943 / 1020
第943話 半宵 (3)
涼矢は横目で和樹を見て、ニヤリとした。
「うわ、やめて。想像しただけでヒュンッてなるわ。」
和樹は股間をおさえる真似をする。涼矢は容赦なくその手を払った。和樹のそこは元のように萎えていた。
「せっかく半勃ちにまで育てたところだったのに。」
「育てる言うな。」
「もう邪魔すんなよ。」
涼矢の手が和樹のペニスをつかんだ。
「え、まだやんの?」
「やらせない気?」
涼矢が不服そうに言う。実際中断させてしまったのは自分だという罪悪感も手伝って何も言えなくなる和樹だった。――そもそも勝手にやり始めたのは涼矢なのだけれど。
「それに、やっぱ今のはペナルティつけたいかな。」
「ペナルティ?」
「余計なことは言わないこと。ただし、可愛い声はちゃんと聞かせて。」
「ちょっと待てって。」
慌てて上半身を起こす和樹の唇に、涼矢の人差し指が当てられる。そんな「黙れ」の合図に、和樹は従うほかなかった。
涼矢の視線がスッと動いた。和樹の後ろを見ているようだ。何かあるのだろうかと、つられて和樹が振り返る。
「そのまま、じっとして。」
と涼矢は言い、おもむろに枕と、それからベッドの端に寄せていた掛け布団を、和樹の背後に積み重ねた。即席の背もたれと言ったところか。和樹の体をそれにそっと押しつける。
「このほうがラクだろ?」
涼矢は微笑む。確かに座った姿勢をキープするには楽だが、さっきまでは寝そべっていたのだから、そのほうが余程楽な姿勢だ。それに、さも善行を施したように笑っている涼矢が今していることと言えば、和樹の両膝をつかんで左右に開かせるといったことだ。「ラク」になったのは、そこを咥えたいおまえのほうじゃないのか? 和樹は一瞬そう思うが、股間の位置は大して変わっていない以上、涼矢の体勢もさっきと変わりない。
ただ、さっきより涼矢の様子はよく見えた。上目遣いでこちらの反応を窺う表情も。それは姿勢のおかげばかりでもない。これまで涼矢の顔の半分を隠していた髪が短くなったせいだ。見慣れない視界だ、と和樹は思う。涼矢も同じかもしれない。涼矢自身も、無意識にそれまでの癖が出たのだろう、ありもしない前髪をかきあげる仕草をしている。フェラチオをするときには、いつもそうしていた。
口の中が性感帯なのだと――上顎に硬くなったペニスが当たるのが気持ちいいのだと、涼矢は言っていた。
その刺激を得るために、こんなことをしているのか。和樹は涼矢を見下ろす。懸命にそれにしゃぶりつく恋人は、自分もそれと同じ性器を持つ「男」で、かつての同級生で、同じ部活で競い合っていたライバルで、人見知りで、クールで、マイペースで、喜怒哀楽をあまり表に出すことのない奴だった。こんな風に、欲情して顔を上気させて、熱っぽい目で俺を見ることなど想像もつかない、真面目で、おとなしい奴だった。
涼矢はわざと音を立てているようで、やけに淫らな水音が響く。
――あの男が、今はこんなだ。口にチンコをぶち込まれるのがいいのだと、自分から進んで咥え込む。
和樹はじゅぽじゅぽと音を立てている股間から、視線を移動させる。別のところからも、口元の水音よりはかすかだけれど、違う音がしてきたからだ。
突き出た涼矢の尻が揺れている。フェラの振動だけじゃない。涼矢はフェラをするのと同時に自分のペニスもしごき始めたのだ。
――俺だってそうだ。あの頃とは変わった。今こいつがしごいてるアレを、ケツに挿れられたくてたまんなくなってるんだから。
「んっ、あ……あっ、りょ、少し、ゆっくり。」
もう充分、硬くなっているはずだった。涼矢の上顎を悦ばせてやれる程度には。だからこんなに激しくされているのだろう。
「出 してていいよ。」
涼矢が口を大きく開き、舌を出してみせる。そこですべてを受け止めてやる、という宣言なのは分かる。このまま行けばすぐにでもそうなるだろう。でも、その直後には物足りなさに余計身悶えするのが目に見えていた。
「……こっちも。」
和樹は腰を浮かして、自分で後孔を広げるようにした。
「欲しいの?」
そんな恥ずかしい確認をするときだけ、涼矢はペニスから口を完全に離して問いかけてくる。和樹は無言で頷いた。
「でも、疲れてるんでしょ?」
「……。」
和樹はつい涼矢のペニスを目で追う。欲しいとねだればすぐにでももらえるものだと思っていたそれは、充分に準備出来ているように見える。
「今日はこれで我慢して。」
涼矢の手が伸びてきて、指が挿入される。最初から二本。いや、三本だ。入ってきてすぐ、一番敏感なところを探り当てる。
「ああっ、あっ、あっ……!」
思いがけなく大きな声が出て、和樹は自らの手で口を塞ぐが、その手は即座に涼矢に払われた。
「だめ、声は聞かせてって言っただろ。」
「やだ、や、恥ずか……。」
「今更何言ってんの。」
ともだちにシェアしよう!