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第58話 Your friends(6)

 そんな中でも、涼矢に興味を持ったらしき女の子がちらほらと近づくことも、ないわけでもなかったが、料理を受け取る以外のことを話しかけようとすると、宮脇が「うちのナンバーワンに慣れ慣れしくしないでちょうだいっ」などとオネエ言葉でことごとく追い払うのだった。宮脇が涼矢を独占したくてしていることではあるのだろうが、初対面の女の子たちからあれこれと話しかけられる苦痛を思えば、涼矢にとってもそれはありがたいことだった。  焼きおにぎりとポトフで食材はきれいになくなった。しかし、各テーブルにもまだ焼肉が残っている。それらがなくなるにはもう少し時間がかかりそうだ。料理を取りに来る人がいなくなり、コンロの近くには涼矢と宮脇の2人だけ、という状況になった。立ったまま自分たちの作った焼きおにぎりをかじった。 「サッキー、モテるでしょ。」と宮脇が言った。 「モテないよ。怖いとか言われるし。」 「ひそかにモテてるタイプよ、絶対。」それから横目かつ上目使いで涼矢を見上げた。「でも、女の子、好きじゃないでしょ?」 「え。」宮脇とは結局、かれこれ3時間近く一緒にいたが、ここで涼矢は初めて顔色を変えた。 「みんなには分かんないわよ、あたしだけよ。」宮脇もここで初めて「あたし」と言った。 「……ミヤさん?」 「サッキーとあたしは、違うけど、おおまかには同じ種類の人間よ。だから分かっちゃう。」 「……。」 「あたしはバイなの。」 「……そう、なんだ。」 「トックンとつきあってるのね?」 「……俺の片想いだよ。」  宮脇はフッと笑う。「それでトックンを庇ってるつもり? 嘘が下手ね。本当にクローゼットにしたいなら、もっと上手くかわせるようにならなくちゃ。……でも、トックンがそうだとはさすがのあたしも全然分からなかったわねぇ、あたしもまだまだだわ。トックンは嘘が上手……と言うより、きっと彼は元からのゲイではないのね。でも、サッキーと一緒にいるのを見たら、分かっちゃった。」 「……。」 「ほら、そんな顔してあたしを見てたら、みんなが変に思うわ。さっきまでと同じように淡々と。表情が作れないなら、コンロの片づけでもしてるふりしなさい。……大丈夫、誰にも言わないわよ。あたしは嘘をつくことも、秘密を守ることも慣れてるの。あたしのことだって、みんなは本当のことは知らない。ちょっとオネエっぽい変な奴としか思われてない。」嘘をつくことには慣れている、そう言った宮脇のまっすぐな目は、嘘をついているようには見えない。  涼矢は「ふり」ではなく、本当にコンロの片付けを始めた。うつむきがちに作業をして、みんなから顔が見えないようにする。「俺はどう思われてもいい。でも、あいつは、ここで、これからも、みんなと過ごさなきゃならないから。……マジで、お願いします。」と言って、宮脇だけに分かるように、頭を下げた。 「あたしを信用してくれて嬉しい。」宮脇は涼矢に笑いかけた。「トックンもサッキーも、大丈夫よ。これからもうまく行くわよ。」  涼矢はうつむくのをやめ、背筋を伸ばした。「ミヤさんに言われるとそんな気がしてくる。」そう言って、涼矢も宮脇に笑いかけた。  その瞬間、宮脇の微笑みが、「にこっ」から「ニヤッ」に変わった。「……でも、とりあえずあたしにお持ち帰りされてみない?」と言った。 「あ、それは無理。」涼矢の顔からも微笑みは消え、素っ気なく即答した。 「あたし、上手よ?」 「俺もだよ。」 「タチもネコもできるわよ?」 「俺も。」 「あたしは、女も抱けるのよ?」  涼矢は絶句した。その後に苦笑して、「……俺の負け。」と言った。 「ふふん。」 「完敗だよ。」涼矢は宮脇を横目に見る。「女抱けないどころじゃない、俺、あいつしか抱けない。」  顔色を変えたのは宮脇だった。「あーもう、何この敗北感!!」 「いやいや、ミヤさん勝ちでしょ、圧倒的勝利。」 「クッソ、おまえムカつくな!」 「ミヤさん、声、野太くなってる。」 「あらやだ、ちょっと地が。……ま、トックン相手じゃそもそも勝ち目はないけどね。」 「あいつも、知らないんだよね? その、ミヤさんがバイってこと。」 「知らないわ。教えてないもの。そこまで勘が鋭い子じゃないでしょ、彼。」 「どっちかというと鈍い。」 「でしょ。でも、言いたかったら言ってもいいわよ。ただし、他の子には内緒でね。まあ、あたしはバレたところで、みんなの印象は大して変わらないでしょうけど、ちょっと計画があるから、それを邪魔されたくないの。」 「計画?」 「そうね、サッキーには教えてもいいかな。今ね、あたし、LGBTの学生への理解を求めて、大学内での差別をなくすっていう活動してるの。都内にはもう何校かそういう組織がある大学もあって、うちの大学にも導入できないか準備してる。固まったら、サークルのみんなにも話して協力してもらって、学祭とかでも何らかの形でアピールの場を作りたいの。その時にバーンと発表しようと思っててね、そのほうがインパクトあるでしょ?」 「……すげ。」 「サッキーも興味あったら、話を聞きに来て。地方の大学で同じように活動するのはまだ難しいかもしれないけど、理解者が増えるのは良いことだわ。あ、連絡先を教えておくわね、SNSでもいろいろ発信してるから。」宮脇は斜め掛けをしていたポシェットから、自作らしき名刺を出してきた。ファッションの一環としての飾りのポシェットかと思いきや、実用しているようだ。 「あ、うん。」涼矢はそれを受け取った。  その時、幹事の鈴木が、お開きを宣言した。 「サッキーのおにぎり、美味しかった。」宮脇は指先をペロリと舐めた。 「それ、ミヤさんが自分で握ったやつ。」 「ふふ、すり替えたのよ。あたしが食べたのがサッキーが作ったので、サッキーが今食べてるのがあたしのよ。もう、あたしの手汗のしみたおにぎりが、サッキーの血となり肉となるんだわ。」 「炭水化物だから、血にも肉にもならないよ。ラップで握ったし。」 「ロマンチックじゃないのね。」 「手汗のしみたおにぎりのどこがロマンなんだよ。」  2人で、プッと吹き出した。

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