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第211話 夢で逢えたら(3)

 ボタンを外しながら、和樹はくすくすと笑いだした。 「なんで笑ってるの。」涼矢は体を起こして、ベッドの上に正座した。少し不機嫌そうだ。  和樹も起き上がって涼矢と向き合う。和樹のほうはあぐらをかいた。「だって……マジで効果テキメンだったから。」和樹は残りのボタンもすべて外し終えると、涼矢のシャツを、肩のところから手を差し入れるようにして背後に落とす。「愛してるとか好きとか、今までもなんべんも言ってるだろ。それなのに、そんな、さ。今更じゃない?」涼矢の胸に手の平を当てた。「で、なんで正座してんの? しかも心臓、超バクバクしてるし。」 「……ここに来た時と同じ。緊張してる。」胸に当てられた和樹の手を取り、抱き寄せた。 「今?」 「今。」 「とりあえず正座はやめようか。」今度は和樹が涼矢を押し倒す形となった。涼矢は素直に横になる。耳元で囁く。「なんで緊張するの?」 「夢オチだったらどうしようって。」 「はい?」 「言われ慣れてないから。その、和樹からそういうの。」  和樹は何気なく涼矢の裸の腕を見た。半袖のあたりで色が変わる。そうだ、日焼けしたんだっけ、と関係ないことを思い出す。涼矢の手首を取り、腕の内側を見ると、そこは白い。肘の内側から手首に向かう静脈に沿って、舌を這わせた。「言ってるじゃない、散々。忘れてんの?」  そんな風に舐められても、それに対しては涼矢は無反応だ。「忘れやしないけど、エミリ来てた時に無理に言わせたりとか、あとは……無我夢中の時に言われるから。」などと淡々と言う。  ここに来てからだけでも何度も激しいセックスをしたくせに、今になって愛してるの言葉ひとつに緊張すると言う涼矢。和樹からの愛の言葉には慣れていないと鼓動を速くしながら、腕の裏を舐められても微動だにしない涼矢。そうだ、こいつにはこういう、アンバランスなところがあるんだった。何が地雷で何がツボなのか未だによく分からない。今話題にしている「愛してる」発言だって、どんな反応が返ってくるのかは賭けみたいなものだった。 「ああ、セックスで盛り上がってる最中に。」あえて直截な言葉を使って返す。和樹は今度は涼矢の指を口に入れて舐めた。涼矢がピクンと震える。 「……そうだよ。」 「そういう時に言われても信じられない、と。」 「いや、そんなわけじゃ……。」  和樹は再び涼矢の耳元で囁いた。「愛してるよ。」 「も、もういいから。」涼矢は和樹を押し戻すが、和樹は動かなかった。 「エッチしないでさ、ずっとこうしてよっか? ずっと、言うから。好きって。愛してるって。夢じゃないって分かるまで。」 「嫌だよ。」 「何が嫌なの?」 「だから……。」 「エッチしないのが嫌? 愛してるって言われるのが嫌?」 「おまえ、今日は俺を甘やかすんじゃねえのかよ。」 「だから甘やかしてるじゃない? セックス中に愛の言葉を言われても響かないって言うから、それを尊重して。」 「そんなこと言ってねえし。」 「んー、言った言わないを言い合ってもね、なんだっけ、水掛け論? それよりも、どうしてほしいか言ってみ? 甘やかしてやるから。」そういった言葉もまた、ずっと耳元で言うから、涼矢は耳がくすぐったくて仕方ない。顔の向きを変えようとするが、それもまた和樹に頭ごと押さえ付けられて封じられる。 「なんか、和樹、意地悪だ。全然甘やかしてくれてない。」 「おまえの真似だよ、おまえ、いっつもこんなだよ?」 「嘘だね、俺はもっと優しいね。」 「バーカ、どの口がそんなこと言うんだよ。あ、この口か。」そう言って涼矢にキスをした。 「エッチしないって言ったのに。」 「キスはエッチに入りません。」 「入らないの?」 「入らないでしょ。」 「どこから?」 「エッチが?」 「そう。和樹の定義ではどこからがエッチ?」 「そうだなあ。」和樹は涼矢にまたキスをした。軽い、キス。「こんなのは挨拶。」それから手の甲にキス。「これは丁寧なご挨拶。」再び口にキスをした。今度は舌を出して涼矢の舌先に触れる。「これもまだエッチじゃない。」耳たぶと、それから耳穴のほうまで舐める。和樹は涼矢の身体がかすかに反応したのを知る。「ゾワッとしただろ?」 「……した。」 「キスは、クラッとする時はあるけど、ゾワッとしない。」 「……うん、まあ。」 「ゾワッとしたあたりが、エッチの入口。ドア開けたとこ。」 「へえ。」涼矢は無意識に耳をいじる。「なるほど、そうなんだ。」  和樹はフフッと笑った。「今、思いついたことを適当に言っただけだよ、本気にすんな。」 「それで?」 「ん?」 「ドアを開けたら、次はどうなんの?」 「それ、エッチしたいって言ってんだよな?」 「言ってないよ。素朴な疑問。」 「だめ、今日は許さない。そういう逃げ方。」 「許さないって……。甘やかせよ。」 「ちゃんと言ったら甘やかすよ。激甘のセックスする。ただし、ちゃんと言えば、だよ?」 「和樹、セックスしたい。だからしよう。」 「……ったく、身も蓋もねえな。」 「なんだよ、言われた通りにしてるだろ。」 「ま、それはそうだな。」和樹はさっき自分が乱した涼矢の髪を手櫛で梳くようにして、落ち着かせる。耳のあたりの髪をそっとかきあげて、耳の裏のほうに口づけた。そこからは、例の甘い香りがする。何度もそこにキスしながら、片手で涼矢のズボンを脱がせにかかった。

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