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第57話 Your friends(5)
少し前。
ミヤちゃんこと宮脇は、涼矢のもとに近づいた。
「田崎くん。」
「あ、肉だったら、自分の皿、持ってきて。」
「いやいや違うの。ちょっとお話ししたくて。」宮脇の手には皿ではなく、缶ビールがあった。
それを見咎めて、涼矢は言う。「ノンアルビール?」
「ううん、本物ビール。あのね、僕、成人してるから。専門学校行ってから大学に入りなおしたの。」
「あ、そうなんですか。」
「やだ、年上だからって急に敬語やめてよ。」どこか女性的な口調と仕草だ。「僕ね、服飾系の専門行ってたんだけど、服飾史とか興味出ちゃって、卒業してからまた1年受験勉強して、大学に入り直して、今は西洋史専攻してるの。だからみんなより3歳年上。……変な格好してる奴、って思ったでしょ?」
「個性的だとは思うけど、変とは思わない。着たいもの着ればいいんじゃない? 似合ってるし。」
「やーん、田崎くん、お世辞ぃ?」それに対して特に反応しない涼矢だったが、宮脇は構わず話し続ける。「僕も、田崎くんみたいにスタイル良かったら、いくらでもオシャレしちゃうんだけどな。羨ましいな、その身長。」
「今のそのカッコは、したいわけじゃなくて、身長を理由に仕方なくしてるの?」
「そんなことないよ、こういう可愛い格好も大好き。ほら、この靴とかも、可愛くなーい?」足を上げてリボンのような紐のスニーカーを見せる。厚底だから、実際の身長は更に低いということだ。
「もし俺がそういう可愛いカッコが好きでも、似合わないだろ。でも、ミヤ……さん?は、そういうの好きで、似合ってて、誰かに迷惑かけてるわけでもないんだから、何も問題ないと思う。」
「やーん、嬉しいな。田崎くん、マジ神! 感動! 何か手伝う! 何やる? フランクフルト焼く?」
「……えっと、じゃあ、このへんの肉、焼き過ぎになっちゃうんで、空いてる皿に入れて、向こうのテーブルに持ってって。」
「田崎くんは食べてる? さっきから見てると、焼いてばかりでほとんど食べてないでしょ。」
「いや、適当に食ってますよ。」
「そう? ビール飲む?」
「未成年だし、ドライバーだし。」
「そっか。じゃ、お肉頂いてくね。」
そうして、宮脇は肉の皿を持って、和樹たちのテーブルにやってきた。「トックン、お肉だよぉ。」
「サンキューでーす。」和樹は皿を受け取る。
「サッキー、超良い子ねえ。」と宮脇が言った。
「誰?」
「田崎くん。」
「また勝手な仇名つけて。全然浸透しないのに。」"トックン"も宮脇だけしか言わない。
「サッキーに可愛いって言われちゃったあ。」
「良かったね。」
「あれ、嘘ってバレた?」
「あいつがミヤちゃん見てそんなこと言うわけが……。」というところまで言いかけて、ふと頭をよぎる顔があった。
「どうしたのぉ。」
「いや、涼矢の幼なじみで、すげえ頭の悪いヤンキー小僧がいるんだけどさ、地蔵みたいな顔してるのに、涼矢はそいつのこと可愛いって言ってたなって、思い出して。だから、ひょっとしたらミヤちゃんが可愛く見えてしまう可能性もなきにしもあらずで……。」
「ちょっとちょっとちょっと。僕は地蔵顔じゃないでしょ。ヤンキーなんて一番キラーイ。ダサーイ。」確かに、宮脇は可愛らしい顔立ちをしていた。小柄も手伝って、スカートでも穿けば女の子に見えてもおかしくない。「さーてと、サッキーのお手伝いしてこよっと。」宮脇は弾んだ足取りで涼矢のほうへと戻って行った。
その後も時々、和樹は涼矢の様子をうかがってみたが、宮脇は本当に良き助手として働いているようで、その2人のおかげで料理はスムーズに提供された。特に、カレーライスを作る予定が、食材調達係がルゥを買い忘れていたことが最後の最後に発覚し、急遽メニュー変更するほかなくなった時、この凸凹コンビは実力を発揮した。涼矢の機転で白飯は焼きおにぎりとなり、途中まで煮てしまった野菜は余ったウィンナー等と共にポトフ風スープとなり、これが好評を博した。そのおにぎりの大半は宮脇が握ってくれたのだった。
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