55 / 1020

第55話 Your friends(3)

「そう言えば彩乃、例の彼とはどうなったの?」と舞子が言い出した。 「えー、その話、今ここでするぅ?」と、いかにも聞いてほしそうに彩乃が言う。 「例の彼って?」和樹がノッてみせる。 「この間、合コンあったの。相手、社会人でね、○○物産の人でぇ。」 「○○物産か、すごいな。」 「ちょっとね、1人、いいなーって思ってた人がいて。そしたらその後、その人から連絡来て、1回、食事したんだ、2人で。」 「ほう。」 「まだそこまでなんだけど。でも、またゴハン食べに行こうねーって言われた。」 「脈アリアリだね。」 「うふふ。」 「舞子ちゃんは?」と更に和樹は振った。彼女たちにしゃべらせていたほうが気楽だからだ。 「私はなんにもないわよ。」 「嘘だあ、あるじゃない。みなさーん、この子嘘ついてまーす。」彩乃がわざと大声で言う。 「だって、まだ返事してないんだもん。」 「迷ってるの?」 「うーん、だって、どういう人かまだ良く分からないし、つきあってからやっぱり別れたりしたら、友達との仲までおかしくなりそうだし。」 「あのね、舞子は、バイト先の人から告られたんだって。そしたらその人、偶然、中学の時からの友達のお兄さんだったんだって。」 「もう、なんで言っちゃうの!」舞子は彩乃を睨んだ。 「でも、迷ってるってことは、その人のこと、嫌なわけじゃないんだ?」和樹が突っ込んだ。 「そうだけど……。」 「バイト以外で、2人で会ったことは?」 「ないの。」 「とりあえず、彩乃ちゃんみたいに、2人でご飯でも行ってみればいいんじゃない? それからつきあえそうかどうか判断しても。」 「そんなことしたら、断りづらくなりそうで。」 「なんで別れたり断ったりする前提なの?」と和樹は笑った。 「本当よね。」と彩乃も同調した。「舞子って慎重すぎるのよ。」 「ま、ね、そうは言っても、俺の女の子の友達で、ストーカーに遭った子もいるからさ、ある程度は慎重になったほうがいいのかもしれないけどね。」和樹はエミリのことを思い浮かべながら話した。 「そのストーカーって、知っている人だったの?」彩乃が興味を示した。 「元カレってことになるのかな。何回かデートはしてみたけどどうしても合わなくて、別れを切り出したのに、相手の男は納得してくれなくて、つきまとわれたって話。」 「怖ーい。」 「今は学生寮に入ったし、共通の知り合いとかがその相手にいろいろ言ってくれたみたいで、大丈夫そうだけど。」舞子が黙り込んでしまったのを見て、和樹は慌てた。「ごめん、怖がらせた? でも、その人、友達のお兄さんなんだろ? だったら、そんな風になることはないと思うよ。」 「そうよ、大丈夫だって。」彩乃もフォローに回る。 「うん、ちょっと、がんばってみる。」舞子がそう言ったので、車内は安堵の雰囲気に包まれた。  昼少し前、涼矢の運転する車はキャンプ場に到着した。一緒にレンタカー店から出発したもう1台は一足早く着いていた。自宅から自分の車で来ると言っていた残りの1台はまだだったが、もうすぐ着くようだ。  キャンプ場は、自分たちでテントを設営して、宿泊も伴うような本格的なキャンプのエリアもあるが、調理機材からテーブルや椅子まですべてセットになっている、手軽なバーベキュー専用エリアもあった。和樹たちのサークルが申し込んであるのは後者だ。希望すれば食材すらもそこで買えるが、高くつくので、それだけは持参していた。 「ところで、何のサークル?」車から食材を出すのを手伝いながら、涼矢は今更な質問を和樹に投げかけた。 「学祭実行委員会。」 「ああ、そういうのか。体育会系ではなさそうだし、何だろうと思ってた。」 「涼矢は人付き合いが苦手だからサークルやんないの?」 「1回入りかけたんだよ。でも、詳しく説明聞いたら、思ってたのと違ってて。」 「美術系?」 「の、つもりで入ろうとした。広告デザイン研究会って名前だったから。でも、どちらかというとイベサー的な感じで。広告代理店とか目指してる人が入るところだったみたい。学祭でライブや講演会の企画するのがメインで、デザインてのはどこに関連してるんだろうと思ったら、学祭のパンフ制作を担当してるとか、そんなぐらいなもので。」 「ああ、わかる、うちの大学にもある、そんな感じのサークル。」  食材を並べ終えると、次は炭を運んだり、それに火を入れる作業を手伝った。  そんな時、少し離れた調理スペースの女子たちから、次々に声が上がった。 「ねえ、キャベツは焼きそば用だよねえ?」 「にんにくあるんだけど、これって、薬味? これも焼くの?」 「じゃが芋、どうやって切ればいい?」  それに満足に答えられる人間がいない。  和樹は涼矢の脇腹をつついた。助けてやってくれという意味なのは分かったが、涼矢は首を横に振った。「おまえのためにしか料理するつもりはない。」と、小声で言う。 「お疲れ。」と言いながら誰かが近づいてきた。クーラーボックスを抱えた男。幹事の鈴木だ。「ミヤちゃんたちも着いたよ。」  そう言う後ろから、4人やってきた。「ごめん、遅くなった。」先頭の大柄な男が言う。4人とも男のようだが、その中の1人は原宿あたりにいそうな、ポップなファッションに身を包んだ小柄な男で、中性的なルックスをしていた。  遅れて到着した彼らは、涼矢の姿を認めると、不審そうな表情を浮かべた。そんな中で、小柄な男が「ああ! トックンの友達の人ね?」と言った。それを聞いて他の3人も腑に落ちた顔になった。  トックン? 今度は涼矢のほうが微妙な面持ちになる。和樹はそんな涼矢に気づき、「彼は宮脇くん。ミヤちゃんて呼ばれてる。何故か俺をトックンと呼ぶ。」と説明した。  4人の視線に「田崎です。お邪魔してます。」と涼矢は言い、軽く頭を下げた。

ともだちにシェアしよう!