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第195話 GINGER ALE with KABOSU(8)
和樹はそれに気づいて、涼矢にもあんな「恥じらい」の時期があったんだよな、と頭の片隅で思いつつ、直接それには触れずに言った。「バレたかどうかは微妙だけどな。でも、俺らがつきあってるって聞けば、やっぱりあの時のアレはそうだったんだ、とは思うだろうな。」
「ああ、そうか、奏多にはきちんとは言ってなかったか。」
「ま、今頃はどっかから聞いてるかもね。カノンとか。」カノンはエミリと同じく水泳部の女子で、和樹たちの仲を知っている。「カノンも奏多も、今年の水泳部の夏合宿、OBで参加したみたいだから。」涼矢も和樹も参加しなかったが、部活動の一環の夏休み中の合宿には、卒業生も補助指導員として参加できた。「今更だけど、平気か? そういうの。俺は東京 来ちゃったからいいけど、おまえは……。」
「高校の友達にバレることなら、もういい。割り切れてる。第一、Pランドの時だって口止めもしてないじゃない。自分から言いふらす気はないけどさ、隠そうとも思ってない。」
Pランド。高校を卒業してすぐ、級友達と行った遊園地。奏多はクラスが違っていたから、そこにはいなかったのだが、その場にいた10人の前で、和樹は涼矢とつきあっていると告白した。結果的にエミリを振ってしまった形になったのもこの時だったし、そのせいでエミリの親友のカノンに睨まれ、やがて和解したのも。彼らは激しく動揺したものの、柳瀬や宮野のフォローで、最後には温かく2人のことを受け容れてくれた。あの時の同級生の寛容が、今思えばどれほどありがたいことだったか分かる。気持ち悪いと罵られていたら。そんなのおかしいと頭ごなしに否定されていたら。揶揄され、嘲笑されていたら、涼矢は開きかけていた心の扉を再び固く閉ざして、二度と開けようとしなかったに違いない。和樹は、自分の軽率さを呪い、人間不信に陥り、彼の一番の長所である素直さや優しさを失っていただろう。人を愛することを怖がるようになっただろう。人生で一番大切だとマスターが言っていたものを、2人とも手離してしまったかもしれない。
和樹はまた、あの時に見つけたハート型の石のことを思い出していた。あの時、俺たちは、俺たちの「幸せの形」を確かに見つけたのだ。
ロマンティックな回想を、涼矢の声が遮った。「それで、いつまでその話をすればいいわけ、都倉?」
和樹も素早く直面する現実に順応する。「じゃ、腹筋100回すっか? できるぜ、そんぐらい。」
「きれいな筋肉、してるもんね。ムキムキ過ぎなくて。」涼矢が和樹の下腹を撫でた。
和樹がくすぐったがり、身をよじる。うっすらと割れている腹筋もねじれた。「やらしい触り方すんな。」
「やらしいこと、してほしいんだろ?」涼矢の目に、淫靡な光が戻ってきた。「腹筋100回の代わりに、こっちの基礎トレ、がんばって耐えて。」そう言うや、和樹の下着をずらして、ペニスを露出させ、口に咥えた。
「やっ、こら、急に何すんだよ!」
涼矢は上目遣いで和樹を見る。「おまえが余計な話を振ってきただけで、別に急じゃないだろ。腹筋と、どっちがいい?」
どう考えても「余計な話」は涼矢から発せられたと思うが、今そんなことを言えばまた脱線してしまう。「そりゃ、こっち。」
「俺が良いって言うまで、イクなよ。」涼矢はそれだけ言うと、再び口淫を始めた。最初は舌先で亀頭を舐める。
「んっ。」早くも和樹が反応した。口の奥までは咥えない。チロチロと舌先で先端を舐める。たまに、手では根元を押さえつつ、指だけ使って裏筋あたりを撫で上げる。「はっ……くぅ……!」声が漏れ出る口を、和樹は自分の手で押さえた。
そっと涼矢を見ると、長めの髪で顔は隠されて、表情は見えない。セックスに溺れた元カノのミサキはショートカットで、前からサイドにかけての髪の長さは、今の涼矢とあまり変わらない。彼女は、フェラしているうちに落ちてくる髪を耳にかけることがあって、その仕草を、なんとも色っぽく扇情的なものとして和樹は見ていた。今の涼矢も同じ仕草をするし、同じように色っぽいと思う。でも、今の和樹の視野にある、張りだしている肩や、もっと向こうに見える筋肉質な背中は、女の子のそれとは全然違っていた。女の子の細い肩はそっと抱くべきものだった。だが、涼矢に対してはそんなセーブをしなくていい。
和樹は手を伸ばして、涼矢の頭に触れ、髪を軽くつかんだ。涼矢が顔を上げて和樹を見た。舐めるのはやめない。和樹がその様子を見たいのかと思ったからだ。これ見よがしに舌を長く出して、ゆっくりと舐めてみせた。
「おまえがこっち来て、寝て。」和樹が言った。涼矢がきょとんとする。「俺も、やるから。俺が上で。」そこまで言われて、ようやくシックスナインの体勢を求められているのだと理解して、涼矢は言われた通りに、和樹が今まで横たわっていたところに寝そべった。その上に和樹が頭を逆にしてまたがって、涼矢のペニスを口にした。涼矢もまた、自分の鼻先の和樹のペニスを舐め始める。
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