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第81話 彼らの事情(21)
「もういい。聞かない。その話終わり。」涼矢は完全に和樹に背を向けて、壁のほうを向いてしまった。それを後ろからハグする和樹。
「聞いてよ。3度目は、デートの約束した時。それから4度目はデート当日。いちいち反応が可愛すぎた。決定的だったのは、手を握った時だな。」
「プラネタリウム。」
「そう。そこは覚えてんのか。つか、本当は全部覚えてるだろ?」
「……。」
「今思うと、あれで完落ちしたっつか。」
「完落ち?」
「握ったら、俺よりデカイんだもん、おまえの手。参った。」
「手がデカくて参るって何。」涼矢は話の内容が気になりだしたようで、顔だけ振り返る。
「俺が肉食系になった。」
「意味が分からない。」
「自分より大きい獲物をつかまえたくなった。」
「うーん?」
「女の子は力づくってわけには行かないけど、おまえだったら全力で押し倒してもいいよなって思った。デカいくせして、やたら可愛いし、もっとそういう可愛いとこ見たくなったし、要はアレだ、ヤってみたくなった。」
「最終的な結論が最低なんですけど。」
「気がついたら押し倒されてたのは俺だったけどね。」
「どこが素敵ストーリーなんだよ。」涼矢はクックッと笑った。
「どっから見ても素敵やん。」和樹は涼矢にキスをする。耳と首筋に、細かく、何度も。涼矢がくすぐったがって、身をよじる。「こら、暴れんなよ。」
「くすぐったいから。」涼矢の顔が少し紅潮して、息も少し荒くなっている。
「そう、それからその、エロい顔な。それにもやられたな。普段無愛想な奴がそういう顔見せるのって、反則。」
「おまえは普段からエロい顔してるもんな。」
「なんだとぅ!」和樹は更にキスをする。Tシャツの襟元を引っ張って、鎖骨のほうにも。
「ダメだって、そういうの、ホントに……。」
「このへん、弱いんだ?」面白がって、しつこく繰り返した。
「ん。」涼矢の目が熱を帯びた。「弱い。」涼矢は和樹に抱きついた。「おまえに触られれば、全部弱い。」
和樹は一瞬動きを止める。「誘ってんの?」
「誘ってません。」
「やらしい匂いするけど。」和樹は涼矢の首を舐めた。
「してません。」
「してるよ。」和樹は涼矢の耳の下をすんと嗅ぐ。
「ハグとキスだけ。嗅ぐの禁止。」
「厳しいな。」和樹は涼矢のTシャツの裾の方から手を入れた。
「お触り禁止。」
「いいじゃん、ちょっとぐらい。」和樹はTシャツをめくり、涼矢の乳首を舐めた。
「それも禁止。」
「これはキスだろ?」
「違うだろ。」
「抵抗もしないくせに。」
その言葉を聞いた途端、涼矢は和樹の両肩を押して、自分から引き離そうとした。
「今更だよ。」和樹は涼矢の腕を掴んで払いのけようとしたが、涼矢も力を緩めない。「おい、可愛くないぞ。」
涼矢はいったん腕をひっこめたかと思うと、和樹の隙をついて瞬時にマウントを取った。「全力で押し倒してみろよ。」
和樹はやり返そうとしたが、涼矢にあっさり両手首を押さえこまれた。「馬鹿、マジで痛いよ。」と悲鳴を上げる。
「それで全力?」
「何だとぅ。」和樹は足も使って、涼矢をのけようとした。しかし、一瞬涼矢が動いたかと思ったら、身動きが取れなくなっていた。逃れようとジタバタするとそこかしこに激痛が走る。
「暴れると逆に危ないよ。」涼矢がにっこり笑うのが見えた。「余計なことしないって約束したら解放する。」
「や、約束する。」涼矢はすぐに和樹から離れた。
「今のって……。」和樹は肩や腰をさすりながら言う。
「横四方固。」
「おまえ、ピアノに引き続き、実は格闘技やってましたとかいうサプライズはない、よな?」
「高校の体育でやったろ、柔道。」
「それだけ?」
「うん。あとはオリンピックの試合見たりとか。」
「見よう見まね?」
「うん。」
「信じらんね。兄貴は柔道やってたけど、そんな技かけられたことねえよ。」
「真の武道家は素人に手は出さないだろ。そもそも宏樹さん、弟に優しいしね。」
「おまえも俺に優しくしろよ。いや、おまえこそ俺に優しくしろよ。どこの世界に恋人に横四方固キメる奴がいるんだよ。」
「ここにいる。第一おまえが悪い。キスとハグだけって約束破ったし、それに俺のこと全力で押し倒すとか言うから悪い。俺を押し倒せると思ってる、その思い上がりが気に食わない。」
「だ、だってさ、女の人にそれやっちゃダメだけど、男のおまえ相手だったら、力づくで強引に迫ってもオッケーかなって。本気で嫌なら、抵抗できるわけだし、だから……。」言っている内に、しどろもどろになってくる。
「そんなの、男でもダメだろ。だから腹立つ。俺は別に力に屈しておまえとセックスしたわけじゃない。今分かっただろ。俺、腕力ならおまえに勝つ自信あるよ、前からね。寝技だろうが、殴り合いだろうが勝てる。でも、俺は力でおまえをどうこうしようと思ったことないよ。」涼矢はもう一度和樹を組み伏せて、手首を押さえ、動けないようにした。ゆっくりと顔を近づけて、キスをした。「それとも、おまえが力づくでどうにかされたいの? そういうのが好き?」
「んなわけねえだろっ!」
「じゃ、嫌だったら抵抗しなよ。ちょっとでも嫌がる素振りをしたら、すぐやめるから。」涼矢は和樹を押さえ付けたまま、またキスをして、舌を入れた。
和樹は、抵抗、しなかった。
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