179 / 1020
第179話 Whisper(5)
「やっ……ああっ……。やだ、お願い、りょ……あんっ……。」身をくねらせるたびに、カーテンの隙間から射す街灯の光が、スポットライトのように和樹の肢体のさまざまな個所を照らした。肩や、胸や、背中や、腰を。時にプラグの刺さった、そこを。「口、塞いで……。」懇願する和樹のアナルにプラグを残したまま、涼矢は体をずらした。ここでようやく涼矢が服を脱いだ。Tシャツと、短パンと、ボクサーパンツ。
最後に脱いだパンツを丸めて、和樹の口に押し込んだ。「返す。それ、おまえのだから。」
和樹は明らかに抗議の意味を込めて「うー」と呻いた。涼矢を睨みつける目は充血して潤んでいる。快感と憤怒で涙が溜まっている。まだ流れ落ちてはいないその涙を、涼矢は舐め取った。それから再びプラグに手を伸ばし、奥まで押し込んだり、浅いところまで引き戻したりした。その度に淫らな水音と和樹の呻き声が響き、和樹の全身はビクンビクンと反応した。涼矢はプラグを弄びつつ、もう一方の手で和樹のペニスにも触れる。触れる前から、そこは硬く屹立していて、先端からは雫が垂れていた。
「すげ、勃ってる……。」涼矢が呟くと、和樹はいやいやをするように激しく頭を振った。「だって、こんなで……。」涼矢ペニスを握ると、和樹の身体が弓なりにしなった。涼矢はプラグを勢いよく引き抜いた。その刺激にもまた和樹は激しく身悶えて、出せない声で必死に呻いた。涼矢はその口に詰まったものを取りだす。
和樹は、ぷはっとプールで息継ぎをするように息を吐いた。「馬鹿、なんでっ……今っ。」恨めしそうに涼矢を見る。
「……取ってほしくなかった? 声、我慢できないから?」
和樹はぐっと言葉に詰まる。
「挿れていいよね?」涼矢は和樹の、プラグが外されたばかりでぽっかりと空いた穴の入口を指で愛撫する。
和樹は無言でうなずいた。
「せっかく口利けるようにしたんだから、言ってよ。……挿れて、って。」
「挿れ、て……。」
「本当に素直。」涼矢は和樹のそこにローションを追加して、ペニスを挿入した。
「あっ…んっ……ふ……くぅ……。」懸命に声を漏らすまいとする和樹。それと連動するように、アナルがきゅっと締まる。いつもよりゆっくり動く涼矢。「ゆっくり……やだ……もっと……。」
「だって速くしたら、すぐイッちゃうでしょ。」
「でもっ……。」ゆっくりされたからといって、その分、楽になるわけではない。我慢の時間が引き延ばされていくだけだ。和樹は諦めて、その代わり、再び枕に顔を埋めた。息苦しくはなるが、はしたない喘ぎ声は緩和される。
だが、涼矢はそれすらも許さなかった。「それはズルいな。」と言って、ペニスを抜くと、和樹の身体を反転させた。和樹は抵抗しようとしたが、両手の自由を奪われていて、うまく力が入れられなかったのだ。
「ひどい、涼、こんなっ……。」和樹は抵抗の名残で、顔をできる限り後ろ向きにして、枕に押し付けるだけ押し付けようとしながら言った。だが、ふわふわのゴージャスな羽根枕でもない、低反発の枕では、そんなことをしたところで、口を塞げるほど沈まない。自分の努力が何の意味もないことを悟ると、今度は真正面の涼矢を見据えて、精いっぱい睨みつけた。
「良い目だな。」そう言いながら、涼矢は和樹の両脚を開いて、その中心にペニスを深々と突き立てた。
「あっ……あっ……やぁあ……。」固く結んだはずの唇の間が自然と緩み、せわしなく喘ぎが漏れてくる。そして、涼矢が行き来するたびに、その声は高くなっていく。「だめ、涼、無理、もう……声、我慢、できない……。」今度はすがる目で、涼矢に懇願した。
「どうしてほしいの?」涼矢も限界が近づいていた。
「早く、イカせて……。」涼矢は奥を突いた。「あぁっ!!」と、ひときわ大きな声が響く。でも、それが最後だった。次の瞬間、和樹はキリリと唇を噛んで、耐えたからだ。血の滲む唇を見て、涼矢はゾクリとした。その瞬間、和樹の中に射精した。同時に和樹も果てていた。
「馬鹿、血、出てる。」自分と和樹の事後処理をしながら、涼矢が言った。
「仕方ねえだろ。」血も滲んでいれば、目には涙も滲んでいた。
処理を終えると、涼矢はその唇の傷を舐めた。それから和樹の両手を拘束していたベルトを外す。そこにも、わずかだが擦れたような傷ができていた。その傷も舐めた。「どこもかしこも、血の味させて。」
「全部おまえのせいだ。」
「……そうだな。」もう一度唇を舐め、続けて普通のキスをする。「全部俺のせいだ。」その言葉のなんと甘美なことだろう。いっときでも、和樹が自分のコントロール下にあるというなら。全部おまえのせいだと恨まれるほど、和樹の中で自分が大きな存在を占めるなら。
「痛い。」和樹はベッドの上に体を起こし、手首をさすりながら言う。
「手首?」涼矢も体を起こして、その手首に触れた。
「うん。ほかも、なんかいろいろ。」
「ごめん。」
和樹が何か言いたげなので、まだ文句が続くのかと構えていると、ふいに両腕を伸ばして、涼矢に抱きついてきた。「どうしよ。まだ収まらない。責任取れ。」
「……大丈夫?」涼矢は和樹の唇の傷に触れる。もう血は止まっているが。
「ん。でも、優しくして。」和樹から口づける。「別に痛いのが好きとかじゃねえからな。」と言い訳のように補足する。
「分かってる。」和樹が好きなのは「痛いの」ではなく「恥ずかしいの」だろう、と思う。だが、それを指摘すれば激怒するだろうから言わない。せっかく和樹がその気になっている今は、特に。
「分かっててそれかよ。」和樹が小さく呟いた。
涼矢は笑って和樹の頬にキスして、そのまま耳元で言った。「ねえ、でも、優しくする時には、どうやって口塞げばいいの?」
「ずっとこうしてればいいじゃん。」和樹は座っている涼矢にまたがり、座位の姿勢をとると涼矢の唇に自分の唇を押しつけた。
ともだちにシェアしよう!