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第198話 GINGER ALE with KABOSU(11)
そこまで涼矢がショックを受けるとは思っておらず、さすがに少々焦る。「なんで? 好きじゃなくなったって言ったから?」
涼矢はうつむいたまま、かすかにうなずいた。
「好きだよ。好きです。すんません、嘘つきました。大好きです。」和樹が慌てて言う。
「うん。」涼矢の手がふいに動き、目頭を押さえた。
「ちょ、あの、泣いてるの?」
それには首を横に振る涼矢。だが、泣きそうだからそんなことをしているのは明白だ。
「だって、そんなの、冗談だって。」和樹はまだ言い訳を続ける。
「分かってるよ、それは、さすがに。」涼矢が顔を上げた。
「今ので、その、泣くって。」和樹はまともに涼矢の顔が見られない。罪悪感もあるが、涼矢の、過剰とも思える落ち込みぶりがにわかには信じがたく、向き合えない。
「泣いてないけど。でも、うん、ヤバイな。」涼矢はボソボソと言う。「思ったより、弱ってんな。」
「よわ、弱って? 涼矢が?」
「和樹だって自分で言ってただろ。弱気になってるって。俺は平気だなんて、思ってねえよな?」
「え。」
「思ってるのかよ。」
和樹は言いにくそうに言う。「だって、おまえは、帰る側で、1人になるわけじゃないし。」
「ひどいね。」涼矢は顔を上げたが、生気はない。「先におまえが置いてったくせに。」
「あのなあ。」
「分かってるよ、和樹と同じだよ、すねてんだよ、分かれよ。」
「すねてるんじゃなくて、淋しがってるんだろ?」
涼矢は枕を和樹に投げつけた。「同じ意味なんだろ、それ。」
和樹は枕をキャッチして、笑った。
「笑うなよ。」
「だってさぁ。」和樹は笑いながら涼矢に近づく。「俺以外、知らないもんな? 無口で無愛想な田崎副部長のね、こういうとこ。」涼矢に口づけた。「大好き。」
「でも、さっきは、好きじゃないって言った。」
「本気のわけ、ないでしょう?」大袈裟に諭すような口調だ。「あんなので泣くかよ、普通。」
「泣いてねえよ。泣きそうだったけど。」
「なんで泣く……いや、泣きそうになるかな。」
「だから、弱ってるの。ヨワヨワなの。自分でもびっくりだよ。」涼矢はベッドから立ち上がった。「まったく、こうなるのが嫌だったから。」独り言のように呟いて、言い淀む。
「嫌だったから、何?」
涼矢はため息をついて、着替えを物色する。「シャワー、先使うね。」
「あ、おいっ。」
涼矢はさっさとバスルームへと消えた。
その後は涼矢と入れ替わりで和樹もシャワーを浴びた。和樹がバスルームから出てくると、涼矢はテーブルの上を指差した。ジンジャーエールが用意されている。涼矢も無言なら、和樹も無言でそれを飲む。「あれっ。味、違うけど?」
「かぼす、しぼった。」
「ああ。だから。」和樹はもう一口飲んだ。数日前に底をついたジンジャーエールの味に、確かに柑橘系の爽やかさが加わっている。「美味しい、これ。」
「うん。こっちはそれよりもっと多く入れた。」涼矢は自分のマグカップを和樹に差し出した。和樹はそれも一口飲んでみる。そう言えば、涼矢用にガラスのグラスを買い足そうと思っていたのに、買い忘れたままだ。
「酸っぱ……くもないか。ちょっと酸っぱいけど、これはこれで美味いな。レモンスカッシュ的な。疲れた時に良さそう。」和樹はマグカップを涼矢に返す。
「うん。」
「美味しいよ。」和樹はもう一度言った。「喜ぶんじゃない? 隣も。」
「だといいけど。」
「あの人の前でキスはしないよ?」
涼矢は黙って微笑んだ。
「でさ。」和樹は涼矢を見つめる。「さっき言いかけてたの、何? 気になるんだけど、ああいう言い方。」
「大したことじゃないよ。」涼矢はシンクに寄り掛かるようにして、立ったままジンジャーエールを飲む。和樹はベッドに腰掛けて。
「大したことないなら、ちゃんと言って。」
「ん。」涼矢は少し考えてから、話し出した。「だからね、2週間って、結構、長いだろ。帰る時に淋しくなるのは予想つくじゃない?」
「短いよ、2週間なんて。あっという間だった。明後日には帰っちゃうし。」
「そうだけどさ。普通は、旅行だって帰省だって、2週間は長いだろ。フランス人のバカンスじゃあるまいし。だから、あんまり、ここでの暮らしというか、和樹と一緒にいることに慣れないでおこうと思ってた。」
「勉強道具持ち込んだのも、それで?」
「うん。もちろん、本当に、勉強しておかなきゃならないから、ってのもあったけど。」
「そうか。」
「まあ、無駄な抵抗だよね。そんなことしたって。焼け石に水というか。」涼矢は髪をかきあげる。
「いいよ、たくさん淋しがってよ。」和樹の言葉に、涼矢は眉を上げて軽く驚いた。「俺だけ淋しいの、嫌だから。」
和樹が笑ってそう言うので、つられるように涼矢も笑う。「うん。そう。……そうだな。盛大に淋しがるよ。だからさ、ちょっとでも好きじゃないとか、冗談でも言わないで。次言ったら、マジ泣きする。盛大に。」
和樹はハハッと声に出して笑った。「分かった分かった。」
「俺の泣き顔見たいからってわざと言うのとか、ナシだからね。」
「うわ、先手打たれたな。」
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