外からは無愛想に見えてるんだと思うよ。何考えてるかわからないって、たまに言われるし。」
「俺に対しては気を使ってるの?」
「そういうわけでもない。他の人の前でも、おまえの前でも、基本的には、思った通りに行動してる。おまえといるのは楽しいから楽しそうな顔をしてるんだろうし、他の人の前ではつまんないからつまんなそうにしてんだろ。逆に、高校の時はおまえの前で嬉しそうな顔にならないように気をつけてたけど。」
「……そう言われると、複雑だな。まあ、おまえもさ、そろそろ多少はコミュ力つけておいたほうがいいんじゃないの。」
「努力するよ。ニコニコと愛想良く。」
「うわ、無理っぽい。」和樹が笑った。
「和樹の今後の友達関係に迷惑をかけない程度には、ね。」
和樹は涼矢にキスをした。「やっぱり、いつも通りでいいよ。俺といる時だけ楽しそうにしてて。」
涼矢は和樹をぎゅっと抱きしめた。
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