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第54話 Your friends(2)

 翌朝、2人は集合場所のレンタカー店に向かった。3台のうちの1台は自分の車で、同乗者を拾いつつ現地に直接向かうということで、レンタルするのは2台だけらしい。手続きでバタバタしている中で、涼矢のことはごく簡単に紹介するだけで済んだ。無事に手続きを終えると、それぞれの車に乗り込む。2人の同乗者は、彩乃と舞子という2人の女性だった。どうやら幹事が気を利かせたつもりで、女性2人を和樹たちの車に割り当てたようだ。  涼矢が運転席に座ると、同乗者の1人である彩乃が助手席のドアを開けた。彩乃が乗り込む前に、すかさず和樹が滑り込んだ。「ごめん、こいつ、こっちのほうの道に詳しくないから、俺がナビしなきゃで。」 「ああ、そうなの。」彩乃は一瞬不満そうな顔を浮かべたが、すぐにそれを消した。  彩乃は後部座席の、既に乗りこんでいる舞子の隣に座った。シートベルト着用を確認したところで、発進する。  和樹は助手席から後部座席の2人に話しかけた。「ええと、彼は、さっきチラッと紹介したけど、田崎涼矢です。俺の地元の友達で。」 「初めてましてぇ、茅野舞子(ちの まいこ)です、よろしく。」 「こんにちは、川崎彩乃(かわさき あやの)です。」 「アヤ……?」涼矢がごく小さな声で呟いた。 「あはは、そうそう、都倉くんの元カノと同じ名前なんだってね、私。字は違うみたいだけど。」と彩乃が言った。「初対面の時、今の田崎くんと同じ顔されたわ。」うふふ、と笑う。 「そっか、田崎くんは、そっちのアヤノさんを知ってるのね。」と舞子が言った。和樹の元カノ、川島綾乃については、新歓の時にポロリと言ってしまっただけで、その場でそれを聞いていたのは、この川崎彩乃と、もう2人ぐらいほどしかいなかったはずなのに、いつの間にかサークル中が知っている。苗字まで微妙に似ていることまでは知られていないようだが。川島綾乃が可憐な百合のような美人だったとしたら、こちらの川崎彩乃は薔薇か蘭の如く華やかな美人だ。 「そのアヤノさんてどんな人だったの? 都倉くんは全然教えてくれないのよね。」と彩乃が言った。 「うちの学校じゃ一番の美人と言われてた。」涼矢がそう言うと、女子2人から「キャー」と歓声が上がった。 「都倉くん、すごいね。そんな可愛い子とつきあってたんだ。」と舞子。 「今つきあってるのは違う子なんでしょう? なんでそんな美人、振っちゃったの?」と彩乃。 「振ったんじゃなくて、振られたんだよ。」和樹は答える。 「ええ、なんで? もしや、浮気?」 「違うよ、なんか、クリスマスイブに冬期講習入れたのが気に入らないって、キレられて。」 「彼女に相談なしに、勝手にそんなことしたの?」 「だってお互い受験生だもの、相談も何も、そっち優先に決まってるだろ。……と、当時の俺は思ってました、すみません。」 「うわあ、アヤノちゃん、かわいそう。」と彩乃。 「田崎くんは?」と舞子が話しかけてきた。「田崎くんは、つきあってる人、いるの?」 「ええ、まあ。」  また「キャー」と声を上げる2人。 「それはザンネーン。」と彩乃が笑った。 「その彼女は、今どうしてるの? 地元?」 「そう……ですね。」 「敬語じゃなくていいよ、タメでしょ?」と舞子が言った。「彼女置いて、東京来たの? 田崎くんの彼女も、ちょっとかわいそうかもー。」 「はは。」涼矢は曖昧に笑った。笑った、と和樹には分かったが、彼女たちに伝わったかどうかは、分からない。 「今日一緒に来てたけど、今は都倉くんのとこにいるの?」 「そう。」 「へえ、都倉くんちってどこだっけ。」 「西荻。」と和樹が答えた。 「あら、うちとそんなに遠くないじゃない。今度遊びに行かせてよ。」と彩乃。 「ダメ。」 「なんでぇ。」 「彼女が怒っちゃう。」和樹は、涼矢も一瞬本当のことかと思ってしまうぐらいに、自然な口調で"彼女"と言った。こんな誤魔化し方に慣れているのだろう。 「ああ、そっかぁ。」 「でも、何人かで行くなら、いいんじゃない? 男の子も呼んでさ。」舞子が言う。 「狭いからそんなに何人も入れないよ。」 「いいな、1人暮らし。」 「2人とも自宅生?」 「うん、そう。うちは高井戸のほうなの。分かる? 舞子は、経堂。」 「東京の地名はさっぱり分からん。渋谷とか銀座とかならまだ分かるけど。」 「もう4ヶ月もいるんだから、覚えなよぉ。」と舞子。 「昨日、上野に行ったんだよ、おのぼりさんツアー。……あ、涼矢、次のとこ、右折。」 「ん。」久々に涼矢が発したのは、そんな言葉とも言えない相槌だった。 「上野! 何しに? パンダ?」 「やっぱパンダだよねえ。でも、パンダは見なくて、芸術鑑賞してきた。」 「美術館ね。都倉くん、絵、好きなの?」 「ううん、涼矢が。」 「へえ、芸術家なんだぁ。」彩乃が涼矢をチラリと見る。 「ねえ、田崎くん、どんな高校生だったの、都倉くんて?」舞子が聞いた。 「どんなって……。モテてたよ。」  定番の「キャー」の後、「じゃあ、アヤノちゃん以外にもいたんだ?」 「涼矢、余計なこと言うなよ。」和樹が釘を刺す。 「田崎くんは都倉くんとは、クラスメートだったの?」 「そう。んで、部活も一緒。」和樹が答えた。 「何部?」 「水泳部。」 「そうなんだ、言われてみれば2人ともガタイいいもんね。」彩乃がはしゃいだ口調で言った。「細マッチョって感じ。」 「現役の時は、ムッキムキだったよ。な。」和樹は涼矢に振る。 「うん。」 「田崎くん、シャイだねえ。」と舞子は言い、ごそごそと手にしていたレジ袋から何やら取り出した。「グミ食べる?」言いながら、彩乃と和樹に配る。涼矢にも渡そうとすると、和樹が手を出した。 「涼矢の分も俺にちょうだい。」  舞子が和樹の手に追加で数個乗せると、和樹はそれを涼矢の口元に持って行った。涼矢も普通に口を開けてそれを食べる。 「田崎くん、餌付けされてるみたーい。」と舞子が笑った。  餌付けされてるのは俺の方だけどな、と、和樹は心の中で思ったが、黙っていた。

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