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第934話 カルテット (6)
涼矢はもうそれには返事をせず、腰の動きを激しくした。
「あっ、ああっ。」
和樹の前傾姿勢はますます深くなり、肘から先をテーブルにつけ、体をくの字にする。突き出された形の尻に、涼矢は容赦なく何度も打ち込んだ。
「き、気持ち、いっ、りょう、ああっ……。」
突かれる快感に身を委ねると膝の力が抜けて崩れ落ちそうになる。それに耐えるために下半身に力を入れると、今度は余計に涼矢のペニスを締め付けることになる。
「すげ、締まる。」
その言葉を恥ずかしく思うと同時に、自分の体で涼矢を喜ばせてやれることに満たされる。
「涼矢、すき、んんっ、あ、や、そこ、いいっ。」
「ここがいいの? 奥突かれるの、気持ちいんだ?」
「ん、すき。」
「好き? 奥突かれんのが? 俺のチンコが? 俺が?」
「あ、んっ、ぜんぶ、涼矢の、ぜんぶすきっ……。」
「何それ。」涼矢は薄笑いを浮かべて和樹の腰を抱く手に力を込める。「そこは、俺が好き、じゃないの。」
「すき、涼矢が。」
「今更遅えよ。」
涼矢は一気にいちばん奥まで攻めた。和樹の口からは小さな悲鳴のような喘ぎが漏れた。すぐさまそれをギリギリまで引き抜き、再び押し込む、そんなことを繰り返すごとに和樹の喘ぎは甘く蕩けていく。
「あ、も、無理、イキそ……。」
その瞬間、涼矢の手が和樹のペニスを覆った。それが最後の一押しとなり、和樹はその手の中に精を迸らせる。
「俺、まだ、だから……。」
涼矢は精液まみれの手を、それでもこぼさないように保ちながら、引き続き腰を動かした。
「中、出していいよ。」
「……悪ぃ。」
片手がそんなんじゃそうするしかないだろうと和樹は思い、より挿入しやすいようにと高く尻を突き出した。その分頭を下げると自分の足元が見えた。そこで初めてカーペットが敷かれていることに気付いた。
ことが済むと、涼矢は即座に手をティッシュで拭い、更に洗面所で洗った。その背後を通って和樹はバスルームに入り、シャワーで下半身を流した。
「風呂入ったばっかだったのに。」
そう言いながらバスルームを出ると、涼矢はリビングのローソファのほうにいた。
「悪い。」
「いいけど。いいって言ったし。」和樹は涼矢の隣にちょこんと座る。「で、カーペット、無事だった?」
「え?」
「汚したくなかったんじゃないの? だから、手に。」
「……バレてたか。」
「バレるだろ。急にチンコ握ってきて。高級絨毯なの、これ?」
「値段は知らないけど……。汚すのが嫌っていうか、ついたら、匂いつきそうかなって。」
「ああ、確かに。ここがザーメン臭いのはまずいな。」
リビングダイニングは涼矢の家のメインとなる部屋で、帰宅した佐江子が真っ先に向かうであろう寝室に行くにも必ず通過する。口紅をプレゼントした時に叩いた寝室のドアをぼんやりと見つめた。
「でも、匂いどうこう言う前に、佐江子さんがうっかり早く帰ってきたら、モロにアウトだよな。俺が初めて会った時だって、なんか資料取りに急に帰ってきたんじゃなかったっけか。」
「うん。あの人、そういうとこあるよね。行動が予測不能っつうか。」
「……そう思ってて、よくここでヤル気になったな?」
涼矢は和樹のほうに顔を向け、ニヤリと笑う。「そういうスリルがたまんないってこともあるでしょ。」
「趣味悪。」
「俺じゃないよ、和樹が。誰かに見られるかもしれないってシチュエーションだとすげえ締めてくる。」
「うっせ、馬鹿、そんなことねえし。」
「あるよ。車ん中の時とか、宏樹さんの部屋とか。」
「黙れ、最低、変態。」
「縛られんのも好きでしょ。完全Mだよねえ、和樹さんは。」
「マジでやめろ。」
和樹は涼矢にヘッドロックをかける。もちろん、本気の力ではない。その証拠のように、涼矢は笑い続けている。
「次は青姦でもしよっか?」
「しねえよ。」
「しようよ。」
「おまえがヤリたいんじゃねえか。」
和樹が腕を外すと、涼矢は軽く咳き込んで、元の姿勢に戻る。それから再び和樹の顔を見つめて、そのこめかみのあたりを手の甲で撫でた。
「したいよ? 和樹と二人でできることはなんでもしたい。」
「拘束プレイの次は青姦で、そのうち四八手制覇でもする気か。」
「是非。」
「ばぁか。」
和樹もくるっと涼矢のほうに向き直った。涼矢の短くなった髪をとかすように撫で、その手を後頭部に滑らせると、顔を引き寄せ、キスをする。
その瞬間だ。
玄関からガチャガチャと鍵を開ける音がした。インターホンも鳴らさずにそんなことをすると言えば、一人しかいない。
「本当に予測不能だな。」
と和樹は呟き、吹き出した。
「夜中になるっつってたのに。」
涼矢のそんなセリフと被るように、「ただいま。」の声がした。更には「都倉くん来てるの?」と言い当てつつ部屋に入ってくる。部屋を移動するひまもない。
「……お邪魔してます。」
「お久しぶりね。元気にしてた?」
「はい。」
「そう、それはよかった。」
佐江子はそれだけ言うと、早速寝室へと消えていった。
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