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第125話 Only you(13)

 和樹は従順だった。涼矢はわざと口の中まで突っ込むようなことはせず、届きそうで届かない手前にチラつかせていた。まるで馬の前に人参をぶら下げているかのようだ。和樹が自分の力で頭を軽く起こし、舌を伸ばさなければ舐めることができない。そして、和樹はそうしたのだった。無理な姿勢で、舌先しか使えないから、そう上手にはできない。だが、その稚拙さが涼矢を煽った。 「可愛い。和樹。」 「……もう少し……中まで、入れて。」和樹がそんなことを言い、涼矢は今度こそ和樹の口の中にペニスを押し入れた。手が使えないので、顔の角度と舌の動きで調整しながら、和樹は涼矢のペニスをしゃぶった。口の中で涼矢のペニスが硬く大きくなっていくと、自分がされているかのように和樹のそこも同じように更に勃起した。 「あ、気持ちいい……。」涼矢が目をつぶり、その快感に耽る。さっきまでの稚拙なフェラチオとは別の意味で昂奮した。そのまま口の中に出してしまいそうになる寸前に、ペニスを引き揚げた。 「挿れて。口じゃなくて。」和樹が言った。いつになく甘えた声で。 「ん。」涼矢はコンドームをつけると、和樹の両脚を再び開かせて、その中心を貫いた。和樹のそこは何の抵抗も見せずに受け容れた。 「ああっ。」和樹の身体が反り返るようにしなった。「……涼、来て、奥までっ……!」 「ん。」涼矢は和樹の腰を抱えるようにして何度も深く押し込んだ。 「あ、いいっ、涼、もっと、して……。」 「気持ちいい?」 「うんっ……いいから、あっ、あっ……そこ、あっ。」 「ここ?」 「ん、そこ、こすれて……あ、も、イッちゃ……。」和樹は身をよじり、激しく喘いだ。手首のベルトが時折食い込むが痛さは感じなかった。 「イッていい?」  和樹は夢中でうなずいた。「俺も、もう、あっ、あっ……!」  終わった後、涼矢は和樹のベルトを外した。「痛くない?」 「ん。」和樹は少しぼんやりとしていて、涼矢にされるがままだ。 「赤くなっちゃった。」涼矢がほんのり跡の残る和樹の手首をさする。 「平気。」  涼矢はその手首に口づけてから、唇にもキスをした。「大好き。」 「ん。」 「和樹は?」 「好きだよ。」和樹は身体を起こして、2人はベッドの上に向き合って座るような格好になった。「俺にひどいことするけど、好きだよ。」 「ひどいことはしてない。」  和樹はプッと吹き出した。「そうだな、してないな。」 「気持ち良かっただろ?」 「うん。良かったよ。」 「あ、ついに認めた?」 「気持ちいいよ。おまえのすることは、なんでも。」和樹は涼矢の髪をかきあげた。そのまま、毛先をもてあそぶ。「気持ちいいけど、ちょっと怖い。」 「俺が?」 「おまえもある意味怖いけど。」和樹は笑う。「自分が……どうなっちゃうんだろって。書き替えられていくみたいで、怖い。でも。」 「ん?」 「怖いってのは、すごく興味があるってことなんだろ?」 「ああ。」自分の言ったセリフを蒸し返されて、涼矢も笑う。「俺はおまえを書き替えたりはしないよ。変わってほしくもないし。」 「でも俺、こんなじゃなかった。」 「そうかな。」涼矢は自分の髪に触れる和樹の手を握った。「それも和樹だったんだと思うけど。」その手を引いて、和樹を抱き寄せると、口づけた。「だって、俺、ずっと前からおまえのことエロくて可愛いって思ってたもの。みんなが……おまえも、気がつかなかっただけで。」 「俺はおまえのこと、前からも今も、よく分かんねえわ。変態ってことしか分かんねえ。」和樹は照れ隠し混じりにそんな悪態をついた。 「それだけ分かってくれていれば充分。」涼矢はニヤリと笑って、和樹の人差し指を舐めた。  その時、涼矢のスマホが振動した。和樹のほうが近かったので、和樹がそれを取り、涼矢に渡した。ちらりと見えた通知に「哲」の字が見えた。和樹がそれに気付いたことに、涼矢も気付く。 「哲からの連絡。」と涼矢が言った。説明のつもりだろうか。 「今のがそれ?」 「第一報はおまえがシャワーしてた時。これはそれを既読スルーしていたことに対する文句。」涼矢は画面を見ながら言った。  そう言えばバスルームから出てきた時、涼矢はスマホをいじっていた。「何故言わなかった。」 「それより優先することがあった。」  和樹は苦笑いをしながら続きを促した。「それで?」 「スマホ買い替えた。とりあえずは元気。怪我はしたけど、大したことない。バイトはクビになった。……だそうだ。」 「公私混同の店長だな。でも、そのまま働き続けろと言われても逆に困るか。倉田さんとは会えたのかな。」 「うん。叔父さんの家とは知らないで突撃したから、関係を聞かれたらしいけど、東京にいた頃のバイト先の知り合いで近くまで来たから寄ったとか、そんなような言い訳をして。」 「そこは大人だから、うまくやれんだろ。つか、おまえのメール、読んでなかったのか。」 「みたいだね。で、哲の無事を確認できたし、明日は会社あるから、そのままトンボ帰りするってよ。ご苦労なことだな。」 「やっぱ愛なのかなあ。」 「さあな。」

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