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第75話 彼らの事情(15)

「もうすぐできるよ。涼矢、味見する?」和樹が鍋をかきまぜながら言う。 「うん……いや、いい。和樹の味覚を信じよう。」 「うわ、それ、怖ぇよ。」  テーブルの上に、和樹特製のカレーライスが置かれた。 「サラダも何もなくて悪いけど。カレーで力尽きました。」和樹は照れくさそうに言った。 「和樹のカレーかぁ。」涼矢はうっとりとカレー皿を見る。 「味の保証はできない。でも日本のカレールゥは優秀らしいから、たぶん、大丈夫かと……。」 「いただきます。」涼矢は一口、口に入れる。心配そうに反応を待つ和樹。「うん。美味しいよ。」 「良かったぁ。」和樹は心からの安堵の息を漏らす。 「意外だったのは、野菜が小さめだよね。もっとガッツンガッツン大きめに切るかと思ってた。」 「ああ、俺、具は小さいのが好きかも。究極、キーマカレーみたいに全部小さくてもいいぐらい。」 「覚えておく。」 「シチューは大きめがいいんだ。カレーの時だよ、小さめは。」 「それも覚えておく。……おまえも食べたら?」 「あ、そうだった。」和樹も食べ始めた。「うん、まあ、そんなに、食えなくはないよ、な?」 「美味しいって。」 「涼矢が作るなら、もっとすごいんだろ? 市販のルゥ使わなかったりして。」 「ああ、そういうのね、チャレンジしたこともあるけど、いろんなスパイス揃えないといけなくて、買ってはみたものの結局使い切れなくて捨てることになるんで、やめた。あと、辛いのそんなに得意じゃないから、本格的なインドカレーより、こういうほうが好きってのもあるな。」 「美味いと思う? 本当に?」 「うん。」 「……嬉しいもんだね。そう言われると。」 「だろ?」涼矢はにっこりと笑った。 「そっか。」食費で揉めた時、涼矢が言っていた『俺の作ったもん、美味いって言ってくれれば、それでいいんだ』というセリフが、ようやく今、腑に落ちる。  涼矢は美味しい美味しいと言いながら、結局3杯も食べた。3杯目を要求された時、和樹は思わず「この後、ケーキもあるんだよ。大丈夫か。」と声をかけたが、涼矢は平気な顔で「もちろん。」と言いのけた。  和樹のほうこそ涼矢につられて食べ過ぎて、と言っても和樹が食べたのは2杯だが、「いったん休憩しないとケーキ入らない」と言う羽目になった。 「そういや、ケーキは自分で作らないの?」行儀悪くその場で横になった和樹が言った。 「作らないね。」 「どうして?」 「きちんと計量したり温度管理しないといけないから、面倒。」 「へえ。それこそ、涼矢向きな気がするけど。」 「そうかな。」 「ねちねちと量りそう。1グラム単位で。」 「また、そんなこと言って。俺そんなにねちねちしてないよ。」 「してるよ。」 「そうだとしても、言い方ってものがあるだろ。几帳面、とか。」 「几帳面で、細かい。神経質。潔癖。あと、しつこい。」 「どんどんひどくなってるし。もはや単なる悪口だろ。和樹が俺をどう思っているか、よーく分かったよ。」 「仕返しに、俺の悪口も言っていいよ?」和樹はへらへらと笑って言った。 「和樹の悪口ね……。」涼矢は視線を上に向けて、考えた。「格好いい。可愛い。エロい。」 「ちょま、悪口言えって。」  涼矢は床に寝転がっている和樹の隣に移動した。「悪口だよ。俺はそれで困らされてるんだから。」そうして和樹の上に覆いかぶさるようにした。 「ぐえ。」と和樹が呻いた。「腹一杯で苦しいんだよ、乗っかるな。」 「そんなだから、よその女にもモテちゃうし、俺はしょっちゅうドキドキしちゃうし、非常に困ってる。もう少しオーラを控えめにしてほしい。」 「褒め殺しか。」 「ん。」涼矢は和樹の唇を自分のそれで塞ぐ。いきなり激しい、ディープキス。  やっと唇が離れたところで、和樹が「なんでこのタイミングでサカってんの。」と言った。 「続きはカレーの後って和樹が。」 「ケーキがまだだし。」 「ケーキの後とは言われてない。」涼矢は上半身を起こし、和樹にまたがった。和樹を見下ろして、舌なめずりをした。「俺の誕生祝いだろ? なんか特別サービスないの?」 「はあ?」和樹は涼矢の顔を見上げる。照明のせいで逆光になり、表情はよく見えないが、有無を言わせぬ圧力だけは感じる。「何してほしいの?」 「それを考えるところからがサービス。」  和樹は言葉に詰まる。「とりあえず、ベッド行って。」そろそろ背中が痛くなってきた。涼矢は素直に和樹の上から離れ、ベッドに行き、腰掛けた。 「それで?」  和樹は上体を起こす。床に直に座っているから、ベッドに腰掛けている涼矢のことは見上げる格好になった。 「もう少し、浅く座って。」和樹がそう言うと、涼矢は少し前にずれた。和樹は、その涼矢の両膝を左右に広げさせ、その間に自分が割り入った。眼の前には涼矢の股間がある。涼矢の短パンの裾のほうから、手を差し入れた。更には、ボクサーパンツの中にまで。 「んっ。」直接触れた最初の瞬間だけ涼矢は小さく息を漏らしたが、すぐに冷静になってしまう。この程度の刺激ではそんなものだろう。和樹はしばらくそのまま涼矢の先端を弄っていたが、涼矢の反応はそう激しくはない。和樹はいったん裾から手を抜いて、今度は短パンをずり下げた。パンツは少しだけ盛り上がっている。それに触れようとした時、涼矢が前かがみになり、和樹の耳元で言った。「脱いで、全部。」

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