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第61話 彼らの事情(1)

「ミヤさんだって冗談で言ってるだけだよ、気にすんな。」 「馬鹿言え、なんだあいつ、今度会ったら〆てやる。」 「俺がもう〆たからいいよ。」 「どうやって。」 「俺は和樹しか抱けないからって言ったら、血相変えて口惜しがってた。」 「おまえ、いったいどこまで話したんだよ!!」 「ミヤさんも俺もネコもタチもできるとか。」 「……おまえら2人とも初対面で暴露しすぎだろ。」 「ミヤさんはバイだから、女もイケるって。その点では、和樹のほうが近いな?」 「俺のいないとこで何の話してんだっつの。これからどういう顔して会えばいいんだよ。」 「それから、ミヤさんに、自分は上手だよって言われて、悔しかったから俺もだよって言っちゃったけど、それ、嘘になるかな? 俺、おまえしか知らないから、分かんないんだよね。」  和樹は絶句した。唇がわずかにモニョモニョと動く。何か言いたそうだが、言うに言えないようだ。 「あーあ、結局和樹に全部バラしちゃった。ここまでバラすつもりなかったんだけど。」 「……聞かない方が良かった……。」 「だろ? だから、後回しにして、あわよくば忘れてくれたらいいなって思って……せめてもう少し時間くれれば、俺ももう少しうまく伝えられたかと思う。」 「俺のせいかよ。」 「そうは言わないけど。」 「言ってるよ。まあ、もう、済んだことだし、いいけど。」和樹は180度回転して、涼矢と対面する形になった。「……それより、さっきの。」 「さっきの?」 「俺しか抱けないって。」 「うん。」 「本当の本気で言ってる?」 「当たり前だろ。」  和樹は涼矢の首に手を回す。「それなら、上手ってのも、本当ってことにしといてやる。」 「ありがと。」涼矢は和樹にキスをする。 「それと。」和樹は涼矢の目をじっと見た。「俺も、女はもう抱けねえよ。」再びキスをして、涼矢の耳にささやいた。「おまえのせいだからな。」 「こっちでイカないと物足りないもんね?」涼矢は和樹のお尻の谷間に指を滑らせた。  和樹は一瞬体をビクンとさせて、「だっ、だから、余計なことすんなって。」と言った。 「この体勢でそんなの、無理でしょ。」涼矢は和樹のお尻にあった手を、今度は和樹の腰に回し、ぐっと自分に引き寄せた。そして、頬や首筋に細かく何度もキスをする。 「……なんか、当たってるんすけど。下のほう。」 「なんだろうね?」とぼけつつ、涼矢は軽く下から刺激する。 「動くなって……。疲れが取れるように風呂にしたんだぞ。これじゃ意味ねえ。」和樹は涼矢にしがみつき、顔を涼矢の首元に埋めるようにした。 「だって和樹が。」 「俺がなんだよ。」 「可愛いこと言うから。」涼矢は和樹の頭を撫でる。 「可愛いって言うな。」 「こんなに可愛いのに。」涼矢は和樹の顎に手をやり、顔を上げさせ、キスした。「あー、可愛い可愛い。」両手で頭をぐりぐりと撫でる。 「やめろって。馬鹿にしてんのかよ。」 「馬鹿にするわけないだろ。愛しんでるんだよ。」涼矢は和樹を抱きしめる。「なあ、やっぱここじゃ思うように動けない、から。」 「ん。」和樹は風呂でのぼせたのか、それ以外の理由によるものか、上気した顔で風呂から上がった。バスタオルを2枚取り、1枚を涼矢に渡す。脱衣スペースは狭く、2人一緒に体を拭くこともままならない。和樹は毛先からしずくが落ちて床が濡れるのも構わず、リビングのほうまで出た。そのまま雑に髪も体も拭いただけで、ベッドに腰掛けた。 「ベッドが濡れるよ。」 「いいよ。」 「床もびしゃびしゃ。」 「すぐ乾く。」 「まったく……。俺はドライヤー使わせてもらう。」 「ああ。髪長いと面倒そうだな。俺、タオルドライで余裕。ドライヤーなんかたまにしか使わない。」 「慣れればそうでもないよ。」 「あ、こっち来る時、パンツは穿かなくていいけど、メガネかけてきてね。」 「おまえがそんなにメガネ好きとは知らなかった。」 「俺も知らなかった。」

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