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第194話 GINGER ALE with KABOSU(7)
「それより、何?」涼矢が囁いた。
「ここまでしといて、聞く?」
「キスがしたかったの? もっとする?」
「もっとする。でも、キスだけじゃやだ。」
「キスだけじゃなくて?」
和樹は涼矢に全身を絡ませるようにしがみついた。股間も、わざと涼矢の同じところに当たるように押しつける。「もっと、エロいことする。して。」
「インランかよ。」
「うん。」和樹は、絡めた手に力を入れる。「おまえといるとそうなるみたい。」
和樹の言葉で、涼矢のそこが硬さを増すのが伝わってくる。それによって和樹もまた、強く欲情した。
「男子は全員、下着一枚になってください。」涼矢が突然、ボソボソと話し出した。さっきの、"涼矢の口真似をする和樹"の口調だ。
「やめろよ。」うっかり和樹は笑ってしまう。
「ただちにやってください。ビリの人は全裸で腹筋100回。」
「え、マジ?」
「マジ。」涼矢はさっさと服を脱ぎ出した。着脱の楽な部屋着になっていた涼矢と違い、和樹は買い物に行った時のジーンズのままだったし、今の今まで涼矢にくみしだかれている位置関係にいたのだから、どうしたって遅れを取ってしまう。
「ちょっ、まっ! それ、ずるいって。ていうか、男子全員て。」
和樹が慌ててTシャツを脱いだだけのところで、もうパンツ1枚になった涼矢が言う。「都倉、ビリ決定。」
「苗字で呼ぶな。」
「腹筋100回です。全裸で。」
「ありえねえ。」
「副部長の指示に従ってください。」
「ざけんなって。」
「都倉ぁ、ちゃんとやれぇ。タラタラすんなぁ。」今度は奏多の口調らしい。
「も、それ、やめ。」奏多の口真似は和樹のツボのようだ。条件反射のようにまた笑い出した。
「都倉ぁ、ヘラヘラ笑うなぁ。そんなんじゃせっかく勃ってたもんも萎えるぞぉ。」
「あいつそんなことぜってぇ言わねえよ!! つか、ホント萎える。萎えた。どうしてくれる。」
「伸び悩んだ時は基本をやり直すところから……。」涼矢は和樹のジーンズに手を伸ばして、ファスナーを下ろした。その先、和樹は自分でジーンズを脱いだ。涼矢は和樹のパンツの上からそこを握る。「奏多、シモネタも恋バナもバンバン言ってたけどね。」
「え、そう? イメージねえな。」
「一応部長としての威厳とかいろいろ気にしてたんじゃねえの。俺と2人になると、結構そんな話ばっかしてたよ。」
「え、じゃあ、カオリ先生のことも、涼矢は知ってた?」奏多に彼女がいて、その相手が教育実習生のカオリだということは、卒業式後にカラオケボックスで行われた打ち上げで明かされたことだった。その事実を知っていた者は誰ひとりいなかった。いないと思っていた。同じように卒業するまでは秘めざるを得なかった恋、でも、一方はみんなの前で晴れ晴れと発表できることが、涼矢とつきあいはじめたばかりの和樹には羨ましかった。
「相手があの人だってのは知らなかったけど、女子大生を好きになって、連絡先知らないけどどうしたらいいかって聞かれたかな。で、大学宛てに手紙出してみれば?って適当に言ったら実行して、うまく行っちゃったんだもんな。冗談だったのにさ、今時手紙なんて。」
「涼矢がキューピッドかよ。」
そうだ、あの爆弾発表をした時、奏多は自分から手紙を出したのがきっかけだと、確かに言っていたっけ。あの場では、どうしてだかリレー方式で何人かが前に出て、いろんな暴露話をする流れになっていた。俺も当てられて、適当な話でお茶を濁した後に奏多を指名した。そして、奏多はカオリ先生のことを発表して大いに盛り上がった。奏多が次に指名したのは涼矢だった。涼矢が「そういうノリ」は苦手なことを知っているはずの奏多が、何故そんなことをしたのだろうと腑に落ちない気持ちにもなったけれど、もしかしたら、涼矢が「俺が手紙のアドバイスをしたキューピッドです」とでも暴露すれば、一段と大きなウケも取れるだろうと思ったのかもしれない。
実際には、そうはならなかった。涼矢はまだ、俺とのことを受け止めきれていなかった。直前にキスマークのことを奏多に指摘され、動揺もしていた。恋バナを期待する場の雰囲気ではあったけれど、涼矢はおもしろおかしく俺たちのことを言えるはずがなかったし、俺みたいに適当に誤魔化すこともできない奴だ。奏多の恋のキューピッド役だったことを思い出す余裕もなかっただろう。
和樹は、股間をまさぐられながら、そんなことを思い出していた。
「都倉、集中。」
「だから、苗字で呼ぶなっ。」和樹が怒ると、涼矢は、困ったような、笑ってるような、複雑な表情で和樹を見た。こんな顔、どこかで見た。そう、駄々をこねるこどもを「仕方ないなあ」と呆れながらも可愛くて仕方ない、と見つめる親のような目。……どっちがこどもだよ。わけわかんねえ物真似なんかして。だから、集中できないんじゃねえか。和樹は涼矢の首筋に口を押し当て、強めに吸った。そこには、キスマークがついた。「基本からやり直した。」
「ん?」涼矢は今和樹が口を当てていた箇所を触る。触ったところで、和樹の言っている言葉の意味はピンと来ない。
「そこにそうやってキスマークつけたら、奏多にバレたんだよな、あの時?」
涼矢は首筋を触ったまま、硬直した。顔が赤みを帯びる。それも、その頃、和樹のちょっとした一言にいちいち赤面していた涼矢を思い出させた。「バレてた……かな、やっぱり。」たかがキスマークのことで涼矢がこんなに動揺しているのは、それが涼矢にとっての「初めて最後までした」時の記憶と直結しているはずのものだからだろう。
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