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第213話 夢で逢えたら(5)
「電源切っとこ。」涼矢はそう言ってスマホをオフにして、テーブルに置いた。そこはベッドから手を伸ばせば届く。徹底してベッドから降りないようだ。「なんか半端にシラケたな。おっさんのせいで。」
「せっかくハダカだし、風呂でも一緒に入る? 結局、1回しか一緒に入ってない。」和樹が言った。
「ラブホでも入った。」
「それ入れても2回。」
「おまえが嫌がってたくせに。」
「それはいろいろ、その、おまえに見られたくないっつか、そういう、やることが、あったから。」
「今日はやることないの?」涼矢はニヤリとする。
「……俺って馬鹿だな。墓穴掘った。」
「どっちの墓穴? 既に準備万端なのか、今から準備することを思い出したのか。」
「後者。」和樹は開き直る。
「へえ。」涼矢は和樹の腕をつかむと、グイッと引き寄せ、耳元で言った。「自発的に準備すんだ?」
和樹はわざとらしく、しなを作る。「おまえがやりたいこと、なんでもやらせてやるよ。そのためにな。」
「すげ、シラケてたのに、今ので一気に巻き返した。」
「勃っちゃう?」
「勃っちゃう。」
「でも、またまた、おあずけですよ。」和樹は笑って、ベッドから降りる。バスルームに向かう途中で振り向いて、涼矢に指を突き出した。「ベッドから出ずに待ってろよ。間違っても勉強なんかすんじゃねえぞ。」
「するかよ。」
「おまえ、前科あるからな。」和樹はそう言い捨てて、バスルームに入って行く。
和樹を待つ間、涼矢はただぼんやりとベッドに横たわっていた。はじめから分かっていたことだけれど、考えないようにしていた時が、具体的に刻まれてしまった。予想外に早い出発。もともと自由席狙いだったから、早い時間帯から行動するつもりではいた。でも、心のどこかで、「やっぱり夏休みシーズンの日曜日の新幹線なんて取れなかった」と、帰れない言い訳ができることを期待していたのかもしれない。倉田が、職場の営業職用にキープしてあった指定席券を入手してくるなんて想定外だった。でも、もう決まってしまったことだ。――ということは今日中に荷物をまとめておかなくちゃ。作り置きの総菜をもっと作っておいてやれば良かった。頼まれていたアイロン掛けは全部やったよな。あ、シャンプー残り少なかったはず、ストックはあったっけ……。どうでもいいことが頭の中をぐるぐるする。
「お待たせ。」和樹はバスルームを出てきたかと思うと、ベッドに飛び乗り、両手を開いてみせた。「さあ、好きにしろ。」
涼矢がたまらず吹き出した。「色気ねえなあ。」
「るせえよ。色気出そうが出すまいが、おまえ関係ないじゃん。いつもいつも好き勝手にさぁ。」
「ちょっと黙ろっか。」涼矢は和樹にキスをしながら、和樹を組み伏せた。そのまま、首筋から鎖骨へと舌を這わせる。
「涼。」乳首に差し掛かろうかという時に、和樹が呼びかける。
「ん?」
「縛って。」
涼矢は動きを止める。「ベルトでいいの? この間、擦れてたけど。」
「いい。あ、俺が取ってくる? おまえベッドから出ねんだろ?」
「馬鹿、いいよ。」とは言ったものの、さっき脱いだズボンもベッドの上から手を伸ばせば届く位置にあった。そのことに自分でもおかしくなって、くすくすと笑いながらベルトをズボンから引き抜いた。「ここからでも届いた。」
それを聞いて和樹も笑う。「さては計画的だな。」
「おまえがそんなこと言い出すなんて、計画にはなかった。」言いながら、前回と同じように手首をくくる。
「じゃあ、ついでに。」
「何だよ、プラグか。」
「それもしたきゃしていいけど。」和樹は涼矢を見つめる。「口、塞いで。声、絶対我慢できねえ。あ、パンツ以外で。」
涼矢はついにベッドから降りて、洗面所から薄手のタオルを手にして戻ってきた。それを和樹に示すと、和樹は自分から口を開けた。
「反対、向いて。」
「え?」
「いいから。」
和樹は良く分からないながらも指示通りに反対側を向いた。口にかませて、後ろで結ぶためかな、などと思っていると、予想に反して、視界が急に暗くなった。
「ちょっ、違う、目隠しじゃなくて……。」
「俺のやりたいようにやっていいんだろ?」涼矢は和樹の後頭部で布の端を縛った。
見えない中で、和樹はさっきの向きに戻る。そうしながらなんとか結び目に手を伸ばそうとするが、拘束されていては無理だった。「おい、これはちょっと。」
「布つっこんだぐらいじゃ声はごまかせないよ。それに、この間は短時間だったからいいけど、窒息しちゃうかもしれないしね。」
「や、でも、マジで怖いんだけど。」
「ホントだ、ちぢんじゃった。」涼矢は和樹の股間に手を伸ばす。
「馬鹿、てめ、ふざけんなって。」
「ふざけてないよ。」
「余計怖えよ。」
「和樹が気持ちよくなることしかしないから。」涼矢は和樹のすぐ後ろに枕と布団を丸めたものを置き、静かに和樹を横たわらせた。枕と布団で、和樹は角度がついた状態で安定する。涼矢は和樹の両足首を握り、ゆっくりと左右に開かせた。
「やだ、マジで、本当に、やめて。」
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