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第59話 Your friends(7)
全員で片づけをして、来た時と同じメンバーで車に乗り込み、帰途についた。帰りの車内で女子2人は、疲れたのか、寝てしまった。
「和樹も寝ていいよ。もう、道、だいたいわかるし。」
「助手席で寝られたら運転手も眠くなるだろ。起きてるよ。」
「そう?……あ、俺の鞄に黒いメガネケース入ってるから、出してくれない?」
「メガネ?」和樹が涼矢のバッグを探ると、確かにメガネケースがあった。「メガネ、かけてるの?」
「運転する時だけ、それも、疲れ目で良く見えにくい時だけ。免許取った時は裸眼でクリアしてるんだけど、元からギリギリの視力でさ。」
和樹は驚きながら、メガネを涼矢に渡す。ちょうど信号待ちで止めている間に、涼矢はそれをかけた。ごく普通の、黒縁メガネ。
その横顔を見た瞬間、うわ、格好いい……と言ってしまいそうになるのを、なんとかこらえた。後部座席の2人がいつ起きるとも限らない。なんだこの、メガネマジック。これがあれか、女子がたまに騒いでる、メガネ男子ってやつか。
「どうした?」和樹の赤面に、涼矢が不思議そうにする。
「なんでもない。」そうとしか言えない。「そういや、ミヤちゃんと随分盛り上がってたな。」和樹は話題を変えた。
「ああ、面白いね、あの人。ミヤ……ミヤザワだっけ。あれ、ミヤノ?」
「宮野は高校の時の奴だろ。宮脇だよ。本当に名前覚えるの苦手なんだな。」
「だって、ミヤしか印象にない。彼、年上なんだね。」
「ああ、浪人してるんだったかな。」
「専門学校を卒業して、それから1年勉強して入ったから3歳年上だって言ってた。」
「え、そんなに上なんだ。一浪かと思ってた。ちっちゃくて童顔であんな格好だから、年齢不詳なんだよな。」
『あたしのことだって、みんなは本当のことは知らない』、そんな宮脇の言葉を思い出す涼矢だった。ゲイだのバイだの以前に、宮脇についてはその個性的な見た目の印象が強いがゆえに、逆に見た目以外のところまで深く関わって理解しようとする人間は、案外限られるのかもしれない。
「たぶん、おまえが思ってるより、ずっと大人だよ、あの人。大人って、単に3個年上だからって意味じゃなくて。」
「そうか。おまえが言うなら、そうなんだろうな。あんまり話したことないけど、今度ちゃんと話してみよう。」
「いや、話さなくていい。」
「なんでだよ。」
「……。まあ、その件は、後でな。」
涼矢がそう言うと、和樹もそれ以上深追いはしなかった。
女の子たちをそれぞれの家の近くまで送り届けた後、レンタカー店に戻って精算した。費用は幹事からきちんともらってある。2人は今日の費用負担はなしでいいとは言われていたが、さすがにまったくタダというのも気が引けたので、みんなで割り勘しやすい額になるよう、端数だけは支払った。それでも、他のメンバーよりはだいぶ安かったはずだ。
和樹のアパートまで戻った頃には、夜の8時近くになっていた。帰宅して開口一番、「まだ、腹いっぱい。夕飯要らないかも。」と和樹が言った。「でもこういう食べ方すると、変な時間に腹減るんだよなあ。」
涼矢は部屋に上がってすぐ、車を降りてからもかけっぱなしだったメガネをはずそうとした。
「あ、待って。」和樹がそれを止める。「メガネの正面顔、見せて。」
「は?」
「横顔しか見てなかったから。」
涼矢は少し困ったような顔をして、直立不動で立ち、和樹のやたらと熱い視線を受けた。「そんなの見て、楽しいか?」
「うん。」和樹は涼矢の頬を右手で触れた。その親指でフレームにそっと触れる。「メガネ、似合うな。」
「元の顔が地味だからだろ。」
「そんなことないよ。」和樹は涼矢の顔を引き寄せて、口づけた。「涼矢だけど、涼矢じゃないみたいで、ドキドキする。」
「じゃあ、今日はメガネかけたまま、する?」涼矢は和樹の右手に、自分から頬をすりよせる仕草をした。
「うん。」和樹はもう一度涼矢にキスした。
「でも、シャワー浴びさせて。汗かいたし、煙でいぶされた。」
「風呂、入れようか。シャワーばかりだったろ。お湯につかったほうが疲れが取れそう。」
「一緒に入る?」
「あの狭い風呂にか? 1人でも狭いって思うのに。……でも、それならお湯も半分ぐらいで足りそうで省エネかもな。」
「そうそう、省エネ省エネ。」
「ただし、風呂は廊下に面してるから……いつにも増して、注意が必要と言うか……。」
「ここが一番奥の部屋だし、前を通る人はいないはずだろう?」
「でも、一応、さ。」
「それはおまえが注意すればいいことだ。」
「だったら絶対、余計なことすんなよ。」
「それは無理だよ。」
「なんだよ、それ、ひでえの。」口ではそう言いつつも、笑顔でバスタブに湯を張りに行く和樹だった。
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