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第68話 彼らの事情(8)

 しばらくエアコンの前で涼んだ和樹は、さすがに涼矢ばかりに働かせるのも気まずくなってきた。「風呂掃除してくる。」 「うん。」涼矢は粛々と作業を進めているようだ。  掃除と言っても、大して広くもない浴室だ。天井や排水溝の奥までしっかりと掃除するのではなく、とりあえず楽に手の届く範囲だけきれいにする程度なら、さして時間はかからなかった。かと言って、あまり早く終わらせても涼矢に手抜きをするなと叱られそうな気がして、和樹は無意味にシャワーを流し続けた。無駄に流れて行く水がもったいなくなり、ジーンズを膝ぐらいまで上げて、足を洗った。指の間まできれいに洗った。昨夜も涼矢に舐め取られた足の指。いつからか和樹の性感帯に加わった場所。 「できたよ。」キッチンから声がかかった。驚いてビクッとした反動で、シャワーヘッドがあらぬ方向を向き、和樹は少々水を浴びる羽目になった。でも、着替えが必要なほどではない。和樹は水を止めて、濡れたところを軽く拭くと、涼矢の元に行った。 「あ、やっぱり美味そう。」和樹はパスタの皿を両手に持って、テーブルに置いた。涼矢は冷蔵庫から、上京初日に持参してきていた「豆鯵の南蛮漬け」を出した。それには玉ねぎだけでなく、細切りのパプリカなども漬けられていて、和樹用に野菜増量になっているようだ。涼矢はそれをいったんは保存容器のままテーブルに持って行こうとしたものの、思い直して、皿に移し替えた。 「いいのに、皿に移さなくても、そのままで。」 「うん。そう思ったけど、これじゃ本気で貧乏くさくなるから嫌だなと思って。お皿のほうが気分いいだろ。」 「まあね。」 「せっかく和樹が揃えてくれた皿だし。皿洗いの手間は増えるけど。」 「そんなことは別にいいけどさ。」和樹は一応「皿洗いは自分の仕事」と思っているらしい。  涼矢と和樹は、いただきます、を言い、食べ始めた。 「うん、美味い。貧乏人なんて名前にしなきゃいいのにな、イタリア人も。」 「イタリア料理って変なネーミングセンス多いと思う。悪魔風とか娼婦風とか。」 「そんなのもあるんだ。」 「悪魔風はスパイシーな辛い料理についてる、かな。それはなんとなくイメージできるけど、娼婦風はアンチョビとかオリーブとかが入ってて、なんでそんな風に言うのかは知らない。」 「へえ。」和樹は鯵にも手を出した。「あー、この魚も美味い。」 「魚ってくくり方、雑だな。鯵だよ、鯵。」 「ふうん。」 「野菜も食えよ。」 「わかったわかった。」 「あ、寿司食いたいって言ったのに、食ってないや。」 「そうだな。昨日バーベキューになっちゃったからな。」 「今日はもう出かけるの面倒だし、明日は哲と会うしなあ……。ま、いつでも食えるか。」 「回ってるのだったらね。」和樹はそれだけ言うと食べるのに集中し、しばらく食卓は沈黙が続いた。 「哲のことが気になる?」切り出したのは涼矢だ。 「え? ……ああ、うん。まあ。少し。」 「さっきはあんな風に言ったけど、和樹なら、きっとうまくやれるよ。哲も人当たり良いし、社交的だし。」 「社交的過ぎるみたいだけどな。」和樹はパスタの最後の一口をフォークに巻き取り、口に入れた。充分に味わってから飲む込む。「なんてね。つい嫌味のひとつも言いたくなっちゃうけど、明日はちゃんとうまくやるよ。それなりに。明日の時間とか場所とか、決まった?」 「まだその返事はない。」 「そっか。……ごちそうさま。美味しかったよ、貧乏人のパスタ。俺の舌に合う。」和樹は空いた皿を下げる。涼矢も慌てて自分の分を平らげて、皿をシンクに置きに来ると、そのまま和樹の隣に立った。  和樹はそれに気づいているはずだが、何も言わずに皿洗いを始めた。洗った皿を水切りカゴに入れると、涼矢はそれを拭いた。普段は自然乾燥のことも多いけれど、断る理由もないから、和樹は涼矢の好きにやらせておいた。 「完了。」和樹は最後に自分の手を洗って、そう呟いた。それと同時に、背後から涼矢が抱きしめた。「わ。まだ、手、拭いてない。」 「びしゃびしゃでも、気にしないだろ。」昨日の風呂上がりのことを指しているのだろう。 「食べたら、アイロン掛けしてくれるんじゃないの。」 「後でやるよ。」 「明日着て行くつもりだから、あの中のどれか。」 「俺と会う時にはそんな洒落っ気出さないくせに。」 「だって、戦闘態勢だよ。テツに、涼矢の彼氏はイマイチだなんて思われたくない。」 「そんな心配、必要ない。」涼矢は和樹の顔を振り向かせて、キスをした。「世界一カッコいい。」  和樹は涼矢の腕の中で半回転して、正面から抱き合った。「今からするの? まだ夕立の気配もないのに?」 「時間なんて関係ないよ。」涼矢は何度も和樹に口づけた。和樹の手も涼矢にからみついてきた。 「ベッド行こ。」和樹がささやいた。2人でもつれるようにベッドに向かい、倒れこんだ。和樹は涼矢のTシャツを荒々しいぐらいに急いで脱がせると、すぐにその乳首を吸った。 「んっ。」和樹は舌と手で乳首を刺激した。早くも涼矢の身体はそれに反応して、ビクンビクンとうねる。  それから和樹は下着ごとジーンズを脱ぎ捨て、更に涼矢が自分で膝ぐらいまで下げたズボンも全て取り払った

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