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第974話 揚雲雀 (1)
恵に涼矢宅に泊まっていくことを告げなければならない。小言のひとつふたつを覚悟して電話をかけると、予想外に明るい声で、あらそう、ご迷惑にならないようにね、と言われて終わった。何かあったのかと気になるが、そんなことは帰宅してからでもいい。せっかくスムーズにお許しが出たのだから深追いはしないほうがいいだろう。
それなら着替えるとするかと振り返れば、涼矢はスーツ姿のままベッドに腰掛けている。見たところ着替えの用意もない。
「おふくろに連絡したよ。いいってさ。なんか知らないけど、やたら機嫌良くて」そう言いながら、タンスに向かう。「いつも借りてるスウェットってどの引き出しだっけ」
和樹の質問をかわして、涼矢が言う。
「こっち来て」
「お、おう」
「ここ、立って」
「……何が始まったんだっつの」
文句を言いつつ、涼矢の言う通りにした。つまり、涼矢の真正面に立った。
「せっかくのスーツじゃないですか」
「げ」
「げ、ってなんだよ」
「出たよ、ヘンタイ涼矢くん」
「まあ、どう呼ばれてもいいけど」
涼矢は和樹の首元に手を伸ばし、緩められたネクタイをきつく締め直した。
「おい、苦しいよ」
「大丈夫、すぐほどくから」
「だったら締め直す必要な……」
言い終わらないうちにネクタイを引っ張られ、キスされた。途端に和樹は大人しくなる。
「いい子」
ネクタイの端を握ったまま、涼矢がニヤリと口角を上げた。和樹はリードに繋がれて躾をされる犬にでもなった気分になる。だが、始末に負えないのはそんなことをする涼矢じゃない。それを不快に思わない自分のほうだ。
「脱がせろよ」
和樹は挑発的な上目遣いで涼矢を見た。
「え?」
「せっかくのスーツが皺んなるって言ったの、おまえだろ?」
「……そうだったね」
ジャケットを脱がせやすいようにと和樹は肘を伸ばした。だが、涼矢が手をかけたのはベルトだった。
「馬鹿、そっちじゃねえよ」
「もう少しスーツ姿見ていたいんで」
「暑い」
「エアコン入れる?」
「上着だけでも」
「だめ」
「でも、皺」
本当はスーツの皺のことなどどうでもよくなっていた。涼矢にもそれは分かったはずだった。ファスナーをおろされ、中に手を入れられ、まさぐられる。その反応を見れば、分からないはずがなかった。
「あっ、あっ……!」
息が荒くなるごとに膝に力が入らなくなる。和樹は上半身を倒し、涼矢の首に腕を回してしがみつく姿勢になった。
「すごい先走り。シミになりそう」
「だ、やめ……」
だったらやめろ。そう言いたいのだろう。
「やめていいの?」
「……」
「じゃ、ズボンだけでも脱いだら?」
和樹は無言でズボンを脱いだ。もちろん、皺を気にして畳む余裕はない。上着もついでに脱げばいいことにも考えが回らなかった。
「お、おまえもっ……」
ベルトに手をかけた和樹を制して、涼矢は自分でベルトを外した。ファスナーをおろし、下着もずらす。屹立するそれを見て、なんだよ、おまえだってやる気満々じゃねえか、そんな言葉をぶつけて一矢報いたいところだったが、疼く後孔を治めるほうが先決だった。
「このほうがいいかな」独り言のように涼矢が言い、ベッドの端から真ん中に移動した。「ほら、ここ。ここに来て」
さっきから言いなりだ。催眠術にでもかかってるのか俺は。頭の片隅ではそんなことを思いながら、和樹もベッドに乗る。涼矢にまたがり、対面座位になると自らの唾液で濡らした指を後孔に当てた。
「ああ、ごめん。忘れてた」
涼矢が手を伸ばし、ローションを取る。
「よご、汚れる……」
「ん?」
「涼矢の、スーツ……」
挿入した指を動かしながら和樹が言う。一瞬呆気に取られた顔をしたのちに、涼矢は笑った。
「いいって。クリーニング出すから」そして、さっきと同じように和樹のネクタイをつかんで引き寄せると、その耳元で囁いた。「だから、気にすんな。皺くちゃでも、汗だくでも、シミだらけでも大丈夫」
「ほんとに? 高いんだろ、これ」
明らかに物欲しげな表情を浮かべながらも不安を口にする和樹に、涼矢のほうが限界に達しそうだ。和樹の問いかけに答えることもなく、素早く二人の下腹部をローションまみれにした。
――こんな和樹が見られるなら安いもんだ。
上半身はジャケットも身につけネクタイもきっちり締めたままでありながら、下半身ときたら靴下しか穿いていない。そんなみっともない姿の和樹が――そうさせたのは自分だが――更にはM字開脚でまたがり、「早く挿れてくれ」と言わんばかりに瞳を潤ませている。その光景だけでイッてしまいそうだ。
涼矢は和樹の後孔にペニスの先端を挿入する。あとは和樹が自分の重みで腰を落とせばいい。
「んっ」
カリのところが入るとき、いつも和樹は一瞬苦悶の声を出す。その後の、一番太いところが通過するときも。
「あ、ああっ、ん、涼、涼っ」
和樹がキスを求めてくる。
「ん」
涼矢は和樹に求められるがままに、何度もキスを繰り返した。
「もうこれ脱いでいいだろ」
ジャケットを脱ごうと和樹は身をよじる。
「だーめ」
涼矢はそれを再び制止して、その勢いのままに和樹を押し倒した。そして、文句を言わせる隙など与えないと言わんばかりに、すぐさま和樹の中を何度も貫いた。
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