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第164話 ただいま。(4)
涼矢がそんな卑猥な言葉をかけるたびに、和樹の身体がビクンビクンと震えた。言葉に反応しているのか、口づけの刺激なのか。
「いい、なんでも……。」和樹は涼矢にしがみついた。
「なんでもいいはダメ。」
「なんだよ、自分は……あ、やだ、んっ。」ペニスをこすりあげられて、和樹はますます荒く息を吐く。パンツと短パンがまだ両足首に絡まっていて、足が自由に動かない。和樹は足先でそれらを抜き取り、器用に蹴り出した。「挿れて。ここで。このまま。」
涼矢は和樹の腰を抱えあげると、シンク脇のスペースに和樹を浅く腰かけさせた。「足、開いて。」
和樹は熱っぽく潤んだ目で涼矢を見つめながら、足を開いてみせた。涼矢は片手で和樹の背中を支えながら、もう片方の手の指を唾液で湿らせて、和樹の中心へと埋めていった。
「ああっ。」和樹がひときわ大きく喘ぐ。
「痛い? ローション持ってくる?」
和樹はそこから一歩でも涼矢が離れるのは嫌だと言いたげに、首を横に振った。
「でも。」涼矢のほうが躊躇った。それから「……じゃあ、倒れないように、自分で、支えてて。」と言い、和樹の背中に回していた手を外し、腰を落として、和樹の股間に顔の高さを合わせた。「舐めろって言って?」
和樹は言い返す。「舐めさせてって言えよ。」そのキッチンの高さで、それをさせるには、和樹は腰を浮かせ気味に突き出し、大きく開脚しなければならない。そして、和樹は自らそうした。
「舐めさせて?」涼矢がそう言うと、和樹は自分で言わせておきながら少し恥ずかしく感じて、涼矢から目を逸らした。涼矢がそれを見逃すはずもなく、「ちゃんと見ててよ。」と言う。
和樹が再び涼矢のほうに目をやると同時に、涼矢は和樹のアナルへと舌を伸ばした。
「あっ……。」和樹が甘い喘ぎ声を上げた。
ただでさえ狭いスペースで、バランスを取りながら開脚するのはなかなか難しいことだったが、その不安定さが2人の情欲を余計にかきたてた。
「あっ、あっ……んっ……や……ああっ。」ぐらつく自分の身体の中心を抉るのは、涼矢の舌だ。そう思うと痺れるような快感が全身を貫いた。その舌先は独立した生き物のように、自分の中に入り込んでくる。夕方のセックスから数時間しか経っていない。涼矢のペニスを受け容れたばかりのそこは、舌先でなぶられるだけですぐに柔らかくなっているだろう。また夜にもヤリたくなるなどと軽口を叩いたのは自分だが、こうも簡単に昂められると、本当に発情期の獣にでもなった気がする。
涼矢のいなかった4か月間、もちろん相応の欲求はあった。マスターベーションもした。涼矢と電話で話しているうちに疼くこともあった。だが、当然だが、そんなことばかり考えていたわけでもない。エミリのいた2週間も、涼矢にはさぞかし我慢したのだろうとからかわれたが、実際にはそこまで追い詰められたわけでもない。どちらかというと自分は淡泊なほうだと思ってすらいた。
でも、目の前に涼矢がいると歯止めが効かない。匂いや、体温を感じるたびに「そんなこと」ばかり考えてしまう。どうにかそれを抑え込んだかと思うと、こんな風に涼矢から煽られれば簡単に体を開いてしまう。涼矢が来てから何度肌を重ねたことか。それでも飽くことのない劣情に自分でも呆れる。
「涼……も……いい、から……挿れて。」和樹は息を弾ませながら股間の涼矢に言う。メガネ越しの涼矢の目も、獣のような目をしている。そのことに歓びを感じた。自分を欲しがって欲しい、と強く思う。
涼矢は立ち上がり、和樹の腰を押さえて、自分が舐めていたところに屹立したペニスを当てる。あてがわれただけで「あんっ。」と和樹が悶える。いやらしい声だ、と和樹自身も思う。
「ゴム、つけてない。」
「いいから。」自分が買って来るように言いつけたのは覚えている。でもローションもゴムも待てなかった。「来て。」
涼矢は和樹の腰を抱き、中心へと入っていった。和樹は涼矢の首に手を回す。顔が近づいた。和樹は涼矢のメガネのフレームに触れて微笑む。涼矢が切羽詰まった様子で目をつむっていることが嬉しい。「あ……あっ……涼っ……いいっ……。」突き上げられる快感に身を委ねる。
「和樹、大好き。」涼矢が和樹の頬や耳にキスをする。
「んっ……俺も、好きっ……あっ……ああっ……もうっ……気持ちいいっ……。涼矢ぁっ……。」バランスを崩しそうになりながら、自分からも腰を振って涼矢を奥へといざなった。
「も、出そう……。」
「奥にっ……。」
「気持ちい、和樹の……ここ……。」
「やっ……あ、ああっ。涼っ。」
「んっ。」
涼矢は和樹の中に放出するとすぐに抜いた。白濁液が溢れ出してくるのも構わず、息も整わないうちから、すぐにまた和樹の股間に顔を埋めた。張りつめた和樹のそこも、すぐに涼矢の口の中で果てた。口の端から白いものが流れ出てくる。それを拭おうとする涼矢の手を、和樹が止める。「さっきと同じ顔。」その手をつかみ、涼矢を自分の顔に引き寄せると、口から垂れているその白いものを舐めとった。
「自分のだぞ。」
「知ってるよ。まずい。」そう言って舌をだらりと出す。その舌に、涼矢も舌を合わせて、ディープキスをした。
「痛くなかった?」と涼矢が確かめた。
「あっちは痛くねえけど、腰は痛い。」言いながら、和樹はシンクから離れて、普通に立った。改めて涼矢と向き合い、腕をからめて、立ったままキスをした。
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