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第56話 Your friends(4)

「俺は渡辺。こっちこそ、急に運転なんか頼んじゃって、ごめんね。」渡辺と名乗る男は軽い調子で言った。 「そうだよ、俺だって今日は欠席って言ったのに、鈴木にちゃんと伝えてくれてないしさ。」と和樹が言った。 「悪い悪い。欠席って言ってたのすっかり抜けてて、来るものだと思い込んじゃってて。ていうか、都倉が来ないと女の子の参加率が下がるからさあ。」 「んなわけねえだろ。」 「あるよ。」そこで渡辺は和樹に寄ってきて、小声で言った。「彩乃ちゃんたちと同じ車だっただろ? あれ、彼女たちからのリクエストだから。」 「ああ? でも、なんか合コンで知り合った社会人とうまく行きそうとか言ってたよ。」 「そりゃ、作戦だろ。おまえの気ぃ引くための。」渡辺はニヤつきながら、その場を離れて、他の3人と共に手伝い作業を開始した。  和樹は気まずそうに涼矢を見た。今の会話が涼矢にも聞こえていたのは明白だ。「先に白状すると、彩乃ちゃんと舞子ちゃんは、例の、俺に2人で抜けようって言ってきた子たち。たぶん、男連中はそのこと知らないし、あの2人自身もお互いがそんなことしたって知らないのかも。」 「悪い虫。」 「何もねえよ。少なくとも俺のほうにはそんなつもりゼロだから。」  また女子の声が響いてきた。 「玉ねぎ切ったらバラバラになっちゃった、どうしよう!」 「たれで下味つける? 塩コショウだけする?」 「ねえ、じゃが芋どうするってば?」  和樹は顎でその声の方向を示し、「あれじゃ何食わされるかわかんないぞ。悪いけど、手伝ってやってよ。」と言った。 「本気出して、女子力叩き潰してきていいなら。」 「構わない。やっちまえ。」  涼矢は調理班へと向かった。  バーベキューが始まった。プラコップにジュースを注いで乾杯する。そこでようやく、全員を前に涼矢が紹介された。ごくあっさりとした紹介で、特に戸惑う場面もなく過ぎた。  涼矢は席に着くことなく、バーベキューコンロのところに立ち、黙々と肉や野菜を焼いた。涼矢に大半の作業を押し付けることになった女の子たちが、焼き上がったものをいそいそとテーブル席に運ぶ。時折、気の付く男子の一部が「俺やるから、○○ちゃんも座って食べなよー」などとご機嫌を取りながら、その作業を交替してやったりする。  和樹は一度だけ涼矢の元に行き、手伝おうかと声をかけたが、席に座って会話を強いられるよりもこちらのほうが気楽だと言って、引き続き焼き係を担当すると主張した。それが本音で言っているのは和樹にも分かったから、そのまま任せた。 「田崎くん、お料理が上手なのね。びっくりしちゃった。」と、いつの間にか和樹の隣の席を確保した彩乃が言った。 「料理は趣味みたい。」 「彼が来た途端に私たちの出る幕なし、よ。手伝わなくちゃと思うけど、却って邪魔するみたいで。」涼矢が本気で叩き潰そうと思ってやったなら、そういうことになるだろう。 「あいつは好きでやってるから、気にしないで食べなよ。」 「もしかして、田崎くんが料理してるの、今? 都倉くんちにいるんでしょ?」 「うん。宿泊費の代わりに作ってもらってんだよ。」 「いつまでいるの?」 「もうちょい。」2週間も滞在する、と言ったら勘ぐられそうで明言は避けた。 「彼女は怒らないの?」 「え。……だって、男だし、別に。」 「いくら友達でも、私だったら、自分以外の人が彼氏の家に泊まりこんで、料理してるのってちょっと嫌だわ。しかも田崎くん、私より料理上手で、彼女としては立場なくない?」 「……彼女も涼矢のことはよく知ってるし、そういうの気にする子じゃないから。」架空の彼女は、エミリの想定だ。 「アヤノちゃんを振ってつきあってる子ね? 遠距離なんだっけ。」 「……ああ。」そう言えば、誰かにチラッと遠距離恋愛だと話した気がする。フェイクを入れていると、どこまで本当のことを話しているのか混乱してしまう。しまったな、と和樹は思った。 「よう、食ってるか。」幹事の鈴木が2人の間に割り込んできた。 「食ってるよ。」 「田崎くんだっけ、彼、有能だねえ、運転できるわ、料理できるわ。誘って正解。」 「でも、人見知りだから、あんまり構わないでやって。」 「ミヤちゃんが懐いてるよ。」  和樹は涼矢のほうを振り返った。見える位置にいるとつい目で追ってしまうから、背を向ける位置に座っていた。  涼矢の隣には宮脇がいた。見た目は対照的な2人。オリーブグリーンのTシャツにジーンズという地味な涼矢と、パステルカラーの個性的な服に身を包んだ宮脇。身長差も20cmほどあるように見える。宮脇はさかんに涼矢に話しかけていて、涼矢も別にそれを不快そうにも思わない様子で時折返事をしている。

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