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第201話 GINGER ALE with KABOSU(14)

「ほう。」和樹もニコニコする。 「上機嫌だね、そっちも。」 「そりゃそこまで褒められたらね。俺、単純だし、褒められて伸びる子なのよ。あ、でも、おまえも、そんなことでそこまで喜ぶんなら、案外単純だな。」  涼矢は小首をかしげて、穴があきそうなほど和樹を見つめた。 「なんだよ、じっと見ちゃって。」熱烈な視線に和樹が照れくさそうに言った。まだひっくり返すには早いのを承知で、たこ焼きを竹串でつっついて恥ずかしさを紛らわせた。 「そんな単純なことで喜べるのは、和樹だからだよ? 分かってる?」 「なっ。」 「おまえのそういう、どうでもいいような一言に、俺は一喜一憂してんの。ずっとね。3年と5カ月。」 「どうでもいい一言かよ。」 「そうだろ。キムチが先かスタンダードが先かって、どうでもいいだろ? でもね、おまえが言ったから、俺は嬉しくなるわけ。」 「アツアツの言葉をありがとう。もう、たこ焼くのも熱いし、おまえも熱いし、まいったな、なんて。」和樹は涼矢のほうも見ず、そんな言葉で照れくさいのを誤魔化した。そして、少し早い気もしたが、たこ焼きをひっくり返し始めた。 「和樹はさ、俺への影響力ってものを、過小評価してると思うんだ。」 「な、なんか話が変わった?」数個ひっくり返してみたが、やはりまだ周りが固まりきっていなくて、うまくまとまらない。 「同じ話だよ。そのぐらい、和樹のことが好きって言ってる。」 「それは知ってるし、過小評価もしてねえよ。」和樹はいったん手を止めて、ようやく涼矢を見る。「もうそろそろ、俺の気持ちも同じだって信じて、自信持ってくれないもんかな。」  涼矢は眉をピッと上げる。それから泣きそうな顔で笑った。「それもなかなか熱烈だね。」  涼矢はテーブルの下で、和樹のTシャツの裾をつかんだ。和樹がそれに気付く。「お、なんだ。」 「抱きつきたいけど、今、それ焼いてるから危ないだろ。だから、代わりに。」  和樹はチラリと涼矢を見てから、顔を突き出した。「キスぐらいならできる。」  涼矢がその唇に、そっと触れるようにキスをした。 「おまえにしちゃ随分と可愛らしいキスだな。」 「だって、俺の本気でやって失神でもしたら危ないだろ。」 「どんだけ強烈なキスする気だよ。」 「そりゃもう、すごいのを。」涼矢がそう言うと、2人で顔を見合わせて笑った。  和樹のたこ焼きは順調に進んだ。キムチチーズも涼矢は美味しいと言って食べ、試しにかぼすをしぼって案外悪くないなどと言い合った。具材がほぼ底をついたところで、涼矢はホットケーキミックスとチョコを持ってきて、これは涼矢が焼いた。和樹のやり方を覚えての見よう見まねだったが、きれいな球体に焼き上がると、2人で歓声を上げた。 「鈴カステラみたい。」と和樹が言った。 「ああ、確かに。」 「あち。」と言いながら、和樹は口に入れる。 「チョコ、気をつけて、中で溶けてるから。」 「ん。美味い。甘い。」 「甘いね。ちょっとかぼす入れてみよう。」涼矢は新たな生地を流し込むと、かぼす果汁とかぼすの皮をすり下ろしたものを入れる。それが焼き上がると、涼矢が先に食べてみた。「うん、まあ、爽やかな感じにはなった。これも美味しいけど、俺はチョコのほうが好きかなあ。」 「ふうん。どれどれ。」和樹もかぼすのほうを食べてみる。「あ、俺、こっち好き。」 「じゃ、俺もこっち好き。」 「意見を変えるなよ。」 「和樹と同じがいい。」 「そんなコじゃないでしょ、きみは。いつもは頑固なくせに。」 「でも今は和樹と同じがいい。」 「可愛くねえぞ、そんなこと言っても。」 「和樹が可愛ければ問題ない。」 「何だよ、それ。俺はね、おまえの、その、意見曲げないとこって、結構気に入ってるんだよ。面倒くさい時もあるけど。」 「じゃあ、やっぱりチョコが好き。」 「はえーな!」 「俺は一生何があってもチョコが好きと言い続けることに決めた。」 「いや、そこまで頑固になることじゃねえだろう。」  くだらないことを言い合いながら、夜が更けて行く。いつの間にか、雨は上がっていた。  ベッドで2人並んで横たわり、照明も豆球だけにして薄暗い中、ただ天井を見上げていた。 「明日はモーニングに間に合うよう、起きような。」と涼矢が言った。 「うん。目覚まし、セットした。」和樹が半身を起こして、涼矢に言った。「モーニング行って、それから? どこか行きたいとこある?」 「見たいものは全部見られたから、大丈夫。天気が良かったら、この間の公園でも散歩したり。」 「ジジイかよ。あ、お台場とか行く? つか、ディズニーランドだって日帰りできるよ。」 「ううん、いい。人の少ないところがいい。部屋にこもってたっていいんだ。」涼矢は薄暗がりの中で和樹の手を探り当てて、握った。「2人でいたい。」 「本当にそれでいいの? せっかく来たのに。」 「うん。」涼矢が握っている和樹の手の甲に唇を当てる。「その代わり、甘やかして。明日だけでいいから。」 「分かった。モーニングの帰りに、チョコとアイス、大量に買う。」 「ガーナで良いよ。」  和樹は涼矢の額と頬にキスをした。「アイスは箱入りのハーゲンダッツ買ってやるよ。じゃ、おやすみ。」 「ん。おやすみ。」

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