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第189話 GINGER ALE with KABOSU(2)
涼矢は一段落したようで、テーブルのところでパソコンをいじっていた。「おかえり。隣に行っただけの割に、遅かったね。」
「うん。お礼もらった。」
「お礼?」涼矢が寄ってきて、袋をのぞきこむ。「なんだっけ、これ。すだち?」
「かぼす。大分なんだって、実家。」
「そんな話までしたの?」
「そんな話しかしてない。あ、名前も聞いてないや。こっちも名乗ってないけど。」
「そっか。」涼矢は、かぼすと砂糖をまぶした生姜の容器を交互にじっと見た。今回の生姜は、前回よりもだいぶ多いようだ。
「どうした?」
「ジンジャーシロップ、たくさん作っておこうと思ったんだけどさ、さすがに作り過ぎたかと思って後悔してたところ。少し、お隣さんにおすそ分けしたらいいよ。」
「分かりました、お母さん。」
「さぞかしご迷惑をおかけしていることと思いますし。」
「あなたのせいでしょうよ。」
「まあ、そうとも言えるよね。」涼矢はそう言いながらスマホをいじる。「ジンジャーエールに、かぼすしぼって入れても美味しいって。一石二鳥じゃない?」
「ああ、美味しそうな気がする。」和樹は涼矢の後ろから腕を回して、一緒に涼矢のスマホの画面を見た。レシピサイトのページだった。「ねえ。」
「あん?」
「ツーショット、撮ろ。」
涼矢はカメラを起動し、自撮りモードにした。2人の顔がちょうど収まるように顔を動かしたり、カメラを遠ざけたり近づけたりする。ようやく位置が決まったところで、シャッターボタンを押した。
「もう1枚。」和樹は涼矢の頬にキスをした。涼矢が照れ笑いをしたところで、和樹が手を伸ばしてシャッターを切る。少しぶれてしまった。「動くなよ。」
「いきなりそんなことするから。」
「じゃあ、いきなりしないから。」和樹は涼矢の手からスマホを取り上げた。「はい、行くよ。こっち向いて。せーの。」キスした瞬間に、シャッター音がした。すぐに画像を確認する。「お、結構良い感じに撮れた。」
涼矢はそれをチラチラとしか見ない。恥ずかしいようだ。
「俺のスマホでも撮ろうっと。」和樹はベッドに放置していたスマホを取りに行く。「涼、こっち来て。ここで撮ろ。」和樹はベッドに腰掛け、その隣をポンポンと手で叩く。涼矢は言われるままにそこに座った。
はじめはただ2人並んでの、なんの変哲もないツーショット。その次には、さっきのように、キスをした。だが、涼矢はさっきよりもぎこちない。「いつも通りにしてよ。」と和樹が言うと、「無理。」と困ったように笑った。和樹は笑って、涼矢の耳やその下や、頬にキスをした。涼矢がくすぐったそうに笑う。そこですかさず唇にキスをした。それはすぐに離れたが、今度は涼矢が和樹の顎を引き寄せて、もう少し深いキスをした。長い。ようやく離れたかと思うと「写真、撮らないの? キス写真、撮りたかったんだろ?」と涼矢が言った。その時、シャッター音とは少し違う音がした。
「今のは動画。」和樹がしてやったりと言いたげな表情で言う。
「え、マジで。」
和樹は涼矢に画面が見えないようにして再生させた。「いつも通りにしてよ。」「無理。」という、さっきの会話が聞こえてきた。
「ちょっと、やめろよ、それ。」涼矢が焦った様子で、スマホを取り上げようとするが、和樹はひょいひょいとそれを逃れる。「キス写真、撮りたかったんだろ?」という涼矢の声で、動画は終わる。
「うん、良い出来。」和樹は満足そうに笑う。「後でおまえのほうの画像も送って。」
「ねえ、それ、本当に撮ったの?」会話の音声が聞こえたのだから、本当に録画されていることは承知していたが、それでも聞かずにいられない涼矢だった。
「撮ったよ。見る? なかなかエロい出来。」和樹は涼矢に画面を見せ、再生させた。涼矢は顔をしかめてそれを見た。
「……うわぁ。」最後まで見ると両手で顔を覆って恥ずかしがった。
「キスしてるだけなのに、なんかエロいよね、特におまえ。」
「俺、こんな顔してる?」顔は覆ったまま、指の隙間から和樹を見た。
「してる。」
「自分の声って嫌だよな。」
「俺のオナ声録音しておいて、よく言うよ。」
「消しただろ。それも消せよ。」
「消してもらうために俺がどれほどのことをしたのか、思い出してからものを言え。」勝ち誇った様子で和樹が言う。
涼矢はしばらく無言で、和樹を凝視した。「思い出した。あれは随分おまえを悦ばせたと思うから、同じぐらい、おまえも俺を悦ばせてくれるんだな?」
主導権を握っていたつもりの和樹は、一気に形勢が逆転したことを思い知った。「あれのどこが! おまえ、随分、ひどかったぞ。」
「ひどかった? どんな風に? ひどいことした覚えはないんだけど。どんなひどいことしたって言うの、俺?」涼矢はニヤついたりはしていないが、わざと言っているのは明白だった。口籠る和樹に畳みかけた。「アナルプラグ挿れられて、気持ち良さそうにしてたけど?」
「こ、こういう、シラフの時に言うなっつうの、それ。」
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