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第60話 Your friends(8)

 狭いバスタブの、しかも普段よりもだいぶ少ない湯量だったから、たまるのはあっという間だった。  とにかく髪を洗いたいと言う涼矢は、湯につかる前に洗い場で髪を、そしてついでに体も洗った。その間、和樹はバスタブに身を沈めていた。 「半袖焼けしてるぞ、涼矢。」と和樹は笑った。  涼矢は石鹸の泡を洗い流しながら、自分で自分の二の腕がうっすらとツートンカラーになっているのを確認した。「うわ、本当だ。今日は曇ってたから油断した。」 「コンロのとこは屋根なかったもんな。」テーブル席のほうには簡易な屋根がついていた。 「木陰だったのになあ。」 「これでおまえもスイミングコーチ、やりたくてもできないな。」 「いや、これはちょっとカッコ悪いというだけで、いかがわしいわけじゃない。おまえのキスマークとは意味が違うんだから大丈夫だろう。」 「真面目に答えるなよ。……俺だって、今のところ大丈夫だ。」 「催促してんの?」そう言いながら、涼矢もバスタブに入ってきて、すぐに和樹の首筋にキスをした。マークをつけるように、強めに吸う。 「こら、俺も洗うんだから。」涼矢と交代で、和樹のほうが洗い場に出て、髪や体を洗い出した。 「今日、俺、ちゃんとできてた?」バスタブのへりに顎を乗せて、涼矢が聞く。 「あ? ああ、みんなすげえ感謝してたぞ、鈴木とか特に。あ、幹事の奴な。」 「良かった。」 「彩乃ちゃんは、ちょっと凹んでた。おまえが料理上手過ぎて。本当に叩き潰す気でやったんだな。」 「まさか、あんな、切って焼くだけのもんで本気なんか出すかよ。一応立場をわきまえて遠慮しながらやってたよ。でも、いつの間にか周りから女子がいなくなってた。」  和樹は笑った。「それで、さっき、後でって言ってた、ミヤちゃんの件。」 「……うーん、それは、後ほど。」 「なんでそんな先送りにするんだよ。俺に言いたくない話?」 「言いたくない話。」 「余計気になるだろうが。」和樹もバスタブに足を入れた。バスタブは狭くて、涼矢に重なるようにしか入れない。もちろん、2人にとってそれは何の問題もなかった。  涼矢はしばし思案する。和樹を背後から抱き抱えるように腕を回す。「まず、彼はバイセクシャルだそうだ。」 「えっ、そうなの?……まあ、意外でもない、か。……てか、それをおまえに言うってのが衝撃。俺ら知らんのに。」 「部外者だから言い易いんじゃないの。……人間関係としては部外者だけど、ただ、ええと。」 「なんだよ、はっきり言えよ。」 「なんでそんなことを言ってきたかって言うと……同類だから分かるって。」 「え?」 「俺がゲイっての、見抜かれた。」 「えええ。」和樹は慌てて振り返る。でも、言葉は出なくて、また、元の向きに戻る。 「おまえのことは言わなかった、けど、やっぱ、バレてて。否定したけど、俺が下手で、すぐ嘘ってバレて。」 「……。」 「おまえだけを見てた時には全然気付かなかったけど、俺と2人でいるのを見たら分かったって……だから、俺のせいだ。ごめん。」 「……そう、か……。」 「ごめん。」 「いや、いいよ。遅かれ早かれ分かることだし。おまえをあの場に連れてくって決めた時から、ちょっとは覚悟してた。」 「ミヤさん、誰にも言わないとは言ってくれてた。それは信用できると思う。」 「じゃあ、そうなんだろ。あれだけ一緒にいたおまえが言うなら。」 「彼、そういう、バイとかゲイの学生のための活動をしてるらしくて。大学でそういう学生が差別されないように理解を求めて行く、みたいなことなのかな。俺も詳しいことは分からないけど。だから、面白半分でそんなこと言ってきたんじゃないんだ。そのうち、サークルのみんなにも説明するって言ってた。その時に自分がバイだってことも公言する予定だから、俺が和樹にこのこと話すのはいいけど、みんなにはまだ黙っていてほしいって。」 「え、それって、俺もその時、ミヤちゃんと一緒にみんなにカミングアウトしろってこと?」 「違う違う。それはミヤさんの話で。……そのへんははっきり話したわけじゃないけど、誰にも言いたくない人もいれば、誰にでもオープンにしたい人もいるだろうし、友達には理解してほしいけど親には言いたくない人とか、いろいろいるから、それぞれの考え方が尊重されるようにしたいっていうことなんじゃないかな。ミヤさんが和樹の承諾もなく、和樹のことを第三者に言ったりはしないし、ミヤさんがカミングアウトするからって、和樹もそうしろと強要することもない。……と、俺は解釈した。」 「ふうん。そっか、ミヤちゃんて、そんな活動してたんだ。」 「うん。他大の人とも交流してるみたいで、名刺ももらったよ。かなり真面目に本格的にやってるんじゃないかな。」 「へえ。……そんな真面目な話の割には、最後のほう、2人で笑いあったりしてたように見えたけどね。随分と楽しそうに。」 「なに、嫉妬?」 「そうだよ。」 「嫉妬されるようなこと……あったな、ちょっと。」 「あったのかよ!」 「ちゃんと断った。」 「何を?」 「俺をお持ち帰りしたいって。」  和樹は振り向いて、怒りをあらわにした。「な……なんだと?!」

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